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朝日新聞夕刊 2002年9月25日 「あなたの謎とき隊」


「最初はグー」じゃなきゃだめ?

ドリフの影響だヨ!
世代・地域で様々、TVで共通語に


「さいしょはグー、いんじゃんほい」。
おともだちとじゃんけんするとき、こう言います。なぜ、「さいしょはグー」なんですか?

 =大阪府交野市・6歳の女の子=

最初はグー

 近所の小学生たちとじゃんけんをした。「最初はグー、じゃんいけんでほい」。兵庫県西宮市でもやっばりこう言う。なぜ最初はグーなの?「そんなの知らないよ」。だけど、「最初はパー」と自分だけいきなりパーを出し、みんながグーなので「勝った」と言うこともあるとか。それはズルだぞ!
 お母さん(37)は大阪で育ったが、「私が子どものころは、最初はグーとは言わなかったのに」。私の周りの40代以上の多くの人もそう証言する。
「The Toastsand III 雑学のすゝめ」というホームページに手がかりを見つけた。奈良県大和郡山市の星田直彦さん(40)が開いていて、その中の「素朴な疑間集」で議論されていた。それによると、ザ・ドリフターズの「8時だヨ!全員集合」(TBS系)がきっかけではないかという。志村けんさんと仲本工事さんが「最初はグー」と、じゃんけんする場面があったというのだ。
「8時だヨ!全員集合」は69年から85年まで放映され、50%の視聴率を誇った名物番組。当時のプロデュ−サー居作昌果さん(68)に聞くと、「確かにじゃんけけんコーナーがあり、広まる発端になったのだろう」と話す。ただし、番組で作られた言い方ではなく、どこかで言われていたのを番組で使ったのではないかと言う。アシスタントディレクターだった米谷裕輔さん(52)は
「だってぼくが子どものころ、すでにそう言っていたから」。米谷さんは北海道静内町の出身だ。

  ■         ■

 じゃんけんの掛け声はさまざまだ。私の育った東京では「ちっけった」と言った。詩人の川崎洋さん(72)は全国を調べ、「日本の遊び歌」(新潮杜)で200種以上を紹介している。たとえば――。

「はーぜっせっせ」(山形県酒田市)
「やっきゅー」(いわき市)
「あいらっぴ」(千葉県船橋市)
「りーしゃったっ」(岡山市)
「まーこーかほい」(高知市)。

 川崎さんが調べたのは25年ほど前。これらの掛け声をいまも使っているのか、各市教委に尋ねたら、「もう言わない」がほとんどだった。

「じゃんけんほかほかほっかいどうあいこでアメリカヨーロッパ」(札幌市)
「じゃんけんもってすっちょんほい」(山口市)

これらは生き残っていた。
 じゃんけんははやり廃りが激しいと川崎さんは言う。だから世代差が大きい。「私が子どものころはいきなり、『じゃんけんぽん』でした。ドリフターズの『最初はグー』を聞いて、こんな言い方があるのかとびっくりしたのを覚えています」
 北海道から沖縄までの10市教委の20代、30代の職員に掛け声を聞いた。全員「最初はグー」と言う。そして「じゃんけんぽん」が最も多く、次が「じゃんけんほい」だった。
 「ぽん」か「ぽい」か「ほい」かも地域で割れる。NHK放送文化研究所の「放送研究と調査」(95年2月号)によると、「ぽん」「ぽい」が全国的に分布するのに対して「ほい」は西日本に偏っている。
 このように地域色の濃いじゃんけんの世界での共通語が、テレビから育った「最初はグー」だったのかもしれない。

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 それにしても、なぜ「最初はグー」なのか。
「そりゃ、グーチョキパーだからですよ」。「世界のじゃんけん」(今人舎)を薯した田中ひろしさん(48)の意見だ。「パーチョキグー」とも「チョキグーパー」とも言わない。「だから最初はグーなんです」。なるほど、簡潔で力強い答えだ。
 子どもはグーを出しやすいそうだ。だから「最初はグー」で考える時間をかせぎ、パーとチョキが出やすいように誘導しているという説もある。朝日新聞夕刊2002.09.25

「それではじゃんけんの楽しみが半減するでしょう」と話すのは日本女子体育大学の二階堂邦子教授(54)=保育学。「最初億グーというと、本番でグーが出しにくくなる。グー、チョキ、パーのどれを出そうかと考え、それを手に表すことで子どもたちは育っていくのです」。幼稚園長も務める二階堂教授は子どもたちと遊ぶとき、「最初はグーとは言いません」。
 赤ちゃんは手を握って生まれてくる。「だから最初はグーといら言葉は人間の原点をついたものだけれど」と二階堂教授。
 ところで、質問をくれた女の子は、じゃんけん強いのかな?
「うーん、よくわからないけど、『最初はグー、いんじゃんほい』でまた鬼ごっこしよう」
(隊長・河合 真美江)