Q. ドッペルゲンガーさんからの疑問
前から気になってたんですが、星までの距離は一体どうやって測ってるんですか?
地球からすごく遠い星までの距離なんて、一体どうやって測ってるのか見当もつきません。どうやって星までの距離を割り出したのか、誰か、分かりやすく説明してください。
★詳しい方なら、何でもない質問なのかもしれません。しかし、問題は、それをいかに易しく説明できるかです。(星田)
A. 綾川さんから
いちばん原始的な方法は「年周視差」と言われる、地球が太陽の周りを1年掛けて移動(公転)していることを利用した三角測量です。
地球の公転軌道半径は約1億5千万kmですから、半年後の地球は現在地から約3億kmの地点に移動していますので、ある星が現在見えている角度と、半年後の角度は微妙に異なっています。これを精密に観測すれば距離を割り出すことができます……が、この方法で計れるのはせいぜい300光年くらいまでです。
それより遠い星の場合は、変光星や超新星の「絶対光度」を用いて距離を割り出します。これは、同じ100Wの電球でも、1m先にあるものより10m先にあるものの方が暗く見えるのと同じ原理です。
銀河や星団の中から「このタイプの星は間近で見た場合の明るさ(絶対等級)はこのくらいだ」と判っている変光星や超新星を探し出せば、それがどれだけ暗く見えるかによって距離を割り出せるわけです。
詳しくは下記ホームページを参照してください。
名古屋大学 宇宙物理学研究室
http://www.u.phys.nagoya-u.ac.jp/asca_html/sz/distance_ladder.html
A. 杉野実さんから
全然専門家ではありませんが、アマチュアとしてもっとも関心をもっている分野のひとつなので、お答えします(じつは「距離の求めかた」など、なかなか正面きって書いてある本はないのですが……)。
「天体までの距離」の求めかたには、おおまかにいって5段階があるようです。
(1)まず、太陽系内の天体の場合。地球上の異なる2点から天体をみたときの位置のずれ(これを地心視差といいます)から計算するのが基本です。観測データにもとづく軌道計算のほか、明るさの検討などを積み重ねてみ、求めていることもあるでしょう。
(2)太陽系外のごく近距離の恒星だと、地球の公転によりみえる位置がすこしだけ(角度にして、1度の数千分の1から数万分の1)ずれるという、「年周視差」から距離がわりだせます。でもこれだと、数光年からせいぜい数十光年あたりまではかれません。
(3)銀河系内の比較的近距離のところ、つまり数百光年から数千光年くらい離れた恒星までの距離が、いちばん厄介で、決定的な方法がありません。できるだけ多くの恒星を観測して、光の「スペクトル」などをとって、理論的な検討も積み重ね、現在のところいちばんもっともらしい「モデル」から割り出される「理論上の明るさ(これを「絶対等級」といいます)」と、実際に観測される明るさとを比較して、距離を算出しているというのが実情でしょう。
(4)「モデル」としてよく知られている種類の恒星として、「ケフェウス型変光星」というのがあります。これは明るさ周期的に変える変光星ですが、現在の理論では、その周期と「絶対等級」とのあいだに、ある関数関係が成り立つとされています。銀河系内の遠距離なところや、銀河系外の比較的近距離の領域、たとえば球状星団やちかくの小宇宙など、数万光年から数百万、数千万光年あたりまでの距離は、この「ケフェウス型変光星」の明るさから算出されます。
(5)しかし、億光年のオーダーとなると、この「ケフェウス型変光星」も観測できません。そこで今度は、遠くにある天体ほど速い速度でとおざかっているように「みえる」という、「ハッブルの法則」を利用するのです。物理学でいう「ドップラー効果」により、光の「スペクトル」をとると、全体に波長がのびて赤領域の成分がおおくなっていれば、それだけその天体は「速く遠ざかっている」、つまり「遠くにある」ことになります。そうやって求めた「宇宙の果て」は数百億光年先で、数百億年まえに「ビッグバン」があったという話も、実はそこから逆算されたものなのです。
A. ルネぞうさんから
素人答えなので穴はあると思いますが、ご容赦を。
太陽系内の惑星の距離は測り方が違うので今回は割愛です。きっと他の人が説明いてくれていることでしょう。
今回は遠く離れた恒星の距離のはかり方についてです。
まず、星との距離が比較的近い方(500〜1000光年程度まで)から説明します。
「三点測量」という測量方法をご存じでしょうか? 星の距離もこの方法を用いて測ります。たとえば顔の正面五pぐらいにに人差し指を立てて片目で見てください。次に反対の目で見てください。指の位置がずれて見えませんでしたか?
