この質問にはピアノ調律師である私が答えなくてはいけませんね。
モーツアルトの頃のピアノは57鍵でした。
ベートーベンの頃に、61鍵→65鍵→68鍵→78鍵に増えます。ピアノの鉄骨(鋳物)の技術が発達し、より強い張力に耐えられるようになったこととベートーベンがこの広がった音域を使って作曲した結果でしょう。
ショパンの頃に81鍵まで増えましたが、ショパンは当時普及していた78鍵を超える曲を作曲していません。
その後ピアノは高度な技術に対応するため、アクション(内部構造)も改良され、大ホールに対応できる音量を求められ、現在の88鍵が一般的になっていきました。
鍵盤の数が増えると使用出来る音域が広がるだけではなく「倍音」が増えるので、豊かな音色/大きな音量、になります。ラヴェルの『水の戯れ』では、88鍵全部が使用されています。
ちなみに、ベーゼンドルファーの最上級のグランドピアノ「インペリアル」は97鍵です。最低音の「ラ」の下に9個増やして「ド」まであり、完全な6オクターブになっています。
88鍵に慣れているピアニストがミスタッチをしないように昔は蓋が付いていましたが、現在では蓋が無くなり、代わりに白鍵が黒く塗られています。
バルトークのピアノ協奏曲第二番は、この「インペリアル」の使用を前提として作曲され、88鍵を超える低音が使われています。
ベーゼンドルファーの88鍵最高機種であるモデル280は、19,950,000円ですが、97鍵のモデル290インペリアルは、21,000,000円です。鍵盤9個で、1,050,000円の違いがあります。
簡単にいうと、曲の使用音域/音色/音量/価格、などから88鍵に落ち着いたというのが答えでしょうか?
ピアノは音が高くなるにつれて弦長が短くなるので音が小さくなります。そのため最高音から十数個の弦には音を止める装置(ダンパー)が付いていません。普通は押さえた鍵盤から指を離せば音は止まりますが、最高音部は止まりません。そうやって少しでも響きを増やして弱点をカバーしています。
88鍵より上の音を増やせばもっと音が小さくなり、そのため音程の判断も難しくなります。