--- 素朴な疑問集 ---
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疑問No.548 (2006.09.08)

Q. ほいこさんからの疑問

 子どもが持っていた本(その本が見つからない!)に載っていたクイズに、
「本というのは、最低何ページ必要?」
のような問題がありました。
 で、その答えが「32ページ」だったのです(記憶が正しければ……)。
 え〜って思いました。32ページに満たない冊子は、「本」と呼ばれないということですよね?
 まず、このクイズの答えは正しいのでしょうか? 次に、
「本」と呼ばれる
ためには、どうして32ページ必要なのでしょうか?

初耳です。本のページ数は、たいてい16の倍数になっている――というのは知っていましたが……。(星田)


A. こじまさんから

 私はデザイナーで、たまに本の装丁もしていますが、考えたことがありませんでしたね。そこで某出版社の部長に聞いてみました。
「わしも考えたことがない、しかし……」
 本屋(出版社)が出す「本」は必ず背表紙が必要です。この背表紙をつける製本をするためには最低32ページくらいのページ数が必要です(無線とじと呼びます。実際にはもう少しページ数がほしいところですが……)。
 背表紙がない場合は「中とじ」という簡単なホッチキス止めで済ませます。日本人の言語感覚では中とじのものは「冊子」「パンフレット」「リーフレット」と呼ぶのがしっくり来るようです。デザインを発注する側もそう呼ぶことがほとんどです。ちょうど32ページくらいのページ数が「背表紙をつける、つけない」という製本技術上の境目になりやすいので、そういうなぞ謎ができたのではないでしょうか。
 その意味では、何を持って「本」と呼ぶか、という本質的な定義ではなく、出版社の都合による「本」の定義のようですね。
 ちなみに中とじの場合は4ページ単位で、無線とじは2ページ単位でページ数を調整することができます。16ページ単位というのは(サイズにもよりますが)裁断する前の紙にムダが出にくいため、そう言われるのだと思います。

A. おやじうどんさんから

 本の定義自体は難しいですが、ユネスコの定義によると図書(本、書物、書籍)は、
「(情報を伝達するため、紙などの媒体に文字等を印刷し、製本したもののうち)表裏の表紙を除いて49ページ以上の非定期刊行物」
とされています。
 48ページ以下は「パンフレット」。パンフレットのうち高級な紙を使用したものを「ブックレット」、そして紙1枚のものを「リーフレット」としています。
 一方、 私たちが「本」を連想した場合、「中身よりも高級な(あるいは厚い)紙の表紙を使い、製本(綴じた)もの」というイメージになると思います。
 製本には中綴じ、アジロ(無線・平)綴じなどがありますが、いずれの場合も裁断等で紙を効率的に使うために「16ページ」が1つの単位(折:おり)になります。そのため、16の倍数となるページの印刷物が多いのです。
 綴じ方ですが、中綴じの印刷物はあまり「本」というイメージにはつながりません。質問者の方の「32ページ」というのは、この「2折以上」ということからのことだと思われます。
 実際、32ページ程度の印刷物だと、コストの低い中綴じの方が現実的です。また、ページ数が少ないと束(背表紙)に文字などを印刷できず、アジロ綴じにする必然性もありません。
 ですので、ユネスコの定義の通り48ページ(3折)以上のもの(折の観点からすると、64ページから)が本(図書)といえると思います。
 なお、技術的には折単位ではなく、中綴じの場合は4ページ単位、アジロなら2ページ単位でも可能です(コスト面を考えると、8の倍数で設定することが多いです)。

A. うにうにさんから

 まず、「『本』というのは、32ページ以上」ということですが、これは正しくありません。以下の説明をお読みください。
 2つの観点から説明します。
 1番目は、本の作り方という観点。
 1枚の紙を2つ折りにすると、表・裏にそれぞれ左右2ページ、合わせて4ページ分の場所ができます。このような紙を何枚も用意して、それぞれを2つ折りにし、折り目の所をそろえて重ね、ホチキスなどでとじてやると、簡単な本になります。
 でも、これですと紙の枚数がたくさん必要ですね(たとえば、100ページの本を作るのに25枚印刷しないといけない)。そこで、折る回数を増やしてみましょう。
 1枚の紙を縦に折り目を付けて2つ折りにし、さらに横に折り目を付けて、2つ折りにします。これだけだとページがめくれないので、横の折り目のところは最後に切り落とします。こうすると1枚の紙は8ページになります。
 実際の印刷過程では、表に4ページ分、裏に4ページ分の両面印刷を行い、折って、折って、裁断して、8ページ分の束を作ります。この束のことを「折り丁(おりちょう)」と呼びます。また、このような作り方を2回折り(または4つ折り)といいます。両面で8ページになるので、8ページ折りともいいます。(ちなみに、さきほどの1回折っただけのものが「1回折り」または「2つ折り」です。)
 このあたりの説明は図があると分かりやすいですね。たとえば、こちらをどうぞ。
http://www.youart.co.jp/dtp/toku/jiten/ori01.html

 同様にして、折る回数をもう1回増やすと、紙1枚の両面で16ページになります。このときの折り丁は3回折り(8つ折り)です。さらにもう1回増やすと、4回折りになります。
 少しまとめてみましょう。

