Q. kztさんからの疑問
一般的な鳥類は、巣の中に卵を生み、親鳥が卵の上に覆い被さって、おなか全体で卵を温めます。こうすると熱がこもって逃げないので、親鳥の体温で効
率よく卵を温めることができます。
しかし、ペンギンは卵を両足の上に置いて抱卵します。卵の片面だけは温かいおなかに接触していますが、反対側はもろに零下何十度という極低温の外気です。これでは卵を温めようにも、外気でどんどん冷えてしまいます。この方法って、熱効率があまりにも悪すぎないでしょうか? 昔からじつに不思議です。
ペンギンは、卵をまんべんなく温めるために、ゆっくり回転させているのかもしれません。しかし、それにしても、この温め方は熱効率が悪いだけでなく、足の上に卵があると抱卵中に歩けないという根本的な問題もあります。人ごとながら、ペンギンが心配になります。
まあ、ちゃんとこの方法でヒナも孵っているし、ペンギンの子孫も繁栄しているのですから何も文句はありませんが、いったいどうやってこれで卵がちゃんと温まるのでしょうか? これでは逆に冷えそうに見えるのです。
★もしかして、卵を足の上に乗せたまま、移動するとか……。(星田)
A. あきあきさんからの回答
いつも楽しく読ませて頂いています。
ペンギンの抱卵に付いての疑問ですが、私はそんなに熱効率が悪いとは思えません。
一般的(日本等)な条件と比べると熱効率が悪いかもしれませんが、ペンギンの生息地は寒いところで氷の上で生活することが多いはずです。
温暖な地域の鳥の様に、枝等を集めようにも落ちていないと思います。氷の上に直接置くよりは当然足の上に置いた方が温かいですし、ペンギンのお腹(毛?)はふっくらしていて、卵の上に覆い被さるような形になるので、卵もかなりの範囲が温まるのではないでしょうか?
kztさんが言われるように、たまには上下を入れ替えるために回転させているのかも知れませんけどね。
A. ペンギン大好きさんからの回答
ペンギンの抱卵時の熱効率云々という疑問を読みました。
たしかに、氷の上に立っているナマ足の上にじかに卵を乗せているだけ、と考えると、とっても寒そうで熱効率の悪い抱卵方法のような気がしますが、ペンギンの足の付け根にはちょうど卵ひとつぶんくらいの皮のたるみがあって、ペンギンは抱卵のとき、卵を両足の甲の上に乗せて、そのまま器用に足の付け根の皮(もちろんぶあつい毛皮)ですっぽり覆って抱卵するのです。
大型のキングペンギンやコウテイペンギンが繁殖するのは、南極大陸の海岸から何十kmから百km以上も内陸に入ったところで、当然、南極点に近くなればなるほど寒いわけなので、一面の氷の世界、おだやかな天気の日でも氷点下何十度、ましてやブリザードが吹き荒れるような荒天下だとマイナス60度以下の寒さになることもざらにあります。
そんな環境下で、間違ってポトンと卵が足の上から落ちたりすれば、卵は数分以内にコチコチに凍って死んでしまいます。ですので、ペンギンの親は絶対に卵を足の上から降ろすようなことはなく、オスとメスが抱卵を交代するときも、慎重に慎重に互いの足の上から相手の足の上に卵を渡しています。
ちなみに、コウテイペンギンなどの抱卵シフトは、繁殖地から餌場の海までを歩いて往復しなくてはいけないため、1,2ヶ月ピッチとなります。パートナーがえさを捕りに出かけている間、抱卵する方の親は足元の雪や氷をかじるくらいで絶食しながら待ちます。したがって、パートナーが「お待たせ〜」と帰宅したときには、体重は半減(おそらくフラフラヨレヨレの状態)しています。
ちなみに、どうしてそんな遠い場所に繁殖地を作るかというと、産卵するのが冬のもっとも寒い頃なのですが、抱卵し、ヒナが孵り、徐々に成長していくうちに季節がめぐって春となり、成長したヒナの羽毛が産毛から大人の羽へと生えかわって海に入れるようになる頃、もっとも過ごしやすい春から夏を迎えられるようになっています。季節が冬から春へと進むにつれて、海岸線は徐々に後退し、遠かった海がだんだん繁殖地にちかづいてきます。真冬に海のすぐそばで繁殖すると、ヒナの産毛が生えかわる前に繁殖地の氷がとけて海に没してしまいます。ヒナの巣立ちのタイミングがちょうどよい季節となるよう、産卵の時期が過酷な季節に設定されているのでしょう。
話はそれましたが、というわけで、足の上にただ乗せて下半分がスースーするような状態で抱卵しているのではなく、スッポリと完全に毛皮の中に抱き込んでしまっていると考えていただいてよいと思います。熱効率は決して悪くないと思います。
そして、抱卵しながら歩き回ったりもします! トコトコスタスタというわけにはいきませんが、足の上に卵を乗せたまま、「かかと立ち」状態でチビチビチビチビと移動しています。
猛吹雪のときなどは、バラバラに立っているより固まっている方が、多少は寒さも防げるみたいで、おしくらまんじゅうみたいに固まりながら、外側からすこしずつ内側へ、内側からまた外へと少しずつ場所を移動しながら集団で寒さをしのいだりもしています。
小さいペンギンの場合はまた少し違います。
一面の氷の世界、ではなく、少し地肌がむき出しのような環境下で繁殖するのですが、繁殖地に転がっている小石を集めてこんもりした山を作り、そのてっぺんに卵を産みます。小石で巣づくりしているのです。こういう形で繁殖するペンギンの親は、一般的な鳥類に近い形で抱卵します(これまで気にしたことがなかったので定かではありませんが、大型のペンギンとは違い、少しあたたかい季節の産卵なのかもしれません)。
広大な繁殖コロニーの中で、個々のカップルが小石を集めて巣を作るため、狭いながらも「なわばり」のようなものが存在し、他のカップルの巣にあまり近づきすぎると怒られたりつつかれたりします。そこでは、小石がたいへんな貴重品で、互いに、相手の目を盗んでよその巣の小石をくすねてきたりというようなことも行われます。季節が暖かいので、ちょっとした気温の変化で地面の氷が溶けて水浸しになったりということが起きるようで、小石を高く積み上げた巣を作っているカップルの卵やヒナは無事だけど、少ししか小石が集められず、地面すれすれの低い位置にある巣の卵は水につかって冷えて死んでしま
うリスクが高いそうなのです。
余談ですが、昨今の「地球温暖化」の影響か、南極も年間の平均気温が上がりつつあり、これまではそうした小型ペンギンの繁殖期間中に降ったことがなかった雨が降るようになり、多くのペンギンの卵が水没して死んだり、雪と氷だけならもっと低い気温でも大丈夫なヒナの産毛も、雨には弱い(フワフワの羽毛なので寒さには強いが、防水性はないため濡れると直接水分が地肌に到達し、体温を奪ううえ、濡れた産毛は保温力を失うので、雨が降るとヒナがバタバタと凍死する)ためペンギンの繁殖率が落ちてきていると聞きます。
また、氷とは無縁の比較的温かい海(ニュージーランドやオーストラリア近辺)の島に穴を掘ったり洞穴に住み着いたりして繁殖しているペンギンもいます。「氷の上で足に卵を乗せて」というイメージに近い抱卵をしているのは、一部の大型ペンギンだけといえるかもしれません。
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