--- 素朴な疑問集 ---
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疑問No.048 (2000.7.17)

Q. こういちさんからの疑問

 東京の営団地下鉄を利用していて思うのですが、駅の英語表現について気になる点があります。

   新橋…………Shimbashi
   日本橋………Nihombashi
   新宿…………Shinjuku 
   銀座…………Ginza

 新橋、日本橋等は、「ん」が「m」になっています。普通は、「n」ですよね! 新橋は、「Shinbashi」ではいけないのでしょうか?


A. LEMONedさんから

 どこかで聞いた話なのですが、これは、「ん」の次の子音によって、変わるようです。
「しんばし」の「ん」のところで、絶対に口を一度閉じますよね(やってみてください)。この状態を、アルファベットの「m」で表記してるみたいですよ。
 なので、「あんこ」の「ん」は「n」ですが、「あんぱん」の最初の「ん」は「m」なんですって。
 音声学的にそうなのかは知りませんが、そういう事情はあるようですよ。明確な答えになってなくてごめんなさい。

A. Kエイブさんから

 これは、英語的な表現に近づけたものだと思われます。「N」「M」は同じ「ん」でも違います。「N」は唇をつけないで「ん」。「M」は唇をつけて「ん」と発音します。
 音的にはほぼ同じなのですが、ではどう使い分けるのでしょうか?
 それは、「ん」の次に来る音で変わるのです。
  唇をつけて発音する「ば」「ま」「ぽ」などが直後…………「M」
  唇をつけないで発音する「あ」「か」「ざ」などが直後……「N」

A. 愛と感動をお届けする、さすらいの吟遊詩人さんから

 日本語の「ん」が「m」になるか「n」なるかは次に来る子音によります。「案内(あんない)」と「塩梅(あんばい)」の二つの「ん」を発音してみてください。
 「案内」の「ん」……舌が上あごについている。
 「塩梅」の「ん」……唇が閉じている。
 つまり、舌が上あごにつく「ん」は「n」で、唇が閉じているのは「m」なのです。

A. まいかさんから

 そもそもの原因は、日本語と英語における「ん」音の発音の違いなんですね。
 日本語にあるのは飽くまで「ン」の音であって、「n」ではありません。日本語の「ン」の音は原則として舌先が上歯茎につかず、口腔は完全に閉鎖されません。しかし、英語の「n」は、舌先が必ず上歯茎につく形で発音され、口腔が完全閉鎖されます。そこで、この状態から「b」という音を発音することには相当な無理がある訳です。
 しかし、「m」音の発音における口腔の閉鎖状態は、日本語の「ン」に近いものであって、両唇だけの閉鎖です。ですから、なるべく元の日本語に近い表記をするためには、「n」よりも「m」の方がよい、というわけです。

A. たー坊さんから

 実際にゆっくり「しんばし」「にほんばし」と発音して頂けると分かると思いますが、「ば」の前の「ん」は「銀座・新宿」と言う時の「ん」と違って、唇が閉じた形をしていると思います。これがつまり「m」の発音です(「む」ではなく、あくまで唇を閉じるだけ)。
 文字としては「ん」一文字しかありませんが、唇を閉じて発音するバ行、パ行、マ行の音の前では我々は無意識に「n」ではなく「m」の発音をしているのです。
 つまり Shimbashi や Nihombashi は、実際の発音をローマ字表記しているということですね。「新聞」を Shimbun と表記するのも同じ理由です。ちなみにこの表記方法を「ヘボン式」といいます。

A. うにうにさんから

 JRをはじめとする鉄道各社では、駅名のローマ字表記にヘボン式を用いています。これは明治初期に来日していたアメリカ人宣教師のヘボン(Hepburn)さんが和英辞典を編集する際に定めたものです。
 ヘボン式では、b、m、pの前の「ん」はmと表すことになっています。これは実際の日本語の発音がそうなっているのに合わせたものです。試しに、「しんばし」と発音しようとして、「ば」の直前でとめて見てください。口が閉じられていますね。つまり[m]の発音です。
「ん」にはいくつもの発音があり、「しんおおさか」は[N]、「しんこがねい」は[ng]、「しんとちぎ」は[n]、そして「しんばし」は[m]です。要するに、次に来る子音を発音する構えで、声を鼻に抜くと、これらのさまざまな「ん」が出るわけです。
 ヘボン式は発音記号ではありませんから、これらを全部書き分けることはしませんが、mだけは区別しています。これは、他の「ん」と比べると[m]は口を閉じる動作が外から見えるので、nで表記するのに違和感があったのではないでしょうか。

星田からの疑問
》それにしても、日本語の「ん」には、たくさんの発音を当てているのですね。
》ほかのひらがなで、そんな例はあるのでしょうかね?

