--- 素朴な疑問集 ---
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疑問No.296 (2003.09.04)

Q. 時さんからの疑問

 前から気になってたことがあります。
 昔の人は「い」と「ゐ」、「え」と「ゑ」を使い分けてたんですよね? そこでききたいんですが、これらはどう違うんでしょうか?

「お」と「を」は、かろうじて、現存していますね。(星田)


A. JH9IFGさんから

「い」と「ゐ」、「え」と「ゑ」の使い分けについてですね。「和文通話表」という「電報」通信方法にも残っています。

「い」・・・「いろはの[イ]」
「ゐ」・・・「井戸の[ヰ]」
「え」・・・「英語の[エ]」
「ゑ」・・・「かぎのある「ヱ」

 戦前までの「歴史的仮名遣い」を、国語でしっかり教わった方々には、多分当然のように使い分けができるようです。
「ゐ」や「ゑ」の使いわけを、勉強したいと思った方は、「古文」の勉強をしっかりやっておきませう。

A. うめねずさんから

「い」「え」は「あ行」、「ゐ」「ゑ」は「わ行」に属する音です。単純に考えると「ゐ=wi」「ゑ=we」なのではないでしょうか。
 似たような疑問としてよく目や耳にしたりするものに、
「『王様』を平仮名では『おうさま』と表記するのに、『大きい』はなぜ『おおきい』になるの?」
というのがあります。
 実は、旧仮名遣いで「大きい」を表すと「おほきい」になるのです。かつての発音はそのまま「おほきい」だったわけです
 つまりは、発音に忠実にしたがえば、「い」と「ゐ」、「え」と「ゑ」は本来別物であるということです。

A. だいてんさんから

 もともと、「ゐ」や「ゑ」は、「い」や「え」とは発音の違う、別のかなだったのです。ワ行イ段が「ゐ」、エ段が「ゑ」です。「うぃ」「うぇ」といった発音だったのです。
 それが、時代が下るにつれて、「い」や「え」の発音と混同されるようになり、ついには発音が一緒なら文字を別にする必要はない、ということで「ゐ」や「ゑ」は消え去ることになったのです。
 このように、もともと別の文字だったのですから、「使い分け」など存在しません。アメリカ人に「LとRはどう使い分けてるの?」と質問するのと同じです。

では、発音が一緒になってしまった現在、もともとは「ゐ」「ゑ」だったのだ――というのは、どうやって判別できるのでしょうか? う〜ん。(星田)

A. 火炎童子さんから

「い」と「ゐ」、「え」と「ゑ」の使い分けは、平安時代から1946年7月の内閣告示の『現代仮名遣い』が出されるまで、国民全部(小学生まで含めて全部)が実行していました。
 もちろん全部といっても、書き違える人もあり、別の主張をする人(たとえばローマ字を国字にせよという人たち)もあり、100%とは言えませんが、99%以上の国民は使い分けをしていました。
『現代仮名遣い』は法律でもないので、守らなくても処罰されません。しかし、現実には、憲法などの法律・新聞・雑誌・教科書・入試問題・卒業証書・契約書など圧倒的におおくの文章が、この仮名遣いに従っています。
『現代仮名遣い』は現代語の音韻のとおりに書き表すのが原則ですが、いっぽうで昔からの習慣による書きかたも尊重しています。それは案外むずかしいことで、矛盾があります。
「い」と「ゐ」は昔は発音が違っていましたから、(i、wiのように)簡単に書き分けていました。それがだんだん発音が似てきて、ついに発音の使い分けができない人のほうが多くなりました。
 そこで、「い」一字あればいいという内閣告示が出たのです。「え」「ゑ」も同じです。
 これで簡単、便利になったようですが、もともと発音が異なっていたのは意味が異なっていたからで、不都合もあります。「井戸(ゐど)」と「緯度・異土(いど)」を全部(いど)にすれば、時に誤解も生じます。「会社にいる人」は「ゐる(居る)」「いる(要る・入る)」のどれか、迷う可能性もあります。
 もっと大きな問題として、『現代仮名遣い』で育った子は古典の文章を読むとき、その分だけ苦労が多くなりました。国民が古典から遠ざかることは、残念なことです。
 格助詞の「を」は「お」と同じ発音をする人が大多数になったとはいえ、「餅お供え」が「餅を供え」か「餅・お供え」かすぐには判読しにくいし、「これお父さんに」は「これを、父さんに」か「これ、お父さんに」かわかりにくいので(もっとよい例がありそうです)「を」が残されています。これは、発音どおりという原則と矛盾しています。
 他にも問題がありますが、使って五十数年たって、定着の度が進んだことは事実です。