   1回折り=2つ折り=4ページ折り
   2回折り=4つ折り=8ページ折り
   3回折り=8つ折り=16ページ折り
   4回折り=16 折り=32ページ折り

 最初の呼び方は、1枚の紙を折る回数。
 次は、片面に印刷されるページ数。
 最後のは、両面に印刷される(つまり1つの折り丁あたりの)ページ数を表しています。
 なお、5回折り以上は製本しにくいので、普通使われません。
 このうち、一般の書籍では3回折り(16ページ折り)が最もよく使われています。また、ページ数が多く紙の薄い本(辞書など)では、倍の32ページになる4回折りが、逆にページ数が少なく厚手の紙の本(絵本など)では、半分の8ページになる2回折りがよく使われます。
 というわけで、おそらくそのクイズ本の著者は、「すべての書籍は4回折りである」と思いこんで、出題したのではないでしょうか。
 確かに4回折りの場合は、紙1枚でも32ページできてしまいますから、「最低32ページ必要」ということになりますが、通常の書籍では3回折りがよく使われていますので、この答えは不適切といえるでしょう。

 2番目に、本の定義という視点。
 紙に情報を印刷し、ばらばらにならないように製本したものを本とか図書とか書籍といいますが、通常はある程度のページ数があるものを指します。ページ数が少ないものは「小冊子」「ブックレット」とか「パンフレット」と呼ばれます。
 問題は、どの程度のページ数があれば本と呼べるかですが、はっきりと線を引くのは難しいですね。
 ユネスコ(国連教育科学文化機関)が決めている本の定義に
「表紙を入れないで49ページ以上あり、逐次刊行されない印刷物」
(Non-periodic printed publication of at least 49 pagesexclusive of thecover pages)
というものがあります。
 逐次刊行されるものは雑誌とか新聞、また5ページ以上48ページ以下のものはパンフレット(pamphlet)と呼ばれます。
 一般書であれば49ページ以上というのはまあ妥当な線かなと思いますが、絵本なら10ページとか20ページ程度のものもよくあります。それらをパンフレットと呼ぶのはちょっとかわいそうな気もします。
 そもそもこの定義は、ユネスコが世界各国の出版に関する統計データを比較するときに、基準を統一するために便宜的に決めたものですので、別に「48ページ以下のものを本と呼んではいけない」という意味合いのものではありません。あくまでも、ユネスコの統計ではそういうふうに区分していますよ、というだけのことです。
(かつて、出版物の点数を多く見せようとして、ほんとうにページ数が少ししかないパンフレットも「図書」に含めて勘定してきた国があったので、そういった水増しを防ぐためにこういう基準ができたのだそうです。)
 したがって、
「ユネスコの統計データでは、何ページ以上を本と呼ぶか」という質問(図書館司書の採用試験によく出るそうです)に対しては、「49ページ以上」と答えるのが正解ですが、もしこの前半を省いて「何ページ以上を本と呼ぶか」と聞かれたら、正解はないといっていいでしょう。

A. おやじうどんさんから

 一応、図書館関係者です。
「本というのは、最低何ページ必要?」に対する答えが「32ページ」というのは、本を作る時の「折丁(おりちょう)」から導き出された数ではないかと思われます。
 本を作るときは、大きな紙にたくさんページを印刷し、それを何回も折って形にします。紙1枚は裏表で2ページですが、半分に折れば4ページ、さらに半分に折れば8ページ、さらに半分に折って16ページ、もっと頑張って折れば1枚で32ページ作ることができます(日本の印刷業界では一般的に32ページ折くらいまでのようですが、欧米では48ページ折や64ページ折もあるようです)。
 この折丁をいくつも束ねて多くのページを持つ本を作るわけですが、おそらく32ページ折を最低単位と考えて「本は最低32ページ必要」という回答が出てきたのかもしれません。
 しかし、図書館の世界では、この回答は必ずしも正解とは言えません。 有名なところでは、ユネスコが1964年11月19日に出した「Recommendation concerning the International Standardization of Statistics Relating to Book Production and Periodicals(図書及び定期刊行物の出版についての統計の国際的な標準化に関する勧告)」の中で、
「A book is a non-periodical printed publication of at least 49 pages, exclusive of the cover pages, published in the country and made available to the public;(図書とは、国内で出版され、かつ、公衆の利用に供される少なくとも49ページ(表紙を除く。)以上の印刷された非定期刊行物をいう。)」
という定義があります。ここでは、49ページ以上のものは「book(図書)」、48ページ以下のものは「pamphlet(小冊子)」とされています。

 「本」の定義についてもいろいろありますが、「本=book」と考えた場合、このユネスコの定義に従えば「本は表紙を除いて最低49ページ必要」ということになります。
 ただ、「なぜ49ページなのか」という明確な理由までは残念ながら分かりません。ここにも「折丁」が関係しているのではないかと思いますが……。

非常に長文のご回答が多かったです。ありがとうございました。(星田)

ユネスコひろしさん、ごんたさんからも、回答をいただきました。ありがとうございました。