--- 素朴な疑問集 ---
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疑問No.514 (2006.04.18)

Q. 冒険者さんからの疑問

 新聞を編集するって大変だと思うのです。
 毎日、毎日ですよ。
 毎日、毎日ですよ。見出し、記事、写真、広告など、ほとんどすきまなく、うまく配置してあります。あれって、ほとんど神業に近いと思うのですが、やはり、その道に熟達された方が、あんなに見事に配置しているのでしょうか?
 先日、新聞に、5行ほどの空白を見つけました。
「ああ、やっぱり、こんなふうに空白ができることもあるんだ」
と、ほっとしました。でも、その記事を読んでみると、どうも「急いでいるな」という気がしました。他の記事が本来あったのに、急に大きなニュースが入ったので、そちらに差し替えたのでは? そんな気がしました。

「このスペースに収まらないから、この記事をあと2行カットしてくれ!」
 なんてこともあるのでしょうか?(星田)


A. さやかさんから

 私も疑問でしたので父に聞いてみることにしました。すると……、
 新聞は大体、文章の所は同じ大きさの文字ですよね。その中には大きな文字のタイトルや見出しがあります。だから、まずは全部入力してから、大きな文字のタイトルや見出しなどで隙間などを調節しているのではないか……ということでした。
 本当かどうかは知りませんが……。

A. 麻生有美さんから

 レイアウトは、レイアウターソフトを使って行います。
 普通、入稿、製版、印刷という手順で進んでいたのですが、コンピュータを導入した結果、入稿から印刷まで一気にできるようになったわけです。原稿から、印刷まで、一元的に扱えるわけです。

A. こじまさんから

 私はデザイナーで、某地方紙の広告やなんやかんやをよく作っています。現在はほとんど「自動組版システム」で組んでいます。多少の文字量の誤差は自動的に調整します。
 新聞制作は以前は「整理部」「製版部」などに神業を持った職人が多数いて、その技を駆使して作っていました。天気予報図や地図もデザイン部のデザイナーが手で描いていましたが、最近はほぼ全面的にデジタル化されています。また、テレビ・ラジオ面、株式面、映画・娯楽面はそれ専門の配信会社が、スポーツ面は(地方紙の場合)スポーツ新聞社から「データ」で受け、そのまま使うことも多いのです。
 芸能面、文化面もそういう場合があります。そうやって見ていくと、一刻を争う紙面づくりが必要なページは以外と限られています。
 ただ、スクープと記事の新鮮さを狙う「新聞社魂」は全く変わっておらず、ぎりぎりまで紙面制作を引っ張って印刷機を止めたりすることはしょっちゅうあるようです。
 それに、自動組版になっても手作業時代のなごりは多く残っており、それが新聞紙面独自の雰囲気を醸し出しています。たとえば、

・句読点のあとが空く。雑誌等を組むソフトでは自動的にこの空白を埋めるのですが、新聞は活字時代のなごりで半角あく。
・1行の字数がほぼ決まっている。
・禁則文字(文頭にきてはいけない文字=ん、っ、ー、など)への規制が緩い。→1行の文字数を優先する活字時代のなごり。
・インク量がすくない。膨大に刷るため、インク量を減らす工夫がなされている。そのため、一般の印刷とは黒が違う。
・カラー広告の色校正がでないので色出しはデザイナーの経験と勘に頼る部分が大きい。(これも締めきり優先のため。簡易確認版は出ます)
・記事を区切るケイ線の端をぴったりつけない。(これもケイ線も活字で組んでいたなごり)

