--- 素朴な疑問集 ---
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疑問No.217 (2002.09.26)

Q. はにわにはさんからの疑問

 さっそくですが、アルファベットは何の順番で並んでいるのでしょう?
 母音と子音に分かれているわけでもなく、「いろは」みたいに文章になっているわけでもないようですし……。
 みなさん、ぜひ、教えてください。

背の順? ……じゃないですね。(星田)


A. Issieさんから

 現在のローマ字(ラテン文字)のアルファベットは、古代のローマ人たちが自分たちの言語であるラテン語を表記するためにギリシア語のアルファベットを改良したものです。
 ギリシア語のアルファベット(ギリシア文字)は、現在のレバノンのあたりを本拠地に、古代のギリシア人よりも一足先に地中海交易に進出していたフェニキア人たちのアルファベットを改良したもの。そして、そのフェニキア文字は結局のところ、古代エジプトの象形文字(ヒエログリフ)にまでさかのぼります。ヒエログリフは本来、漢字と同じ「表意文字(表語文字)」でしたが、フェニキアに入るまでに「表音文字」となりました。
 古代のエジプト語やフェニキア語、そして現代でも話されているヘブライ語やアラビア語などでは、「子音の組み合わせ」で単語の基本的な概念を表わし、子音の間にどのような母音を入れるかで単語のより細かい意味を表わす、という構造になっています。どのような母音を入れればよいかは文脈で判断されるので、1つ1つの母音を厳密に表記する必要はない、と判断されたようです。
 したがって、ヒエログリフ以降のエジプトの文字も、フェニキア文字、ヘブライ文字、アラビア文字のいずれもが、アルファベットの中には母音を表わす文字がありません。ただし、日本語のかなの濁点のように、ヘブライ文字やアラビア文字では母音を表わすための記号が後から付け加えられています。
 というわけで、ローマ字のアルファベットはフェニキア文字に由来し、その順番もフェニキア文字以来のものです。源を同じくするヘブライ文字やアラビア文字のアルファベットの順番も、したがってローマ字と同じです。
 じゃあ、フェニキア文字のアルファベットの順番は?というと、これがわかりませんでした。「’」「b」「d」「g」……と続くのですが、法則性があるような、ないような……。
 ともかく、このフェニキア文字が古代ギリシアに輸入されてギリシア文字となりました。A(アルファ)〜T(タウ)がこれに当たります。
 ところが、ギリシア語を含め、インドからヨーロッパにまたがる多くの言語が属するグループでは、フェニキア語やヘブライ語、アラビア語などと違い、母音がとても重要な役割を果たす言語なので、子音しか表わさないフェニキア文字をそのまま使用することができませんでした。
 そこで、ギリシア語の表記には必要のない文字や母音に近い子音を表わす文字などを「母音専用」の文字に転用しました。A(アルファ)、E(エ・プシロン)、H(エータ)、I(イオタ)、O(オ・ミクロン)がそうです。さらに、ギリシアでは、Υ(ユ・プシロン)、Φ(フィー)、X(キー)、Ψ(プシー)、Ω(オー・メガ)という文字が新たに作られてアルファベットの末尾に追加されました。
 というふうにして完成した現在のギリシア・アルファベットは、当時のギリシア東部の方言のものです。後のギリシア語の標準となったアテネなどの言葉がこのグループに属していたので、アルファベットもこのグループのものが標準となったのです。
 ところが、西部ギリシアでは東部とは若干違ったセットのアルファベットができあがりました。たとえば ks という子音を表わすのに、東部では「Ξ」という文字を使用するのに、西部では「X」を使用する――などというように。あるいは「F」や「Q」のように、東部ギリシアでは使われなくなった文字が西部ギリシアでは使われる、などということもありました。この西部ギリシアのアルファベットがイタリア半島の住民に輸入されました。
 古代ローマ人たちはギリシアから直接アルファベットを輸入したのではなく、北に隣接して勢力を持ち、初めはローマよりも優勢であったエトルリア人からアルファベットを輸入したと考えられています。いずれにせよ、それは西部ギリシアのアルファベットを、エトルリア語、そしてラテン語を表記するのに都合がよいように改良されたものでした。同時に、字の形も若干変更されました。それが ABCDEFHIKLMNOPQRSTV の各文字です。「C」はギリシア文字の「Γ」が変形したものです。はじめはこの文字だけで「g」と「k」の両方の子音を表わしていたのですが、それでは不便なので
「C」に線を1本加えて「g」専用の「G」という文字が考案され、ギリシア語には必要でもラテン語には必要のない「Z」の位置に挿入されました。
 後にローマ人がギリシア人と接触してギリシア語の単語をそのまま輸入するようになると、そのためにギリシア・アルファベットから「X」「Y」「Z」の3文字が末尾に付け加わりました。いくつかの言語で「Y」を「イ・グレック=ギリシアのY」と呼ぶのはその名残です。「I」と「V」は元々は母音と子音の両方に使用されていましたが、中世以降
それぞれを書き分ける習慣ができあがり、「J」と「U」が独立した文字として扱われるようになりました。
 さらにイングランドでは「w」という子音(半母音)を表記するために「二重のV」つまり「ダブル・ユー:W」という文字が考案されて「V」の後に挿入されています。この便利な文字は、やがてイングランド語(英語)だけでなく、ドイツ語など周辺の言語にも採用されることになります。
 こうして A〜Z というローマ字のアルファベットが成立しました。同じように、東ヨーロッパのスラブ系諸語を表記するためにギリシア文字を改良して考案されたキリル文字も、したがって同じ順番で並んでいます。ロシア語のアルファベットは、このキリル文字の改良版です(広い意味では「キリル文字」に含まれます)。
 ただし、エトルリア人やローマ人がギリシア文字を輸入した頃とキリル文字が考案された頃とでは、ギリシア語自体の発音が変わってしまっているせいで、ローマ字のアルファベットとの違いが少なからずあります。「B」という文字が「b」ではなく「v」を表わし、「b」についてはすこし変形した「Б」という文字を作って「A」と「B」の間に挿入する、というように。そして、スラブ系諸語はギリシア語やラテン語よりも音の種類が豊富なので、そのために考案された文字(「Ц」以降)が「X」の後に追加されています。

注:「’」は、「口の前の方で発音する母音」という意味の記号です。これを表わす文字がギリシアで A という母音を表わす文字に転用されました。同じく「‘」という記号もあり、こちらは「のどの奥の方で発音する母音」という意味で使われます。これを表わす文字がギリシアで、「O」という母音を表わす文字に転用されました。

筧 通文さん、風の天使さん、半蔵門さん、
 他のみなさんからも、回答をいただきました。ありがとうございました。