 基本的にひらがなの発音は一通りですので、「ん」だけが例外といってよいと思います。細かい話をすれば、「えい」と書いてあっても「えー」と読むケースが多いとか、いろいろありますが、それにしても「ん」のケースはやはり目立っています。

A. syamaさんから

「お答え」というよりも「ヒント」に近い内容ですが……。
 以前勤めていた会社の同僚も、いくつかの駅のローマ字つづりについて疑問を持ち調べたところ、基本的に、昭和22年7月26日付けの「鉄道掲示規程」に基づいているということがわかったそうです。
 しかし、JRや営団地下鉄以外の私鉄各社の場合、私鉄各社の慣例も含まれていることもある様子です。
 詳しくは、元同僚のホームページの以下の部分をご参照ください。

・東京近郊駅名ローマ字つづり
 
http://www.asahi-net.or.jp/~ez3k-msym/charsets/ekiroma.htm

A. みってらんさんから

 西ヨーロッパ言語では、「B」「P」の前の「N」=「ん」が「M」になる
法則があります。
「B」や「P」の発音は、両唇を閉じて発音しますね。「ん」と発音して、続いて「B」や「P」のつく単語を発音をするときには、「N」+「B」の音は「うむ」と聞こえます。ゆえに、「B」「P」の前には「N」は存在しません。
 いろいろな西ヨーロッパ単語を調べてみると解りますよ。

A. ASSASSINさんから

 ヘボン式ローマ字の表記法則として、「N」の直後に「B」、「M」、「P」が続く場合は「N」が「M」に変化します。たとえば、「とんぼ」は「TOMBO」、「らんま」は「RAMMA」、「かんぱい」は「KAMPAI」というように表記されます。
 この法則に従えば、「オニヤンマ」は「ONIYAMMA」となるはずですが、なぜか「ONI−YAN−MA」と表記されているみたいです。人間以外の生物の名前だけは表記方法が違うのかもしれません。

A. りんかず先生さんから

 参考になるかどうかわかりませんが、スペイン語を例にとって考えてみます(スペイン語を勉強中ですので)。
 やはり、スペイン語でも「ン」に相当する発音は「n」で表されますが、スペイン語にはある法則がありまして、それは、「ン」の次の綴りが子音の「b」または「p」の場合、本来は「n」であらわすはずの所を「m」であらわすのです。
 もっとも、ご質問はスペイン語に関することではありませんが、アルファベット表記に関しても同じような「法則」があるのではないかと思います。

A. あめさんから

 さて、このたびの「Shimbashi表記問題」について、たくさんの情報が寄せられているようですね。この疑問には、疑問を複雑にする多くの要素があると思われるので、整理させていただくと……、

  (1) JRの表記についての問題
  (2) ヘボン式における日本語「ん」の2種類の表記の問題
  (3) 日本語「ん」の音素についての問題

の3種の話が議論の中に混在していられるように見受けられます。
 まず、(1) の問題については、うにうにさんをはじめとする皆様が説明しているとおり、「JRがヘボン式を採用しているから」です。これに関しては企業の採用したことなので(いや、採用した際には国営でしたけれど)、口を挟まないことにします。(ひとことだけ言うと、この表記のルールと異なる表記でかかれている駅もすくなからずあったりします。わりと鉄道マニアの間では有名なはずですが……。)
 では、(2) なぜ、ヘボン式が、「ん」のアルファベット表記を2種に区別したのか、という問題です。これは、ヘボン氏がアメリカ人(正確に言うなら英語を母語とする人)であったことに起因しています。要するに、ヘボン式とは、「英語を母語とする人が聞くと、日本語はこう聞こえるのだ」、というのをベースに決められた表記方法にすぎない、ということですね。したがって、日本語本来の言語体系(というか、音韻体系)をほとんど無視した、単なる音写になっています。
 たとえば、ヘボン式だと、動詞「立つ」の語尾変化などが
  tata
  tachi
  tatsu
  tate
  tato
などと、日本語の音韻体系を無視した結果、3種類の表記が混在する、きわめて不可解な変化をすることになってしまいます。
 音韻体系は本来その言語体系に基づくもので、実際の音声がどうこう、というのと一致しません。たとえば、イタリア語の音韻体系では
  表記:ca ce  ci co cu
  音声:か ちぇ ち こ く
のように発声されます。
 表記は基本的に、その言語の文法や音韻の体系に従って行うべきであり、その意味で、ヘボン式で日本語を表記することはナンセンスです。だから日本語母語話者が「Shimbashi」という表記に違和感を覚えるのは、当然のことといえます。
 そして最後に(3) 日本語の音素に関する問題です。
 比較的メジャーな言語で使われている音声でいえば、日本語の音素/ん/のカテゴリに入る音声は「m、n、ng(音声記号がJISにないのでご勘弁)」の3種類が主なものです。それぞれ、唇音・舌音・喉頭音ですね。どのような場合にどの音声が発話されるのかについては、多くの方が説明されておられるようなので省略します。
 ちなみに、英語においては、3種とも音韻体系としては弁別しますが、nとngとを区別して表記するための文字は存在せず、喉頭音は「ng」とか「nk」などと表記されることが多いようです。
 ヘボン(いやしかし、現代日本語で言うならばこの名前も「ヘップバーン」と表記するべきかもしれませんが)の表記が2種類となっているのも、恐らくはこの英語の表記上の問題が背景にあるのだと思います。

