Q. 雑学幼稚園生さんからの疑問
テレビの気象や地震情報の放送で、
「気象庁では、○○に注意するよう呼びかけています」
と言ってますが、どんな方法・手段で「呼びかけている」のでしょうか? 放送局や新聞社、自治体などに伝えるだけで、呼びかけたことになるのでしょうか?
中央官庁などが一般国民に「呼びかける」手段など持たないのに、「呼びかけた」と表現するだけで、自己満足しているのではないでしょうか?
★狭い範囲なら、町内放送とかありますけどね……。(星田)
A. ごまさばさんから
行政等が「呼びかける」というのは、公告すると言うことだと思います。
たとえば、財布を落としてそれが警察に届けられると、半年間公告されます。また、裁判所では掲示板に、
「○月○日○時に裁判所まで来てください」
と言う趣旨で特定人を呼び出したりしているようです。
気象庁などからの注意の呼びかけなんかも「公告」だと思うのですが、「公告」とは、「全ての人に伝えた」という意味あいがあると聞いたことがあります。
今回の疑問の場合、中央官庁は自分の掲示板等に公告すれば、それで全ての人に伝わった(告知した)としているのだと思います。
実際は伝わらないこともあるでしょうけど、「公告」すれば役人の責務はこれで果されたと言うことになる便利な言葉のようですね。
逆に言えば、知らない方が悪いってことになるんじゃないですかねー。
A. うにうにさんから
この疑問のポイントは、2つあります。
1つめは、気象庁が「呼びかけた」という表現は、国民に対して直接呼びかける手段をもっている場合にかぎって使うべきなのに、そうでないケースにも使っているのは、気象庁の自己満足である、という主張についてです。
これは結局、ことばの受け止め方の問題ですので、主観的になってしまいますが、私はこのような場合でも「呼びかけた」といってかまわないと思います。
たとえば、アメリカの大統領が執務室の椅子に腰かけて、よく演説をしています。
「ブッシュ大統領は、ホワイトハウスで演説を行い、テロリズムに対して一致団結して毅然とした態度を取るように、アメリカ国民に向かって呼びかけました」
という言い方はどうでしょうか。
アメリカにも国営放送(VOA)はありますが、これは外国向けですので、多くの国民は、CBS,
ABC, NBC, CNNなどの民間放送を通じて演説を聞くことになります。しかし、その演説の内容が「国民に向かって呼びかける」ものであり、また結果的に多くの国民がそれを見聞きすることになる以上、「呼びかけた」という表現でも構わないと思います。
それとも、法律などで「大統領の演説は、すべてのメディアが他の番組に優先して放送すること」とか、「国民は大統領の演説の時間になったら仕事をやめてテレビを見ること」のように義務づけないかぎり、「呼びかけている」といってはいけないのでしょうか。
気象庁の場合も、たとえ間接的であっても地域の住民に対して、注意や警戒を呼びかけている以上、そのような表現が不当とは思われません。
第2に、情報を伝えるルートについて。
気象業務法という法律があります。
この第13条第3項には、
「気象庁は、……自ら予報事項及び警報事項の周知の措置を執る外、報道機関の協力を求めて、これを公衆に周知させるように努めなければならない」
という規定があります。
また、第15条では、気象庁が警報を発令したときや解除したときは、
「直ちにその警報事項を東日本電信電話株式会社、西日本電信電話株式会社、警察庁、海上保安庁、国土交通省、日本放送協会又は都道府県の機関に通知しなければならない。」
となっています。
そして、同じ第15条の第2項では、NTT、警察庁、都道府県は直ちに市町村に知らせること、と規定され、第3項では、市町村長は直ちに住民に周知させること、となっています。
これに基づいて、市町村では、たとえば防災無線や有線放送などで流したり、広報車を巡回させたりするわけです。
第6項では、NHKは直ちに放送すること、という規定があります。警報が出たり解除になると、NHKはラジオでもテレビでも、必ず番組に割り込んでそのことを知らせますが、それは法律で義務づけられているからです。
NHKに入局すると、最初の研修のときに、この規定の説明があり、
「NHKは単なる放送局ではない。防災機関でもある」
ということを学ぶのだそうです。
また、気象情報を伝えるのは、放送局や行政組織だけではありません。民間にも気象情報を提供するさまざまな業者があり、気象予報士がテレビに出演したり、インターネットや携帯電話などで気象情報を流したりしています。
予報業務を行うには気象庁に登録する必要があり(2003年9月現在、53の業者が登録されています)、また第20条では、警報を利用者に迅速に伝達するように努めることが義務づけられています。
テレビ局の中には、気象予報士を社員にもっていて、独自の予報を行うことができるところがありますが、こういったところは、警報をすみやかに放送す
る義務を負っているわけです。また、そうでない報道機関であっても、自然災害に関する情報は高い優先順位で扱われることはご承知のことと思います。
さらに、「中央官庁などが一般国民に「呼びかける」手段など持たない」と決めつけられましたが、気象庁がみずから、国民に情報を直接伝えることもあります。
気象予報士という制度がないときは、台風が接近したりすると予報官がよくニュースに現れて、大きな黒板を背にして勢力や進路予想などを説明していました。今は、予報士が説明してくれるので、彼らは予報業務に専念できるようになりました。
気象庁のインターネットサイトは、以前は単なる組織の説明や気象・地震の簡単な知識の解説に終わっていたのですが、昨年(2002年)秋からは、予報・警報を始めとして、非常に詳細な気象情報がリアルタイムで見られるようになりました。
また、地震や火山噴火のときなどは、随時記者会見を開いて、さまざまな資料を報道陣に配布するのですが、そういった資料を一般の人が手に入れることは、今までは非常に困難で、大学の研究者でもないかぎりまず無理だったのですが、2000年の三宅島の噴火のころから急速に情報公開がすすみ、毎週のように(噴火中のものはもっと頻繁に、たとえば三宅島は今でも1日2回)膨大な資料がネット上に掲載されています。
以上のようなさまざまなルートで、情報を提供するシステムができている以上、「気象庁が呼びかけている」という言い方には問題ないと私は考えます。
★やまぐりさんからも、回答をいただきました。ありがとうございました。
|