--- 素朴な疑問集 ---
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疑問No.961 (2012.03.13)

Q. はっちゃんからの疑問

 この疑問は、もしかしたらお答えがいただけないのではと思っています。でも、昔からの疑問なので、よろしくおねがいします。
 動物に関する疑問です。
 偶蹄目と奇蹄目があります。蹄(ひづめ)が偶数か、奇数かで分類しているようなのですが、その区別はどれほど大切なことなのでしょうか? その方法で区別することが、どれくらい適切なのでしょうか?
 角の数で分類するようなこともあるのでしょうか?
 動物の分類については、ほかにもお聞きしたいことはあるのですが、いちばん気になっていることをまずお聞きしたいと思います。

角の数で分類するってのは、あまり聞いたことがないですよね。(星田)


A. 子沢山さんから

 はじめに、はっちゃん様は、偶蹄目、奇蹄目と「目」という生物学の分類上の単位を用いていますが、現在では分類が変わってしまっていますので、適宜、「目」とあいまいな「類」を使い分けて解説します。

 同様の疑問を自分も子どものころから思っていました。
 蹄があるという身体上の特徴をもって有蹄類というグループができるのは納得できるが、それを蹄の数が偶数か奇数かという人間が作り出した算術のルールで分けるのが解せませんでした。
 蹄の数が1と3の動物より、1と2の動物の方がより近縁だったりするのではと思っていました。
 実のところ、偶蹄目、奇蹄目という分類の基本は、ただ単に指の数が偶数か奇数かということより、体重をどの指で支えているかがポイントで、その結果として指の数が偶数のグループと奇数のグループに分かれているということになります。
 もちろん、蹄以外の身体的特徴も考慮されています。
 さらに、この有蹄類の分類は、今ではすっかり変わってしまっているというのが現状です。
 今日のようにDNAから生物の遺伝情報が得られるようになる以前、生物の分類は現生の生物やその祖先の化石などの形態学的な特徴を中心に行われてきました。
 そこで、平地を速く走ることにのみ足を特化させ、足のかかとを接地せず、指先だけで体重を支えるような蹄の構造を持つ動物同士は近縁だろうと推測され、有蹄類というグループが考えられます。
 次に、主にどの指で体重を支えるか?ということで分類します。
 第3指と第4指の2本を中心にして支えるグループと第3指の1本を中心にして支えるグループです。
 どちらのグループももともとは5本指でしたが、進化の過程で指の数が減っていきます。
 大雑把にいうと、前者は、5本指から、第2、3、4、5指の4本、さらには第3、4指の2本へと進化していきます。
 カバ、シカは4本の状態(ただし、シカは接地するのは2本のみ)まで進化し、ウシ、ラクダは更に2本の状態まで進化しています。このグループが偶蹄目となります。
 後者は、5本指から、第2、3、4指の3本に、更には第3指のみの1本と進化していきます。
 サイとバクは3本の状態(ただし、バクの前足は4本)まで進化し、ウマは完全に1本の状態まで進化しています。このグループが奇蹄目となります。
 このように、奇蹄目と偶蹄目があり、それらをまとめた有蹄類を考え、有蹄上目として設定するという分類はそれなりに説得力を持っていました。
 ところが、先に述べたようなDNAによる遺伝情報がわかってくると、同じ蹄をもっているといっても偶蹄目と奇蹄目はかなり離れた種類の動物であることや、逆に一見全く似ていないクジラ目が偶蹄目に近縁であることが判明してきました。
 そこで、かつての奇蹄目、別名ウマ目はそのままですが、偶蹄目はクジラ目とまとめられ、鯨偶蹄目、別名ウシ目という新しい目が認められてきています。
 こうなるとかつての有蹄上目という分類単位は崩壊し、現在では有蹄類は生物学上の正式な分類単位ではなくなり、クジラを除いた鯨偶蹄目、奇蹄目、長鼻目(ゾウ目)を便宜上まとめたグループということになっています。
 そして、かつての偶蹄目と奇蹄目の蹄は、全く別の種類の動物が同一環境に適応したため、同じような形態に進化(収斂といいます)した、平行進化の結果という解釈がなされています。
 なお、角により動物が分類されるというのは、ウシ目の動物の分類をする際に、中に骨の芯があり枝分かれせず、生え変わることがない角を持つウシ科か、皮膚が盛り上がっただけで毎年生え変わり、枝分かれした角を持つシカ科か分類する、さらにシカをその角の枝別れの仕方で細かく分類するなどの際に使われることがあります。