ほかにもいろいろとあります。
 まれにぽかーんと空白が空くこともありますが、そういうときのために関連会社の広告が常に用意されています。変なところにいきなり子会社の出版物や旅行の広告が出ていたら、それはそこが「空いちゃったから」の可能性が高いですね。
 ちなみにどこの新聞社でも申し込めば社内を見学させてくれます。見学前に新聞社のHPから「デジタル広告の入稿のしかた」をダウンロードして、読んでいけばおもしろいですよ。新聞のデジタル化や印刷について分かりやすく解説してあります。読みこなすには少し専門知識が要りますが、電話で質問すればていねいに教えてくれるはずです。
 最近、新聞制作はほぼデジタル化されてます。しかしそれについていけない地方紙も多く、例えばラジオテレビ欄のデータは未だに10年くらい前のソフトです。
 また、カメラマンも、
「機械に頼って失敗したら申し訳がたたない」
「現場でカメラが破損したとき、勘で撮れない」
という理由でデジタルカメラを拒むベテランもたくさんいます。
 校正も、電子辞書が大活躍しますが、基本は手作業です。輸送も熟練した運転手が「新聞輸送」に誇りを持って運んでいます。記者も非番の日に事件に遭遇し、現場からケータイメールで送稿ということもあるようです。
 結局、制作過程はデジタル化されても、それに携わる人々の「ブン屋魂」は変わらないのですね。いい意味でヒューマンパワーとマシンパワー、アナログとデジタルが融合している業界だと思います。

A. Julianさんから

 某全国紙で10年ほど実務に携わっていた経験から回答します。気合を入れて書くと1冊の本になってしまいます。骨子だけにしても長くなりますが、ご容赦ください。
 回答の前にご理解ください。大都市圏の新聞は朝刊と夕刊があり、合わせて10種類くらいの締め切り時間の違う新聞を祝祭日を除いて制作しています。その間の号外も制作します。レイアウトの話の前に、強調させて頂きたいのは新聞編集者の資質は次の3点に尽きるということです。