A. うにうにさんから

「い」「ゐ」、「え」「ゑ」の使い分けですが、本来ならば「歴史的仮名遣い(いわゆる旧仮名のことです)」として全体をきちんと学ぶべきもので、そうすればこれらの4文字の使い分けも、おのずと身につくものでしょう。つまり、これらの4文字だけ使い分けることができても、「今日」(けふ)を「きやう」とか、「〜でせう」を「でしやう」などと書いていたのでは意味がないと思います。
 ただ、ここで歴史的仮名遣いの全貌を説明することは、質問に対する回答の範囲からも外れますし、膨大な量になりますので、とりあえず「い」「ゐ」、「え」「ゑ」に関係する部分のみ説明します。
 まず、歴史的仮名遣いを学ぶに当たって、和語(やまとことば)と漢字語(漢字の音読みの言葉)を区別して考えましょう。
 和語の書き方は、ある程度、理屈で判断ができます。一方、漢語の書き方(字音仮名遣い)は、あまり理屈が通用しません。
 たとえば、「コウ」と読む語でも、工は「コウ」、光は「クワウ」、甲は「カフ」と書き分けます。なぜかと問われると、「昔の中国語がそれに近い発音だったから」というしかありません。もっとも、漢字の「つくり」の部分が同じであれば、読みも同じである可能性が高いので、光が「クワウ」なら洸一は「クワウイチ」だろうな、ぐらいのことは判断がつきますが。(ちなみに、韓国語の発音を知っていると、例えば、工kong、光kwang、甲kapのようにそれぞれ違いがあり、かなり日本語の字音仮名遣いと対応関係が見られるので、ある程度推理できます。)

 そこで、以下では和語を中心にして説明します。

●「い」と発音する字には「い」「ひ」「ゐ」があります。概ね、語頭では「い」、語中・語尾では「ひ」が使われます。
 戴く(いただく)、恋(こひ)、思出(おもひで)

例外1.語頭の「ゐ」
・名詞:井戸(ゐど)、田舎(ゐなか)など
・動詞:ワ行上一段活用の動詞
    居る・射る(ゐる)
(語頭の「ひ」を「い」と読むことはありません。)

例外2.語中・語尾の「い」
・全ての形容詞:赤い(あかい)、青い(あをい)、恐い(こはい)、眠い(ねむい)など
 (ときどき「こはひ」」などと書いているインチキ旧仮名を見かけますが、誤りです。形容詞の終止形は絶対に「ひ」にはなりません。)
・動詞:ヤ行上一段(文語では上二段)活用の動詞
   老いる、悔いる、報いる(3語のみ)
    文語体ではで「老ゆ」「悔ゆ」「報ゆ」と活用するので、ヤ行であることが明らかです。
    五十音でヤ行は「やいゆえよ」ですので、「ひ」や「ゐ」にはなりません。
 全てのイ音便:空いた(あいた)←空きたり、埼玉(さいたま)←さきたま、
  書いて(かいて)←かきて、など

例外3.語中・語尾の「ゐ」
・名詞:紫陽花(あぢさゐ)、紅(くれなゐ)など
・動詞:ワ行上一段活用の動詞
   率いる(ひきゐる)、用いる(もちゐる)、
   参る(まゐる)など……古文を学習すれば出てきます。
    なお、「用ゐる」は「用ふ」というハ行上二段の形もありますので、「もちひて」などは誤りではありません。ただし終止形は「もちゐる」。

 その他、詳しくは辞書を見ていただくことにして、この程度だけでも頭に入れておけば、あとは文語文法の知識を活用することで、「い」「ひ」「ゐ」、「え」「へ」「ゑ」に関しては正しく書き分けることができると思います。
 ちなみに、戦前の人でもみんなが当たり前のように歴史的仮名遣いを書けていたかというと、必ずしもそうではなかったようです。そんなときに頼れる簡便な辞書(言葉の説明はほとんどなく、仮名遣いと漢字表記だけの、いわゆる「字引」ですね)もいろいろと出ていたようです。

●「え」と発音する字には「え」「へ」「ゑ」があります。
 概ね、語頭では「え」、語中・語尾では「へ」が使われます。
 江戸(えど)、上野(うへの)、支え(ささへ)

例外1.語頭の「ゑ」
・名詞:餌(ゑ)、絵(ゑ)など
・動詞:笑む(ゑむ)、彫る(ゑる)、酔う(ゑふ)、ゑぐい、ゑがらっぽい、など
  いずれも、weと発音すると、一層その言葉の表す感じが強調されるような気がします。
(語頭の「へ」を「え」と読むことはありません。)

例外2.語中・語尾の「え」
 名詞:丙午(ひのえうま)…語源的には「火」の「兄」(え)だそう
  ですから、実はこの「え」は語頭なのです。きのえ、みづのえ、なども同様。他に、動詞から転用した名詞がいろいろありますが(「覚え」など)、
  次の動詞の項で説明します。
 動詞:ア行下一段(文語では下二段)活用
    得る(える)、心得る(こころえる)
   ヤ行下一段(文語では下二段)活用
    癒える(いえる)、凍える(こごえる)、冷える(ひえる)、
    脅える(おびえる)、聞こえる、見える、消える、覚える、
    吠える、越える、栄える、燃える、潰(つい)える……
   これらは文語では、「いゆ」「こごゆ」「ひゆ」などとヤ行に活用します。

Iron Heartさんからも、回答をいただきました。ありがとうございました。