--- 素朴な疑問集 ---
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疑問No.610 (2007.07.06)

Q. れっこいさんからの疑問

 前々から疑問に思っていたのですが、1つの花の中におしべとめしべがあると、いくら虫や人が手伝ってくれても、めしべには同じ花の花粉がつきやすいと思います。
 おしべの花粉って「自分自身」ですよね。これでは遺伝的に弱くなると思うのですが、これでいいんでしょうか?
 雌花と雄花に分かれているか、雌株と雄株に分かれている方がいいと思うのですが、どうなんでしょう。

「あってもいいの?」と聞かれても、実際にあるわけですから、この現実は、植物の「戦略」としてどうなのか? 納得したい――ということですね?(星田)


A. bluestarさんから

 私が思うには、植物は人間や動物みたいに移動したり、相手を選ぶことはできません。ですから、自ずと1体に雌雄同体にならざるを得なかったのではないでしょうか(例外はありますが)。
 そうするとどうしても劣勢遺伝子が出てきますので、花をたくさん付けて種子を量産し、その中の強い種子が生き残って子孫を繁栄させてるのではと思います。
 農家の方は米の種子を選ぶとき、水に入れて沈む種を使うそうですから、種子にもばらつきがあるんでしょうね。

A. 大隅遥さんから

 確かに不利です。
 しかし、植物の中には自家不和合性(一つの花のなかでは受精できないしくみ。たとえば、おしべとめしべの成熟時期に時間差をつけるなど)を有しているものもあります。
 反対に、自家和合性のものは遺伝子の多様化がはかりにくい欠点はありますが、ほぼ確実に子孫を残せるという利点もあり、進化の過程で後者を選択したと思われます。
 自家和合性のものでもわずかながら他家受精をするので、それほど心配することはありません。
 余談ですが、農業では遺伝子が固定されやすい自家受精やクローン(接木、挿し木、イモ類など)のほうが歓迎されます。

A. 異邦人さんから

 花の「受粉」ですが、確かに「他家受粉」に対して「自家受粉」は不都合が大きいですね。
 それもあってか、一つの花の中におしべとめしべがある場合でも、それぞれの成熟期が異なったり、自家の花粉がめしべ内で成長(花粉管を伸ばすこと)できないようになっていたりします。もっとも、自家受粉をしてもそのまま成長できるものもありますが……。
「自家受粉を選ぶのも他家受粉を選ぶのも、それぞれの種の成長進化の道筋の中でのこと。他家受粉が良くて自家受粉が劣っているというものではない」
ということは少なくとも言えます。

A. 4児の父さんから

 れっこいさんのおっしゃる通りで、この状態は「自家受粉」といって、自分自身の分身を増やしていることになり、遺伝的バリエーションは大きくなりません。ただ、確実に受粉でき、子孫を増やせるという利点があります。
 逆に、他の株の花粉を受ける「他家受粉」は、遺伝的バリエーションが大きくなるという利点がある一方、受粉の機会は減ってしまいます。
 植物は、生息地の差(環境の劣悪さ、環境変化のし易さ)、寿命の差(1年草か多年草か)など、その種類によって、また同じ種でも状況によって、この両者をうまく使い分けています。
 中には、自分の花粉が自分のメシベついても、受精はさせないようにしているものもおり、なかなかしたたかですよ。

A. みし丸さんから

 雄しべと雌しべに対するピンポイントの回答はできませんので、他の方にお願いするとして、ちょっと違う角度からアプローチしてみたいと思います。
 雄と雌に分かれているということは、有性生殖が行われているということです。それに対して単にゲノムを分裂させて増殖する無性生殖があります。
 有性生殖では、増殖能力自体は小さいですが、遺伝的に多様性が大きくなり、環境に対する適応度が高くなると考えられています。
 一方、無性生殖では、増殖能力自体は大きいですが、環境に対する適応度は小さくなると考えられています。
 これはあくまでも一般的な見解であり、はたしてそうなのだろうかという疑いも一方ではあります。
 どういうことかといいますと、有性生殖ではまず、実際に子を産む機能を持たない雄を存在させなくてはならず、ここに無性生殖と比較して2倍のコストがかかります。この2倍というコストはかなり大きな数値のようです。
 さらに有性生殖のアドバンテージともいえる多様性ですが、無性生殖の場合でも一定の割合で突然変異が起こり、環境変化に対する適応性を獲得できるということです。
 したがって、無性生殖は一般的にイメージされている以上に優れた生殖様式ともいえます。
 花における雄しべと雌しべですが。これは有性生殖です。ただし遺伝的に見れば無性生殖に近い形といえるでしょう。そして雄花と雌花に分かれている以上に確実に受精できます。
 今もなおこのような生殖様式が自然淘汰に打ち勝っている現状を見れば、優れているのでしょうね。

