--- 素朴な疑問集 ---
トップページへ    [素朴な疑問集 TOP]


疑問No.513 (2006.04.16)

Q. とんびさんからの疑問

 そういう方面に詳しくないので教えてください。
 磁器ってピカピカしているなぁと思っています。陶器は光沢がないですよね。釉薬(うわぐすり)の違いなのでしょうか?
 磁器と陶器は、どこがどう違うのか? 材料、作り方、仕上げ方、わかりやすく教えてください。
 もうひとつ。家の庭を掘ると、すぐに粘土が出てくるのですが、この粘土で皿を作って焼けば、陶器か磁器ができるのでしょうか?

名工は、気に入らないと作品を割ってしまうってのは、本当ですか?
 それも知りたいです。(星田)


A. あーさんから

「名工は、気に入らないと作品を割ってしまうってのは、本当ですか?」
の方にだけお答えしましょう。というか、名工から聞いたわけではなく、私の考えですけど。
 これは、ようするにブランドを守るってことだと思います。自分の作品として世に出して恥ずかしくない物だけを残し、あとは世に出ないように破壊してしまうと。なまじ割らずに残しておいたら、人の手に渡ってしまうかもしれない。いちど人の手に渡ってしまったら、どんな失敗作であっても自分の作品として永遠に残ってしまうかもしれない。そのことによって、自分の評価全体が低下するおそれがある。そういうことが起きないように、気に入らない失敗作は壊してしまうんでしょう。
 もっとも、素人目には失敗作のような、古い焼き物がめちゃくちゃ高価だったりもするわけで、よくわからない世界の話ではあります。

A. 新山英輔さんから

 違いは焼成温度にあり、いちばん低温が土器、その上が陶器(素地に透水性あり)、いちばん高温が磁器(ガラス化)と私は理解しています。
 不良品を割ってしまうのは大名人でなくてもやっているようです。ブランドが大切だから。

A. アンギラスさんから

 磁器と陶器の違いは、大きく2点あります。
 まず一点は材料面、使用される粘土に含まれる長石・珪石の割合の違いです。その割合は、およそ……、

  磁器……長石3:珪石:3:粘土4
  陶器……長石2.5:珪石2.5:粘土5

で、磁器は粘土分がすくなく硬い、陶器は粘土分が多く軟らかいという違いがあります。
 また磁器に使用される陶土は、基本的に白い陶石(マグマが固まってできた流紋岩が温泉の作用で漂白されたもの。このため特定の地域でしか産出されません)それを砕き、臼で長時間搗き微細な粉末にして水を加えて原料としています。すなわち磁器の原料は「岩石」なのです。
 大きな違いのもう一点は「最終の焼成温度の違い」です。磁器は1300℃以上、陶器は1200℃くらいです。高温で焼くことで、成分である長石や珪石が内部で融解し硝子化し強度を出していますが、磁器は陶器より高温で焼くことによって一層硝子化が進み、硬く丈夫なものに仕上がっています。
 釉薬についてですが、基本的に長石、珪石、石灰の粉末を水で溶いたものです。これは1200℃程度の本焼きの段階で、釉薬の中の長石や珪石を溶かして硝子化させ、表面をガラスコーティングさせるためにかけます。
 磁器は下絵の柄や美しさを引き立てるために、焼くと透明度が上がる「透明釉」を用います。陶器は釉薬自体に金属(酸化物の微粒子)を混ぜることもあり、それによって釉薬自体が様々な色になります。
 ちなみに質問者の方のお庭から粘土がでるそうですが、長石や珪石が適度に程度含まれていないと、焼くとヒビ割れたり、すぐ割れたりして使用に耐えるものにはならないと思います。

A. まいけるさんから

 端的に言えば、主原料の構成比率が違います。代表的な比率は

  陶器は、粘土50%、珪石30%、長石20% (→「土もの」)
  磁器は、粘土30%、珪石40%、長石30% (→「石もの」)

 この違いが焼成温度の違いを生むとともに、できあがりの厚さ・硬さ・手触りの違いや、温度の伝わり方、吸水率の違いなどを生み出していくことになります。

[陶磁器の歴史]
 質問者は磁器と陶器だけを取り上げていますが、日本で「陶磁器」というと、

  土器・陶器・せっ器・磁器 (せっ器の「せつ」は火偏に石と書きます)