  @どれだけの大きさで扱うべきかという「価値判断」
  A目に飛び込んですぐ分かる簡潔な「見出し」
  B見た目の「躍動感」や「美しさ」

 では、回答に移ります。お手元に朝刊を1部ご用意ください。1面を例に採ります。新聞社によって多少の違いはありますが、その日のニュース以外に社名をうたった題字や目次、連載記事、コラム、天気予報、広告などがありますね。
 連載記事は前もって別に四角く作って保存しておきます。初回を作れば、あとはほぼ同じ行数で送られてきますので見出しを考えるだけです。残りは大きさの決まっているものばかりですので、決められた場所に置きます。ここまでが予備作業です。
 本作業に入る前に、その日、寄せられる予定のニュースの採否や、どの面に割り振るかを編集局各部幹部が短時間の打ち合わせで決めます。見解が一致すれば10〜15分間ほどで終わります。
 作業は超高速・超大容量のホストにつないだ端末機で行います。見た目は皆さんお使いのと全く同じデスクトップ型のPCと同じです。マウスとキーボードも同じものです。基本ソフトも月並みのウィンドウズXPプロフェッショナルですが、新聞編集用にメーカーと共同してかなり改造してあります。ここは企業秘密です。
 以上で紙面の半分近くは埋まります。次に同じ端末で打った見出しと、1行単位で大きさを決めた写真や地図、イラストなどを置き、原稿を流し込みます。原稿は無造作に流しては読みにくいので、たとえば2段分ほど流して残りを4段とかに畳んで「罫」と呼ぶ区切りの縦線を引きます。そして次の原稿の見出しを置き……。その作業の繰り返しで隙間なく組み上げるのです。
 まだ届いていない原稿でもおおよその行数や内容は速報されてくるので、その「陣地」を空けておきます。パズルゲームや陣取り合戦みたいな感覚です。
 もちろん、一発で決まることはまずありません。
「写真をもう少し真ん中に持って来れないか」
「この記事もっとハデに行かなきゃ!」
とデスクの怒号が飛び交う中、職場は戦場と化します。
 記事は連日あふれかえります。どうしようもない時は、記事の引越しや入れ替えが頻繁に起こります。
「これは社会面だろう」
「何言ってんだ! スポーツ面だ」
 スポーツ面は最大5面、1面を含む総合面、社会面、経済面は各3面づつ。国際面は2面。あと政治面、生活面などなど多い日には全部で30ページを優に超します。それぞれに面の性格が違い、どこにでも持って行っていいというものではありません。それをデスクは瞬時に判断を下すのです。
 それでもあふれますので、編集者の権限で容赦なく削ります。急がないニュースは全文ボツ、翌日回しということも日常茶飯事です。デリケートな特ダネ原稿の場合など、星田さんのおっしゃるように、記事を書く部署に「15行ほど短くして!」と頼むことがなくもありません。
 逆に記事が乏しいのも困ります。いつ使ってもいいような予備原稿は常に準備しているのですが、ホットなニュースで取材・執筆時間が足りず原稿が満足に来なかったりした場合です。
 やり方はさまざまですが、例えば写真を大きくしてみましょう。縦方向に3段の大きさの写真なら、幅を2行大きくするだけで瞬時に6行分稼げます。5段の見出しも11行幅を13行幅に広げれば10行稼げます。オウム真理教事件のときなどは記事の行間まで広くして数十行稼ぎました。
 あまりに端折りましたので語弊はありますが、基本的にはこのようなことです。締め切り間際に大きなニュースが飛び込んできたときなどは、細かい操作は間に合いません。不慣れな編集者は見出しが決まらなかったり、端末操作に手間取ったりで、いつも綱渡りです。締め切りを無視して、のんびり「自信作」を作り上げたとしても、皆さんのお宅に届くのが大幅に遅れてしまいます。
 ベテランとて締め切り厳守のため、記事のおしりが空白になったまま印刷に回すことがあります。私の会社の場合、1ページにつき3行の空白2カ所までが「限度」とされています。不細工と見る向きもありますが、現場は「こっちの方が臨場感があるなあ!」などとガヤガヤ言いながらの作業です。
「合格」とされる紙面を作り上げるには、個人差もありますが半年から1年の訓練は最低必要でしょう。それまでは先輩に教えてもらいながらの作業となります。
 スポーツ面は野球シーズンにはナイター6試合が同じような時間帯に終わることも多くて大変です。加えてJ1が7試合なんて時も。TVを見ながら面白い試合があれば「これをトップに据えて……」などと構想を巡らすのですが、試合終盤の展開次第では扱いをガラッと変えざるを得ません。3年くらいは経験を積まないと任せてもらえません。
 要はレイアウトについてだけ言えば「忘年会のお知らせ」をPCで作る延長です。新聞といってもコツをさえつかめば、出来・不出来は別として誰にでも作れるものなのです。あらゆる素材を隙間なく埋める作業自体は「神業」でも何でもありません。
 ただし、最初に述べさせて頂いた3点をクリアする。これがいちばん難しいことだ、とご理解ください。連日、他紙にも目を通し、通信社の速報やTVニュースをチェック、世の流れを頭に描きながらの作業です。トイレに行く暇もありません。
 蛇足になるかも知れませんが、夕刊の配達されてない地域にお住まいの方は締め切りの早い朝刊しかお届けできませんので、遺憾ながら万全の商品とは申し上げられません。大都市のど真ん中や印刷工場の近くの方は翌日未明までのニュースが入りますし、早版の「失敗」や不具合を修正して行くので、比較すれば数段、完成度は上がっているはずです。