次に腕をめいっぱい伸ばして同じことをやってみてください。ずれが小さくなりませんか?
このようなずれを「視差」といいます。これは観測場所の二点間の距離が離れているほど大きくなり(今回は目の間の距離ですから15cmぐらいかな)観測対象までの距離が大きいほど小さくなります(腕を伸ばすほどずれは小さくなりましたね)。
星の距離を測る際、に二点間の距離に相当するのが地球の公転の直径です(実際には公転軌道は楕円なのでいちばん長い方(長径)でとります)。地球は半径約1億5千万qの円(に近い楕円)を描いて太陽の回りを回っていますから、半年前の位置とは約3億キロ離れた場所にいることになります。そこで半年前に見えた星の位置と今見える星の位置を比べると、星の位置には差が出ます。しかもこの差は、近い星ほど大きく、遠い星ほど小さくなるはずです。
下記のページにいってみてください。
http://www.slit-ray.sccs.chukyo-u.ac.jp/system/sokuryo.htm
この図のLが地球の公転直径、Dが星までの距離になります。右上の式に値を代入することによって星の距離は計算できます。
次に、この方法でははかれないもっと遠い星についてです。
光の強さは光源からの距離の二乗に反比例して弱くなっていきます。つまり、星の本当の明るさ(絶対等級)がわかれば、見かけに明るさとの関係によって距離が計算できます。
距離のわかっている星の絶対等級を調べたヘルツシュプルングとラッセルは、大部分の星(主系列星と呼ぶ)は色と絶対等級の間に一定の関係があることに気づきました。
星の色は、星の表面温度で決まります。たとえば鉄を熱したとき、最初は赤外線が出ますが、やがて赤くなります。さらに温度をあげると白くなります。このように温度が上がると、高温の物体の色は赤から白へ、白から青へと変化します(さらに高温になると紫外線なども出始めます)。
これと同じように、星の色(正確には、星から来る光がどんな波長のものを含んでいるか、「スペクトル」と言う)は星の温度で決まります。大きな星ほど中心の圧力が高く、結果として温度も高くなるので、明るさと表面温度に関係ができるのです。
二人の書いたグラフは彼らの頭文字をとってHR図と呼ばれます。これから逆に、色がわかれば絶対等級が推測できるようになります。さらに絶対等級と見かけの等級から距離が推測できるようになりました。
しかし、遠い星の色(正確に言うとスペクトル)を判断するのは、いろいろな障害があります。まず、星の光が長い距離を通ってくる間にあるガスなどの影響で色が変わってしまうこと。主系列から外れた星については絶対等級の推測がむずかしいこと。そして、最後に、星雲のような星でないものについては距離が測定できないことです。特に星雲の距離の問題は、例えばアンドロメダ星雲が銀河系内にあるのか、銀河系の外にあるのか、というような長い論争を生んでいます。
HR図から離れる星の中に「ケフェウス型変光星」と呼ばれるものがあります。名前の通り、ケフェウス型変光星の明るさは周期的に変化します。この周期と絶対等級の間に関係があることが見つかりました。周期が長いほど明るいのです。これは大きな星ほどゆっくりと振動すると考えれば説明がつきます。そこでケフェウス型変光星に関しては、たとえ距離がわかってなくても周期を測定することで絶対等級がわかるようになりました。
ありがたいことに、アンドロメダ星雲やマゼラン星雲などの中にもケフェウス型変光星があるのが発見されたので、これらの星雲までの距離が正確に測定できるようになり、我々の銀河系の外にあることがはっきりしました。
ところで最初の測定では、このケフェウス型変光星の絶対等級の測定を失敗しました。星間物質による吸収で暗くみえることを考慮にいれてなかったためです。最初に小マゼラン星雲までの距離を計算したのはヘルツシュプルングでしたが、彼は3万光年という答を出しています(現在の値は20万5千光年)。そのため、
「我々の銀河はアンドロメダ星雲などの他所の銀河に比べて大きい、特別な銀河である」
と昔は思われていました。現在の測定では、そんなことはないことがわかっています。
A. うにうにさんから
星までの距離を知るには、まず地球の公転軌道の大きさ(半径)を知る必要があります。この値を用いれば、近い星については三角測量の原理で(注:三点測量とはいわない)実際の距離が求まります。また、それより遠い星については別の方法があります。
これらの方法は、すでに他の方がお答えになっています。
ただ、肝心の「地球の公転軌道の大きさ(半径)の求め方」が今までの回答では出ていませんので、その一点に絞ってお答えしましょう。
太陽系には惑星が9個あります。まずはこれらの惑星を観測するところから始まります(といっても地球自体は観測できませんが)。ここでは火星を観測することにしましょう。火星は、ある時は太陽と同じ方向にみえ、またある時は太陽から離れた方向にみえます。