の四種類に分けられます。
 陶磁器の歴史から言うと、「土器」が最も古く、一万年以上昔から作られていました。土器は、粘土だけを原料とし、地面に穴を掘っただけで野焼きをしていたため焼成温度も低く、できた物は、もろく、壊れやすいものでした。また、土器は多孔質で、水が外にしみ出してしまいます。インドなどでは、この性質を利用して、今でも土器を水甕として使用しています。くみ上げた水を土器の甕にたくわえ日陰においておくと、土器の表面にしみ出した水が蒸発するときに熱を奪うので、甕の中の水を冷やしておくことができるのです。
 時代を下って、窯が発明され、高い焼成温度を維持できるようになりました。すると、土器の表面を焼成時の高温で融かしたガラス質のもので固めることで強度を増し、水漏れを防ぐ技術が考え出されました。これが「陶器」です。このガラス質のものを「釉薬」といい、珪石や長石、石灰石などの混合物が使われます。
 このような施釉陶器の生産は、西方では前18世紀ごろ、古代メソポタミヤやクレタ島において始まりました。東方では前15〜前14世紀ころ、殷代中期の中国において、すでに行われていました。日本にこの技術が伝わってきたのは、ずっと遅れて8世紀、奈良時代のことです。
 釉薬を使うと、粘土と釉薬の熱膨張率の違いから、焼成中にひびが入ったり、釉薬がはがれてしまうことがよくあります。これを防ぐ方法として、釉薬の主成分である珪石と長石がある程度混ざった粘土を用意することで、両者の熱膨張率をできるだけ近づけ、焼成時の損傷を防ぐ工夫がされました。
 一方で、釉薬を使わず、焼成温度をさらに上げることで、土器自身をしっかりと焼きしめる方法が考えられました。このようにして器を丈夫にし、水漏れもなくしたものが「せっ器」です。今日においても、備前焼や信楽焼として続いています。
 しかしながら、陶器もせっ器も、粘土を主原料とするため、多孔質で、器がどうしても厚手になります。そこで、長石と珪石を細かく砕いて少量の粘土の中に練り込み、これを高温で焼き上げることで、器そのものをガラス質にする方法が考えられました。中心となる素材がガラスなので、器は丈夫なのに薄くつくることができ、光を通すにもかかわらず、水漏れもしない「磁器」がここに誕生したのです。
 この技術は、紀元前後、後漢時代の中国で生まれました。日本には、16世紀の豊臣秀吉による朝鮮出兵の際に、朝鮮半島から陶工が日本に連れてこられて伝来しました。有田焼(伊万里焼)がこれです。ヨーロッパでは、17世紀初めオランダ東インド会社によって東洋の磁器が輸入されるようになると、支配階級の間で熱狂的な人気を博し,中国,日本の磁器は金銀にも勝るほど高価なものとされました。この磁器を模倣して、18世紀にマイセンにおいてヨーロッパ最初の磁器が作られました。

[陶磁器の原料]
 陶磁器の主原料となる粘土・珪石・長石については、次のように理解するとわかりやすいと思います。

 (1)成形成分 : 粘土(ケイ酸アルミニウム)  焼成前に活躍
 (2)骨格成分 : 珪石(石英=二酸化ケイ素)  焼成後に活躍
 (3)焼結成分 : 長石(アルミノケイ酸塩鉱物) 焼成中に活躍

 何のことはない、すべてケイ素(Si=シリカ)の化合物です。しかしながら、その融点はみな異なり、「長石<珪石<粘土」の順に高くなっていきます。こういったそれぞれに異なる物性を巧みに利用して、陶磁器は作られるのです

 さて、土器は粘土だけで作られました。陶器の主原料も粘土です。
 粘土は、花崗岩が風化して微粒子となり、海や湖の底に堆積したものです。地殻変動や水位の変動で、地上に露出したものが主に利用されます。常温で高い親水性があり、水を含むと互いに粘着して、自由に形を作ることができます。しかも、乾燥させて水分を飛ばせば、その形を維持したままある程度の機械的強度を残すことができます。古来より今日においても、この性質を利用した天日干しレンガは広い地域で建築材料として利用されています。
 粘土は、実は2種類の方法で水分を中に閉じこめています。物理的に混ざっているだけの水分と、結晶構造の中に化学的に取り込んでいる水分です。前者は天日干しで簡単に失われますが、後者をなくすには、700〜900℃の高温をかける必要があります。つまり、土器の焼成過程とは、この結晶結合した水分をなくす過程なのです。
 焼成により完全に水分を奪われると、結晶構造に隙間ができます。もはや新しく水分が来ても結晶として結びつく力は失っていますが、物理的にはこの隙間を水が通りぬけられるのです。これを「多孔質」と呼んでいます。
 この多数の隙間があるため、土器や陶器は固いけれどもろくなり、分厚く作らないと強度が保てません。また、隙間に空気があるため熱伝導率が落ち、密度が低いので叩いた時の音が鈍くなります。

