Q. kazuさんからの疑問
スーパーのレジなどでよく耳にする言葉なんですが、支払いをしたときに、
「1万円からお預かりします」
と言われるときがあります。そのときの「から」が気になってしょうがないのです。もし「から」を使うのであればそのあとは、「お預かりします」ではなく「頂戴します」が正しいのではないでしょうか?
「お預かりします」を使うのであれば、「から」は使わずに入れずに、
「1万円をお預かりします」
でいいと思うんですが。
いつも「預かるのであれば返してくれよ」と心の中で思う私です。
A. つきみそうさんから
ずばり、間違った日本語使っている、というだけのことだと、私は推測しています。同じような例は、身のまわりにいっぱいあります。
「途中の停車駅は、○○、××、△△に止まります」
なんてのも、よくききます。
ニュース番組、バラエティ番組などで、出演者が、
「○○なんですけれども……、」
といっておきながら、その後に反対の意味の言葉が続かない、というのもあります。
「1万円から……」というのも、おつりのある金額をいったん預かる、というのと混同しているのでしょう。しかもそれがリズミカルで言いやすい、というので定着してきたものと推測します。
A. さくさんから
ちょうど、その言葉の調査の特集を、地元の新聞でしていました。
確かに、どう考えても文法的におかしい「一万円から」の、「〜から」ですが、様々な人にインタビューしたその記者の結論は、
「言葉の調子を良くするため」
つまり、「一万円、お預かりします」よりも、「一万円からお預かりします」の方が言いやすいからではないか、とのことでした。
私達にとっては、単なる一言でも、その店の人にとっては何度となく口にしなければならない言葉なので、より言い易いように進化を遂げたんでしょうか。
A. マコトさんから
ぼくはFF(ファーストフード)で働いていますが、アルバイトの子達は最初、何も教えないときには、ほぼ例外なく「〜からお預かりします」と言います。それで、ぼくはkazuさんの言うような内容のことを説明します。そうすると大体の子は「なるほど」と納得してくれますが、それを見て感じるのは、
「そんな意味なんて考えずに、なんとなく使ってるんだなあ」
ということです。
たぶん、「〜円、お預かりします。」よりも「〜円からお預かりします」の方が字数が多いからだと思います。つまり、字数が多い方が「より丁寧な言い方だ」という誤った風潮があるように思うのです。
たとえば他に、「アイスコーヒーのほう、サイズのほう、SMLとございますが、どういたしますか?」という言い方も多いです。これも、「アイスコーヒーのサイズは、SMLがありますが、どうなさいますか?」より字数が多いから、本人は丁寧に言っているつもりなんだろうと思います。聞いていて聞き苦しいですよね。
こういう間違った言い方がなんとなく使われて、いつの間にか市民権を得てしまっていることって、他にもいっぱいあるような気がします。
A. うにうにさんから
たとえば、8,000円の品物を買うときに一万円札を出したとします。このとき、店員の言葉として、次のようなものが考えられます。
a.一万円頂戴します/いただきます。
b.一万円から頂戴します/いただきます。
c.一万円お預かりします。
d.一万円からお預かりします。
a.ですと、お釣りが返ってこないようにも聞こえます。しかし、b.なら、
「一万円から(代金の8,000円分だけ)頂戴します」
ですから、そのような心配はなくなります。
ところが、実際の接客用語では、お金を「頂戴する」「もらう」という言い回しは、いかにも召し上げるといった露骨な感じを受けるからでしょうか、避けられています。代わりに用いられるのが、もっと遠まわしな言い方、いわば婉曲語法である「お預かりする」です。
この場合、預かったものを客に返すわけではありませんが、金が客から店に移動するという点では共通なので、用いられているのでしょう。また、お釣りがある場合は、「一旦大きいお札を預かってキープしておいて、その中から代金を精算して、お釣りを返す」ことになるわけですから、「預かる」という語を用いることへの違和感もすくなくなるといえます。
となると、c.には2通りの意味が生じます。
1つは本来の「預かる」の意味に近いもので、「客から一万円札を受け取りました。すぐ代金を精算して、お釣りを返します」という意味。もう1つは婉曲用法で、「代金として一万円(丸ごと)いただきました。」という意味です。
その結果、もしc.のような対応をすると、店員は前者の意味で言っているのに、客のほうは後者の意味で解釈してしまい、
「あれ、8000円なんだけど、お釣り返ってくるのかな?」
という気持ちになって、
「8000円ですよね」
と念を押すかもしれません。あるいは、客はそこまで思わなくても、店員のほうで、
「客に誤解されて不愉快な思いをされたら困るな」
と先回りして考えるかもしれません。
ともあれ、そのような誤解を防ぐため、店員としては「お釣りはきちんと返すんだ」という意思表示を込めた言い方をしたいと思うのでしょう。そこで、a.からb.が生まれたのと同様に考えて、c.からd.が生まれたのではないでしょうか。
つまり、店員としては「一万円(札を一旦お預かりして、その中)から(代金の8000円分だけ)いただきます」と言いたいところでしょう(この「お預り」は本来の語法です)。そして、( )内が省略され、さらに「いただきます」が婉曲語法になり、「一万円からお預かりします」という表現ができ上がったと考えられます。
★上記の回答は、メールマガジン『疑問温泉』に以前投稿したものを下書きに
して、うにうにさんが加筆訂正したものです。(星田)
A. 第六腰椎さんから