A. いまいさんから

(「新橋」の話題に関連して……)
 昔、古典の先生に「牛」と「馬」の「う」の発音は違うと言われました。発音して口の動きの違いをみてみて下さい。昔の日本人は今よりいろんな発音をもっていたといわれます。昔の日本語は、英語や中国語のようないろんな母音をもった言語だったらしいです。その名残が先の例らしいです。

A. 犬川 烏天さんから

 ローマ字のつづり方については、それをテーマとしたサイトもありますが、「ヘボン式ローマ字」について基本的なことを確認しておきます。

1.ローマ字(厳密には「字」ではなく「つづり方」なので、「ローマ字つづり」というべきかもしれませんが)には、「ヘボン式(標準式)」「日本式」「訓令式」の3つがあります。

2.それぞれの特徴としては、「ヘボン式(標準式)」は英語話者の立場から日本語の子音の実際の発音をできるだけ忠実に写そうとしたものであるのに対し、「日本式」は「行」(50音表の縦列。あ行とかか行とか)ごとに用いる子音字を統一することを優先させたもの、そして「訓令式」は両者を折衷したものということができます。

3.小学校で教えられているローマ字(ほとんど教えていない学校もあるようですが)は、昭和29年の内閣告示による「訓令式」です。「広辞苑」などの国語辞典には、巻末付録に「訓令式」と他の2方式のつづり方が記載されています。

4.「ヘボン式」と「訓令式」で表記の異なる音は、以下の14音です。

 シャ、シ、シュ、ショ、チャ、チ、チュ、チョ、ジャ、ジ、ジュ、ジョ、ツ、フ
訓令式:sya, si, syu, syo, tya, ti, tyu, tyo, zya, zi, zyu, zyo, tu, hu
ヘボン式:sha, shi, shu, sho, cha, chi, chu, cho, ja, ji, ju, jo, tsu, fu

 ただし、「訓令式」のつづり方を定めた内閣告示には「まえがき」には、「国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある限り、第2表に掲げたつづり方によってもさしつかえない。」とあり、第2表には、上記14音のほか、
 di, du, dya, dyu, dyo, kwa, gwa, wo
の8つが掲げられています。

5.同じく内閣告示の「そえがき」には、はねる音やつまる音等の表記法について記されていますが、備考として、「ヘボン式」の「訓令式」との違い、つまり、
「m, b, p の前でははねる音「ン」にmを用いる」
「次にchがつづく場合にはつまる音「ッ」に(cではなく)t を用いる」
という2点が特に記されています(上記は原文どおりではありません)。
「訓令式」のmatti, bottyan が、「ヘボン式」では matchi, botchan となるわけです。

6.jump, hummer, match などの単語を想起すれば、「ヘボン式」が子音に関してより「英語的」な表記法であることがわかります。中学1年の英語初学者に、学習塾では「ヘボン式」のローマ字を教えますが、「訓令式」と比べると複雑なので、最初のうちはやはり「訓令式」で書いてしまう間違いのパターンが目立ちます。
 英語は国際語としての地位をほぼ確立している言語であり、日本人同士の間だけならそもそもローマ字自体無用のものであることを考えれば、ヤヤコシくてもローマ字は「ヘボン式」で習得した方がよいと私は思います。

7.ちなみに、英語において、両唇を使うp, b, m, w を「両唇音 bilabial sounds」、下唇と上の歯で音を出すf, v を「唇歯音 labio-dental sounds」といいますが、いずれも日本語の似た音とは微妙に異なると考えた方がよいでしょう。