 次に、陶器の釉薬の主原料としての珪石と長石についてです。
 珪石とは、別名、石英で、その結晶は「水晶」として広く知られています。いったん高温で融けた物が、ゆっくり冷えると結晶構造を作って水晶となり、急速に冷えると、結晶化できずにガラス化し、非常に固くなります。この性質を利用し、陶器の表面をガラスコーティングしようというのが釉薬です。
 さて、珪石単体で見ると、石英の融点は1550℃です。しかも、高温での粘度が非常に高いため、石英ガラスを作るときなどは、普通のガラス製造工程が使えず、2000℃にまで加熱してようやく成型されています。陶磁器製造でこんな高温を確保していては、恐ろしいコストがかかってしまいます。
 そこで、長石の登場です。長石は融点が珪石よりも低く1200℃で、しかも、融けた長石の中にあると、珪石まで融点が下がってしまいます。石灰だと長石より10倍も強力に珪石を融かす力があります。珪石・長石・石灰その他の構成を工夫することで、焼成温度は900〜1350℃までさまざまに調整することができます。
 一般に、陶器の製造工程では、まず、長時間の天日干しで土中の水分を飛ばします。これが不十分だと、焼成時に土中の水分が水蒸気爆発を起こし、作品を粉々にしてしまいます。次に、900℃程度で一度素焼きにします。これで形が固定され、また、多孔質の吸水性のおかげで釉薬がつけやすくなります。最後に、1200℃前後で本焼きを行い、器自身を焼きしめるとともに、釉薬を焼き付けます。さらに、絵付けのためにもう一度焼くこともあります。
 ちなみに、陶器は、粘土と釉薬の熱膨張率の違いから、釉薬に貫入(細かいひび)ができやすく、陶器自身は多孔質で吸水性があるため、貫入のある器を料理の盛りつけなどに使うと、ダシや油がしみこみ、においが取れなくなったり、カビが発生することがあります。料理店などはこれを防ぐため、使用前に毎回、陶器をお湯につけて貫入に水をしみこませ、あらかじめ目止めをしています。他方、衛生陶器という分野があります。トイレの便器などのことですが、これの釉薬にひびを発生させたらどうなるか、は想像におまかせします。

 最後に、磁器の主原料としての珪石と長石についてです。
 これらは、一緒くたに陶石として、山中から石のまま切り出されてきます。そして、ひきうすにかけて非常に細かい微粒子にまで砕かれます。磁器をつくる原料としては、粘土30%に対し、珪石・長石70%を練り込んでいきます。珪石・長石は親水性に乏しいため、非常に練りにくく、成型も難しくなります。
 粘土を使わず、珪石だけで作ろうとすると、もとが石なので、常温ではうまく練ることができず、形を作れません。このために一定割合の粘土がどうしても必要なのです。これが、「粘土は成形成分であり、焼成前に活躍する」という意味です。
 珪石は焼成によって融かされ、ガラス化します。これにより、粘土の隙間を埋めてくれるため、磁器は陶器より薄いのに、1.5倍硬くなり、しかも水を通さなくなります。これが、「珪石は骨格成分であり、焼成後に活躍する」という意味です。
 ガラス質の部分は光を透し、美しい光沢をみせます。叩けば澄んだ硬質の音が響きます。一方で、多孔質が失われたために熱伝導性が高くなります。コーヒーカップに取っ手があるのは、磁器がすぐに熱くなってしまい、直接持てないためです。日本では、熱湯を使う番茶やほうじ茶を出すときは陶器が利用され、50〜70℃で出す煎茶の玉露などには磁器を利用するといった使い分けがされます。
 長石を使用する理由は、すでに述べたとおり、珪石を融かしやすくするためです。粘土中にある長石と珪石を融かすには、長石の融点である1200℃よりも高い1300℃まで窯の中の焼成温度を上げる必要があります。
 釉薬のように石灰を使えばもっと低温でも珪石を融かせるのですが、石灰は強力すぎるので粘土には混ぜません。石灰を混ぜると、ずっと低い温度で珪石だけが融け、粘土の間から抜け落ちてしまいます。長石の利点は、1200℃で融けたあと、粘土とも珪石とも上手に混ざり、融かした珪石が流出するのを防ぐだけでなく、温度が下がった後も両者の接着剤としてそのまま固まってくれるということなのです。これが、「長石は焼結成分であり、焼成中に活躍する」という意味です。

麻生有美さん、正徳さん、maroさん、暮雪さんからも、回答をいただきました。ありがとうございました。