A. うにうにさんから

 実際に紙面に記事や見出し、写真を配置して1つのページを埋める技法については既出の回答でも触れられていますが、それを毎日毎日、わずかな時間で行うことを可能にしている背景として、2点指摘しておきたいと思います。(なお、社内組織などは新聞社によって多少の違いがあることをおことわりしておきます)
 第1に、「記事を書く人」と「紙面を作る人」が別々であるということ。
 記事を書く記者はたいてい、新聞社の編集局の中の、政治部・経済部・運動部・社会部などに分かれたそれぞれのセクションに所属しています。一方、実際に各部の記者から出稿された記事を、それぞれの紙面に割り付けたり、見出しの大きさや言葉を考えたりするといった大事な作業を行うのが、同じく編集局に属する、整理部の記者です。
 たとえば、社会部の記者が何か記事を書く場合、彼・彼女は通常、上司である社会部長やデスクの指示で取材を行い、記事を書きます。しかし、それが実際に紙面に載るかどうか、載ったとして何行まで載るかは、整理部が決定権を持ちます。
 当初詳しく載るつもりで書かせたのに、他の部から出てきた記事と競合してしまい、出稿部(原稿を書いた記者の属する部)の部長どうしとか、出稿部と整理部との間で、押し問答になることもあります。
 そんな中でも毎日なんとか紙面に収まっているのは、整理部が他の部から独立して、編集の最終的な権限を握っているからといえるでしょう。
 多くの記事を紙面に収めるためには、出てきた記事の文章に手を加えなくてはなりませんが、そのたびに出稿部や書いた記者に確認を取っていては時間が足りなくなってしまいます。また、それぞれの記者は他の人がどんな記事を出してきているかなど知らないわけで、自分の記事だけに集中しているのですから、紙面の全体に目を配る整理部の存在が不可欠ということになります。
 第2に、記事の文体が逆ピラミッド型であるということ。
 一般的な新聞記事は、最初に一番重要な結論を書いてしまいます。いわゆる5W1Hが、最初の1文か、せいぜい1段落読めば、全て分かるように書きます。そのあとで、詳しい説明や、枝葉末節にわたるエピソードなどに順次移っていきます。こうすることで、忙しい読者が最初の方だけ読んでやめてしまったとしても、最小限の情報は得られるようになっているわけです。
 このスタイルは、整理部の記者にとっても便利です。他に大きなニュースが入るなどして、記事の字数を削らなくてはならないとき、終わりのほうから削っていけば大体OKだからです。
 図書を執筆したり、雑誌の記事を頼まれて、原稿を書いたのはいいけれど、どうしても字数オーバーになってしまって、どうやって削ったらいいか苦心惨憺した経験をお持ちの方もおられるかと思います。論説文やエッセイのようなスタイルの文章では、へたに或る1段落だけ削ったりすると、文章全体の趣旨や流れが変わってしまったり、最悪の場合は結論がひっくり返ってしまうこともありますので、論旨を変えずに字数を削るのは意外と難しい作業です。
 その点、逆ピラミッド型の文章では、末尾のほうから削っていって、どうしても辻褄の合わないところだけ手直しをすればすみますので、最小限の時間で字数を減らせます。
 もちろん、新聞の紙面には、こういうスタイルを取らない記事も載っています。コラムや連載コーナーなどはその代表的なものです。こういった欄は、執筆の時点で最初から、全部で何文字(何行)になっていて、読者は最初から最後まで読んでくれるという前提で書いています。一番最後の1文に最も大事な結論が来ることもあります。
 このような記事では、字数を削るわけにはいきません。そこで、どうしても紙面が足りなくなってしまったときは、休載して翌日とか翌週に回すことになります。
 以上の2点があるおかげで、日々の紙面があまり大きな穴も空かずに上手に作れているといえるでしょう。
 余談ですが、日本の新聞では、1つの記事は原則として1ページの中に収め、ページをまたがない、という習慣というか美学があります。
 特集もので見開き2ページに収めたり、連載記事の第1回目は宣伝の意味を込めて途中まで1面に載せて続きは3面に、などの例外はありますが、その場合でも、極力、段落の切れ目でページをまたぐようにしています。段落の途中とか、まして1文の途中でページが変わるというのは、よほど特殊な場合でないかぎり見かけません。
 一方、欧米の新聞や、日本でも英字新聞では、文章の途中で「以下8ページに続く」などということは日常茶飯事です。単語の途中で切れていることもしばしばです。
 英字新聞を読まない方でも、『ハリー・ポッター』シリーズに出てくる『日刊予言者新聞』の記事の書き方がそんなふうになっていたのに気づかれた方もおいででしょう。
 大きなニュースがたくさんある日は、見出しに加えて、それぞれの記事を最初の数行だけでもいいからとにかく1面に書いて、あとは「続く」とやったりします。日本だったら、1面には見出しだけ書いて、(記事23面)などとするでしょうね。
 この点で、日本の新聞のこだわりは大したものだと思います。ただ、どうしても1ページに収まりきらないときは、無理に切ってしまうよりは、「他のページへ続く」としてもいいんじゃないかな、と個人的には思います。
 特に、最近の新聞は活字が大きくなったので、行数・文字数の調整がしにくくなっています。1ページに入る文字数は、1980年頃までの紙面の半分強(約54%)しかありませんから、必ずしも昔からのしきたりを墨守しなくてもよいのではと思います。