「一万円からお預かりいたしまぁ〜すっ!」
の「から」ですが、私も以前から気になっていて腹立たしくもありました。やはり文の意味からいって「から」は要りません。kazuさんのおっしゃる通り、「から」を使いたいのであれば、
「(お代・料金を)頂戴します」
とするのがギリギリのところでしょう。
この「から」のような言葉は、『マニュアル語』の象徴とでもいえるでしょうが、マニュアルにその通りに書いてあったとしたら、それこそ情けないですね。
コンビニのバイトなどが多用するこのような表現は、かしこまった言い方ということだけを意識して、その意味合いなどを考えずに語調をととのえるためだけに挟んだり言い換えたりする『横槍言葉』だと思われます。
似た例では、
「お煙草のほうはお吸いになられますか?」
の『ほうは』という『挟み込み式横槍言葉』や、
「お会計はあちらのレジでお願いするかたちになっております」
に見られる「お願いします」を『お願いするかたちになっております』と言い換える『取り替え式横槍言葉』などですね。
先日、バーゲン会場で耳にしたのは、ご存知『とか』。ブランドショップの店員があらたまった声で、
「○○のスタンダード・アイテム、インナーウェアとかご用意いたしておりますぅ」
という呼び込み。この『とか』は『など』にするべきか、『とか』を使わないべきかのどちらかでしょう。せっかくのブランド品も店員の呼び込みで、商品のクオリティーに横槍が入ってしまいました。
他人の言葉遣いほど気になりますね。自分も気をつけないと。長くなって申し訳ございません。
A. ASSASSINさんから
今から十年以上も前のことですが、当時、私は大阪に住んでおりました。ある日、JR大阪駅の近くに在る大型の書店(たしか紀伊国屋?)で、数冊の本を購入したことがあります。
そこのレジは面白いシステムでした。
会計窓口の店員は5人ほど居りまして、客が持ち寄った書籍類を梱包しながら、それらの金額を、背後に居る、たった一人のレジ専門の店員に伝えるのです。
「三千二百円!五千円【から】」
(販売価格合計\3,200に対し、現金\5,000札一枚を預かるという意味)
「四千五百円!JCB【から】」
(販売価格合計\4,500に対し、JCBカードで決済という意味)
「二千八百円!図書券と八百円【から】」
(販売価格合計\2,800に対し、図書券\2,000分と現金\800を預かるという意味)
レジ係の店員は、窓口の店員から販売価格を聞き、現金やカード、図書券などを預かり、清算し、手早く決済していくのです。
当時はまだ消費税も導入されておらず、コンビニ等では当り前のバーコードによるチェック・システムも一般的ではなかったため、このような清算システムが採用されていたのでしょう。
このように【〜から】とは、元々は客に対してではなく、身内の人間に対しての【言いまわし】であったと思われます。
「お客様から1万円札一枚をお預かりしましたので、これ【から】お買い上げ金額の合計○○円を頂戴し、清算してください」
という意味だったのでしょう。
つまり会計窓口の人間と、清算する人間が異なる場合において通用した独特の言いまわしであって、現在において【から】が頻繁に使われているのは、上記のようなシステムの名残ではないでしょうか?
課題の「1万円からお預かりします」の【から】とは、老舗の大型書店で使われているような言い方なのだから、これが正しいのであろう、と誰もが安易に考え、それが間違った方向へ普及していったのではないか……?、と私は推察します。
A. OKAさんから
たとえば1050円を払うとき、一万円札を出したら、店員さんはすこしこちらの様子をうかがいますよね。というのは たいていの人は50円玉を持ってないか小銭入れを確かめるからです。
そのままお釣りを貰うと8950円ですから玉(硬貨)がジャラジャラするので、10050円にして9000円のお釣りにしたいだろう……ということで。
で、こちらが黙っていると、丁寧な(慎重なあるいは口数の多い)店員さんなら、こうなります。
「一万円から(『頂いて』又は『で』)よろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
「一万円お預かりします。(と確認してレジを操作)8950円のお釣りです」
――と、これで一連が終わりです。
いちいち全部は口に出さない方も勿論いらっしゃいますが、以心伝心で確認してるなというのは伝わりますよね。
あと忙しいときなど、あるいは元々そういう性格なのか、ろくすっぽ確かめられないこともあって、
「あっ ちょっと待って!」
とポーズ要求を出さないといけないこともありますが……。
つまり
「一万円から(のお支払いでよろしいですか? 一万円札を)お預かりします」
という省略が行なわれた結果だと思うのです。
さきほどの会話例はプロトコルを着実に踏んではいるものの、スピード勝負の現代ではすこい時代遅れなのかもしれません。気の短い人は少々じれったいかもしれません。
省略は言語が進化するとき起こる一般的な現象でもありますから、それを余りとやかくは言わないほうが良いとも思います。
A. さくさんから
先日大学の集中講義で国立国語研究所の方の講義を受ける機会があって、そのときにちょうどこの話題が出ました。
研究所の方によると、この「〜から」は、たとえば7000円の買い物をして10000円を出したときの「一万円から」と言う場合は、
「一万円から(7000円を)お預かりします」
という意味だそうです。
でも、やっぱり気になる言葉ですね……。
★通りすがりさんからも、回答をいただきました。ありがとうございました。
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