--- 素朴な疑問集 ---
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疑問No.054 (2000.08.22)

Q. まさたかさんからの疑問

 息を吸って、吹くときのことなのですが……。
「ふ〜」と吹くのと、「はぁっ〜」と吹くのとでは、「はぁっ〜」と吹く方が暖かい。いったいなぜですか?


A. またたびさんから

「ふ〜」のほうは勢いよくく手にあたるので、手のまわりにある体温で温められた空気をふっとばしてしまいます。すると、まわりの冷たい空気がそこへ入りこんでくるので冷たく感じられのです。

A. うにうにさんから

 実はこれは非常に難しい問題で、私も加わっている「理科教育メーリングリスト」というところで以前大議論になったことがあります。(なお、以下の説明で「皮膚」と書いたり「手のひら」と書いたりしていますが、これは「呼気を手のひらで受けとめたとき」という前提で説明をしたほうが話がしやすいため、便宜的に使っているだけです。腕だろうと顔だろうと、理屈は同じです。)

結論から言うと、

(1) 「ハー」のほうは、肺の中で体温近くまで暖められた空気がそのまま出てくるので暖かい。「フー」のほうは、(ある程度の風速があるので)摩擦により、周りの空気を巻き込みながら流れる。通常、周りの空気は体温より冷たいため、温度が下がる。口から離れて先に行くほど、巻き込む量は増えるので、温度はさらに下がっていく。ただし周りの空気より冷えることはない。

(2) 体の表面には、厚さ数mm程度の空気の層があって、皮膚をおおっている。いわば「空気の着物」である。この層の気温は、当然、体温よりは低いが周囲の温度よりは高くなっており、またこの層が厚いほど、空気と皮膚との間では熱が伝わりにくくなる。「ハー」よりも「フー」のほうが、風速が大きいため、この「空気の着物」を吹き飛ばしてしまう。このため、皮膚は周囲の空気によって冷やされ涼しく感じる。

このほかにも、

(3) 手のひらの表面にある水滴が蒸発するときに奪われる蒸発熱の効果。
 手のひらが汗をかいているときなど、「フー」のほうが皮膚表面を通過する空気の体積が多いため、汗が多量に蒸発する。(風があるときのほうが洗濯物は乾きやすい。)このため、蒸発熱も大きくなり、その分だけ冷える。

(4) 呼気中にある水蒸気が手のひらの表面に水滴となって付着する際に発生する凝縮熱の効果。
「フー」よりも「ハー」のほうが(1)、(2)の理由により、温度が下がらないため、呼気中の水蒸気が飽和することなく手のひらにまで到達するが、(特に冬の戸外など)手のひらは冷えているので、水蒸気が凝結して水滴となり手のひらの表面に付着する。このときに熱を発生するので、手のひらを暖める。

(5) 空気が狭い空間から広いところに押し出される際の圧力変化による温度低下。
 気体が膨張するにはエネルギーが必要だが、膨張に要する時間が短いと、周囲からの熱エネルギーをもらうひまがないため、自分の持っている熱エネルギーを消費して膨張する。このため気体の温度が下がる。これを断熱膨張という。

(6) 口と手のひらとの間の距離の違い。「ハー」はあまり遠くまで届かないので、「ハー」を受け止めるときはもともと手のひらを口の近くまで持っていくことが多い。これに対して、フーはある程度口から離れていても届くので、(1)による効果が大きく出る。

などの要因も考えられます。

 これらのうち、どれが大きく効いているのかということですが、メーリングリストでの議論の際にいろいろと実験や計算をしてみたところでは、(1) の巻き込み効果が大きいということになりました。
 手のひらを口許に密着させたようなときは、巻き込むだけの距離がありませんので、(2)や(3)が中心となるのでしょうが、多少(数cm)でも離れれば(1) の効果が効いてきます。このため、同じ「フー」でも手を口から話すほど、より涼しく感じます。

 (3) については、皮膚をラップで覆って汗が蒸発しないようにしても、フーのほうが涼しく感じますし、また温度計で測ってみてもフーのほうが温度が低いので(温度計は汗をかきませんから)、主要因とはいえないでしょう。ただ、汗をかいた皮膚のほうが、「ハー」と「フー」の温度差を大きく感じるのは、これが原因といえます。

 (4) は、結論の一致を見ませんでしたが、私はあまり大きな要因ではないだろうと考えています。

 (5) について一言。この現象は、空気の塊が上昇するときに冷えて雲を作るのと同じ理屈なので、しばしば雲のできかたや断熱膨張の説明のときに、「ハーよりもフーのほうが涼しいのは断熱膨張のせいだ」と言われることがあります。しかし、口〜肺のなかで空気をためても、大して圧力を高めることはできないので、断熱膨張現象による温度低下の寄与もごくわずかなものに留まります。
 メーリングリストで出された数字では、0.014℃程度という計算がありました。また風速を上げればその分冷えるが、20m/sで0.3℃程度だそうです。20m/sといったら、ちょっとした台風なみです。というわけで、少なくとも「ハー/フー現象」の主要因ということはできません。
 しかし、一般向けの科学書などでこれを主要因としてあげているものがあり、注意が必要です。例えば、パーサー・ゴーズ、ダイパンカー・ホーム著、笠耐訳『パズル・身近なふしぎ 見なれたものほど謎がいっぱい!』(講談社ブルーバックス、1996年4月20日発行)のp.98「熱い息、冷たい息」など。

(以上の回答を書くにあたって、理科教育メーリングリストでの議論を参考にいたしました。ここでの議論は公開されており、
http://www.rika.orgで読むことができます。)