--- 素朴な疑問集 ---
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疑問No.854(2010.09.14)

Q. けいこさんからの疑問

 いつも楽しみに読んでいます。飛行機に関する映画を見ていて思いついた疑問です。
 国際線の場合、飛行機に乗っている時間が長いですから、現地に着いて数時間後に、同じパイロットや客室乗務員が再び国際線に勤務するということはない、あるいは、すくないと思うのです。
 ところが日本のような国の国内線の場合、現地まで1時間程度ということがよくあります。これなら、パイロットや客室乗務員が同じ日に何度も飛行機に乗るということもあり得ると思います。
 しかし、特にパイロットさんって責任も大きく、疲れる職業だと思うのです。
同じ日のうちに、数度にわたり乗務することって、実際にあるのでしょうか?
 あるとすれば、1日のうちにどれくらい行ったり来たりするのですか?

常務時間は短くても、遠距離ですからね……。どうなんでしょうか?(星田)


A. ちゃいろちゃいろさんから

 航空会社勤務ではありませんが、飛行機好きのものです。
 航空機情報誌の「月刊エアライン」の2010年10月号にパイロットの1カ月スケジュールが載っています。
 それを見ると、国内線の場合、1日2レグか4レグとなっています。1レグ=1フライト、飛行機が離陸してから着陸してまでのことで、2レグは往復のこともありますが、別の場所の場合もあります。国内線の場合は日帰り乗務がほとんどとなっていました。
 一般的な国内線の1レグの運行時間は、1時間半〜2時間くらいです。パイロットは、乗客より早く搭乗し、機体の確認や出発の準備をしますので、1レグに2〜3時間は要します。1日の勤務時間を考えた場合、4レグ(2往復)が限界かと思われます。
 話はすこしそれますが、国内線の航空機の場合は、1日4〜6レグぐらいのことが多いです。国内航空機最多がんばりやさんは、何といっても天草エアラインのイルカ飛行機でしょう。天草エアラインは旅客用航空機を1機しか保有していないため、1日になんと10レグ飛んでいます。
 12月15日からの時刻表だと1日で、

  天草-福岡-天草-福岡-天草-熊本-大阪-熊本-天草-福岡-天草

と行ったり来たりです。パイロットはさすがに交代していると思いますが……。

 

 

この疑問への回答が非常に少なかったので、以前に私が講演を聴かせていただいたことがある乙訓昭法さんにご回答を依頼しました。
 お忙しいにもかかわらず、お答えをいただきました。本当にありがとうございました。

 乙訓昭法さんは、もと全日空の機長さんで、以下のような著書も出版されています。

『高度3万3000フィートの乱気流』

『コックピット風雲録』

A. 乙訓昭法さんから

 さて、御依頼の件、お答えします。ただし、ANAの現状です。なぜなら、各社によって協定が違うからです。

 国内線のパイロットの勤務はパイロットの安全飛行のための緊張持続の観点から、「4−6−10」という協定がパイロット組合となされています。法(労働基準法)での規定はありません。あくまでも労働協約上の規定です。
 要するに長いパイロット組合の活動の歴史的・力関係で成り立っているものです。国際線も同じです。当然、会社は規定をはずしてガンガン飛ばせたいところです。

 さて、前置きを熟知していただいたとして、解説します。

「4−6−10」の意味。
・4……1日の内でのフライトは4レッグ(路線以内)すなわち4回の離着陸までとするの意味。
・6……1日のフライト時間は6時間以内とすること。
・10……1日の勤務時間は(出社から退社まで地上に居る時間を含めて)10時間以内とする

と上限の約束があります。
 しかし、昨今の不況で、ANAもLCC社(ローコストキャリア、格安航空会社)では「6−6−11」、が主流(強要)になって来てすでに20余年です。
 そのためCA(キャビンアテンダント)はどこを飛んでいるのか勘違いしてアナウンスを間違えたり、緊張が続かず立ちくらみすると聞いています。
 国際線はランディング・スライド制(着陸回数で飛行時間が延びる)の導入で次のようになっています。国内の「4−6−12」をベースに、国際線はクルーの編成数によって、「シングル(機長一人、副操縦士一人)」では、

「3−7.5−12」
「2−8.5−13」
「1−11 −14」

として洋上(国際線)飛行しています。
「国際線マルチ編成」(機長二名、副操縦士一名。1フライト中に3人で3分の1ずつ仕事する)では、「1〜2−15−20」となります。これらを適用してANAでは国際線を飛んでいます。

 さて、御質問の件です。
 国内では上記のように何回も飛びます。また、CAと同乗することも多いですが、勤務を組み立てる組織が違いますのでCAとパイロットはほとんどが入れ替わります。

・目的地についてのインターバル(泊まりの場合)
 国内線の場合は、ミニマム14時間を予定しますが、出来るだけ16時間以上とすると、以前はなっていました。しかし、せちがらい世の中、14時間が主流です。アルコールは勤務の12時間前から飲めませんので、ANAの飲兵衛は2(4)時間は飲めるというわけです。

 ANAの国際線も国内と全く同じインターバルです。ですから国際線のクルーが楽しくうろうろ物見遊山になんてことは全然ありません。
 海外で24時間あるというのはたまたま乗務予定していた便が飛んで来なかったり、日本が台風でキャンセルしたとかイレギュラーのためでして、いつもいつも遊ばせてくれませんよ。海外旅行のお客さんの行動と重ねないであげてください。国際線の実態をどうぞ優しく見てあげてください。
 以上、ANAパイロット組合の協定書より。私見解説を含む。

詳しいご解説、ありがとうございました。(星田)