A. サムサムオさんから

 結論からいうと、自分の花粉で受粉(以降、自家受粉)することよりも、他の株の花粉を受粉すること(以降、他家受粉)の方が、新しい遺伝子を入手できるので……、

1、おしべとめしべの成熟時期をずらして、花粉を飛ばす時期と花粉を受け取る時期に分ける。
2、おしべ、めしべどちらかを極端に長くする、雄花、雌花に分けるなどおしべとめしべを離して、自家受粉する確率を減らす。
3、一つの株毎におしべ、めしべのどちらかしか作らない。
4、自家受粉しても受精しない、受精しても果実、種の作成を途中でストップする。

等の手段で他家受粉しやすいようにしています。
 また、逆にあえて自家受粉を行う種も存在します。自家受粉の場合、他の株の遺伝子を入手することが出来ませんが、それなりの利点もあります。

1、自家受粉なので大量に花粉を飛ばす必要も無く、虫や鳥を集めるための蜜や花も必要ないので、花粉、蜜、花を作る栄養を他の目的に使うことができる。
2、他の花の花粉が無くても種を作れるので受粉に失敗が無く、周辺に同種の植物が無くても子孫を残せる。

といった感じで、一気に大量の種を作って繁殖する場合や、周辺に花粉を交換できる仲間が居ない場合、特に新天地に版図を広げるときには、自家受粉の方が有利になります。
 実際には自家受粉、他家受粉両方する種が多く、1年草など寿命の短い植物ほど自家受粉の比率が高く、樹木のなどの寿命の長い植物ほど他家受粉の比率が高いようです。

A. glucoseさんから

 確かに同じ花で受粉(受精)してしまっては、新しい遺伝子を取り込むということにはなりにくいはずです。植物もそれは避けたいはずです。でも、動ける動物と違って植物は動けません。もし何らかの理由で、蝶やハチなどの虫が他の個体の花粉を持ってきてくれなかったら、受粉できずに死に絶えてしまいます。その場合、最終手段として自分の花粉と自分のめしべで受粉し、とりあえず自己の遺伝子を残すという手段をとります。これを「自家受粉」といいます。
 でも、当然植物にとっては最終手段なのであまりやりたくない方法です。ですからめしべとおしべの育つ速度を変えて、自家受粉がしにくくします。おしべが先に育つ植物を「雄性先熟」と言い、逆にめしべが先に育つ植物を「雌性先熟」と言います。
 第2の手段として、免疫学的に自分の遺伝子を持つ花粉とは受精しにくくなっているという植物もあります。草花ではなく木になる花の場合はこちらが多いようです。
 と言うのは同じ木になる別の花の花粉を持ってこられる場合が多く、しかも日陰と日向で花自体の育つ速度が違うため、おしべめしべの育つ時期を変えただけでは自家受粉しやすいためです。桃や梨などの果実はこのタイプですので、農家の人が筆を使って丁寧に別の個体の花を受粉させるなど大変な労力を伴います。
 最後に……、自家受粉でも自分と同じ遺伝子を持つクローンができるわけではありません。父方からもらったDNA、母方からもらったDNAの2本のDNAがありますので、自家受粉でもこの組み替えが起こります。またそうではなくても減数分裂の際に相同組換えによってDNAが変化することもあります。
 したがって自家受粉でも他家受粉よりも可能性は低いですが突然変異だけに頼った無性生殖などよりも変異しやすいのです。イネなどは自家受粉によるものが多いです。農家がイネすべてを筆で別の個体の花粉を受粉させるなんて不可能ですから農家にとってイネが自家受粉で良かったですね。

なんだかとってもレベルの高〜い回答が集まった気がします。当サイトの回答陣はすごいなぁといつも感服しています。(星田)

にゃっきさんからも、回答をいただきました。ありがとうございました。