今年(2003年)の8月下旬には、ちょうど太陽と反対側にみえるので、日没とともにのぼってきて、一晩中見えています。このような火星と太陽との位置関係を「衝」(しょう)といいます。火星が地球にいちばん近いところに来るのはこのころです。
さて、地球も火星も太陽のまわりを回っています(公転)。1周公転するのにかかる時間(公転周期)は、地球の場合はもちろん1年です。火星の場合は、地球より外を回っているので、1年より長くかかります。つまり、衝のときは地球と火星は並んで太陽の回りを走っていますがすぐに地球のほうが抜かして先を進むようになります(陸上競技のトラックを二人が併走しながら抜かす場面を想像してください)。
さて、火星を観測し続けていると、火星は地球よりだんだん遅れていきますが、1周遅れになると、両者はふたたび隣り合い、「衝」になります。衝から次の衝までの時間を「会合周期」といい、火星の場合は約780日です。 次に、この数字から、火星の公転周期を求めます。それには
(1/会合周期)=(1/地球の公転周期)−(1/火星の公転周期)
という公式を用います。
今の場合、会合周期=780日、地球の公転周期=365日ですから、
1/780=1/365−1/x
より、x=686(日)となります。(実際には惑星の公転軌道は円ではなくて楕円なので、会合周期もその時々で多少変化するのですが、話を簡単にするため円軌道と考えています。また、地球より太陽に近いところを回る水星・金星の場合は、今の話を多少修正する必要がありますが、ここでは省略します。)同じような観測を、他の惑星についても行うと、各惑星の公転周期が求まります。
次に使うのは、惑星の運動に関する「ケプラーの第3法則」です。
「公転周期の2乗は、太陽からの平均距離の3乗に比例する」
というものです。これを使えば、各惑星の公転周期から、各惑星の太陽からの距離の比率が求まります。
たとえば、太陽〜地球の平均距離を1として、太陽〜火星の平均距離をxとします。すると,
365^2 : 686^2 = 1^3 : x^3
(^2は2乗、^3は3乗と読んでください)
という式になります。これを解くと,
x=(686^2/365^2)^(1/3)=1.52…
となります。他の惑星についても同様に,太陽〜水星=0.39,太陽〜金星=0.72などとなります(およそ)
あとは、どこか一か所(たとえば太陽〜地球でも、また地球〜火星でもよい)の実際の距離が分かれば、他の距離も出ますね。
そこで使われたのが、三角測量の原理です。
たとえば火星が衝の時、地球上の2点から同時に火星を観測し、そのずれの大小で、火星までの距離が分かります。火星が衝のときは、地球と火星は軌道上ですぐ横に来ています。このときの角度のずれを観測する場合、なるべく地球上で離れた2点で観測したほうが、ずれが大きくなるので観測しやすくなります。いちばん遠い2点は、お互いにちょうど地球の反対側にくる2点(たとえば北極点と南極点)となり、この場合の両者間の距離は、地球の直径(約12700km)に等しくなります。
もしそういう2点で観測したとしても、ずれの角度は(平均して)約33″という小さなものです。1°のわずか120分の1です。また、最接近したときに見える火星の見かけの直径のおよそ1.5倍です。
つまり、星空の中でこんなふうに見えるわけです。
★ ☆
★ ←他の星はみな遠くにあるので、見え方は同じ
★
● ←南極では火星はここにみえる
☆
● ←北極では火星はここにみえる。
★
☆
このずれの角度から、地球〜火星間の距離(いちばん近づいたとき)を求めると、12756km÷sin33″=約7834万kmとなります。(実際には、前述のように軌道が楕円のため、衝のときでももっと近づく時や、あまり近づかないときがあります。今年8月の接近は、5500万kmまで近づく大接近です。)
さて、太陽〜地球=1とすると、太陽〜火星=1.52でしたから、7834万kmが0.52に相当します。したがって、太陽〜地球の距離=7834万km÷0.52=1.5億kmとなります。
なお、最近では(といってもここ40年ぐらい)、地球から金星や火星に直接電波を送り、反射して戻ってきた電波をレーダーでキャッチして、所要時間から距離を直接計算しています。
それにもかかわらず、長々と古典的な方法を紹介したのは、「電波観測などという技術がまだない頃に、すでに太陽系の大きさが求まっていた」という事実のほうが、ちょっとすごいことなのではないかと思ったからです。
★やまおさん、毫痢さん、麻生有美さん、その他のみなさんからも、回答をいただきました。ありがとうございました。
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