A. 半可通さんから

 まず有蹄類という動物は草食性であることが大きく関係しているようです。
 そしてその有蹄類を外見上の特徴で偶蹄目と奇蹄目に分類した(特に足跡で見分けやすい)というのが、そもそも真相のようで、奇蹄類はウマ・バク・サイの3科、偶蹄類はウシ・ヒツジ・キリン・シカ・ラクダ・カバ・イノシシなど9科に分けられるそうです。
 この蹄の数による分類が、動物の進化系統と解剖学上でも有意差が認められたために、結果的にこの分類が残されたということみたいです。(以下、話を単純化する為に奇蹄類代表をウマ、偶蹄類代表をヤギとして、その進化と消化器官について説明します)。
 有蹄類という草食動物は、常に肉食動物(イヌ科、ネコ科)に狙われてるために、イヌ科、ネコ科から逃げ切れるだけの脚力を備える必要が有ったわけで、そのために蹄が発達したと考えられてます。
 つまり裸足の肉丘使って足音を忍ばせ近寄るイヌ・ネコ科動物に対して、常に運動靴を履いてダッシュで逃げられる準備をしてるわけだ。
 草の豊富な草原で速く走るために特化されたのがウマだと考えられてます。重心の掛かる中指の蹄だけが発達しました。
 山岳地帯の岩場でバランスを崩さずに移動できる能力を備えたのがヤギだと考えられてます。こちらは中指と薬指に均等に力が配分されました(丁度、とび職の人達が地下足袋を愛用してる理由と同じ理屈らしい)。
 ところで、有蹄類が食べる草は非常に消化が悪いので、普通の動物が持つ消化器官では消化吸収できません(現代人はダイエットと称して繊維分を積極的に摂取してますが)。草食性動物である有蹄類は、消化器官の中に植物の細胞壁を破壊する細菌を大量に住まわせて細菌に拠る醗酵を体内で行うそうです。
 奇蹄類の場合、その細菌を住まわせてる醗酵器官は盲腸。ただし盲腸は小腸と大腸の間にあるため、奇蹄類の栄養吸収は主に大腸で行われることになり、結果的に消化吸収率は非常に悪い(言い換えれば奇蹄類の糞は栄養豊富な肥料になる)。草の豊富な草原に住む奇蹄類だから消化吸収率が悪くても生存できるし、奇蹄類の糞がよい肥料となって草原も維持されるという自然サイクルの中で奇蹄類は発達して来たと考えられる。
 偶蹄類は山岳地帯に適応したわけですが、その環境では餌が少ないので消化吸収効率を上げる必要があった。そこでヤギやウシは、小腸の前の胃や食道に醗酵器官を設けてる(ウシに胃が4つあるのは有名)。
 この醗酵器官の位置が小腸の前に有るのが偶蹄類で、小腸の後ろに醗酵器官があるのが奇蹄類とするのが、解剖学上の正しい認識なのだそうです。
 ちなみに醗酵器官の位置のおかげで、奇蹄類はオナラが多く、偶蹄類はゲップが多いという特徴も持ってるそうです。
 速く走ることに特化した奇蹄類が3科しかいないのに対して、偶蹄類が9科も存在するのは、消化吸収効率のよさで環境悪化で食料が乏しくなっても適応能力が高く「より多くの個体が生き残り易かった」からだろうと考えられてます。
 元々、有蹄類の分布状況を調査する際に、その実際の姿を捉えられなくても、足跡を調査する事でおおまかに把握できる点から、動物学者が未確認の有蹄類を便宜的に分類する上で蹄の数に着目したのは必然と言えるでしょう。
 後に、奇蹄目には特異な進化の痕跡も見付かり、また消化器官の特徴もあるので奇蹄目を他の進化系統から分けることには大きな意味があります。
 偶蹄目という分類には近年異論も出ており、将来的にはウシ目や長鼻目などに細分化される可能性が大です。雑食性の種もいれば、肉食性の種もいるなど、多様化が進んでるためにその身体的特徴も様々です(鯨もゲノム上では偶蹄目に近いが蹄すらない)。