Q. Hoshiyanさんからの疑問
昨年のゴールデンウィークのある日、中央道を愛車で走っていると爽やかな新緑に染まった野山がとても心地よく感じました。そのとき、ふと思ったことがあります。
それは、野山が緑なのはもちろん植物に覆われているからであり、植物が緑なのは葉緑素によるものとは分かりますが、緑に見えるということは緑の光を反射していることになります。つまり植物は光合成に緑の光を必要としないということです。
考えると、不思議なことです。太陽光をプリズムで分散してできるスペクトルを見ると、緑の光はほぼ真ん中にあり、言い方は変ですが、「緑の光は端っこの半端な光ではなく、光のなかの光」です。
光を効率的に吸収するのなら緑の光も吸収して、黒い方が良いはずです。そうなれば、地球の風景は陰鬱なものになったでしょう。黒色は熱を持ち植物の生存に不都合なのかとも思いましたが、それなら寒冷地や光が当たりにくい森の低木は葉が黒い方が生存に有利に思えます。
私には植物が光のなかの光である緑の光を不要とばかり反射する合理的な理由が見つけられず、「植物全体の意思として、敢えて人間や(植物が繁殖に利用している昆虫などの)動物が憂鬱にならないよう共存するため光合成に緑の光を使わないでいてくれるのか」と哲学じみたことを考えてしまいます。
みなさんは植物が光合成に緑の光を使わない理由、言い方を変えれば、植物はなぜ緑色しているのだと思いますか?
★「素朴な疑問」だとは思いますが、答えるのは難しそうですね。
A. 宇美浜りんさんから
植物が緑色をしているのは、背景の色に合わせて進化してきたから、と聞いたことがあります。
最初に植物が誕生したのは海のなかでした。海草には赤みがかかったものがあります。水は赤い光を吸収し青い光を反射するので、海中は青い光にあふれています。ならば水と逆のことをするほうが都合がよいため、青を吸収し赤を反射するため赤くなりました。
植物が地上に進出したときには、空には塵が多かったので夕焼けのように赤い空でした。赤い光を反射する赤い植物は生きていかれないので、今度は青みがかかった色になったといわれています。
そして空が現在の色になったとき、植物はどの色を選んだか。今まで青い海では赤み、赤い空の下では青みと背景と反対の色を選んできました。ならば地面の茶色と反対になる緑色を選ぶのが自然でしょう。しかも緑色なら赤も青も吸収できます。
なぜ黒ではないのかは、結論は聞いていませんが、やはり虫と共存する種類なら、地味な色を控えたでしょう。それに赤や青を活用しているのに緑まで、そこまで欲をかく必要もありません。人間以外の生物は欲張りではありませんから。
「緑の光は真ん中、半端ではない光の中の光」ですが、三人兄弟の真ん中の子が必ずしも長男と末っ子の長所を併せ持った優秀な存在かといえば、そうとは限りません。むしろ両方の悪い部分を持ってしまい「長男と末っ子はいいけど真ん中の子は
問題児、って場合も多いよ。」ということは『だんご三兄弟』が流行ってた頃によく耳にした会話です。
このように、赤・青・緑の順に進化したという説を信じる場合、面白い現象がゲームに登場します。
バイオハザードシリーズの初期は、赤・青・緑の薬草がそれぞれ、触媒・解毒・体力回復の効果を持ちますが、同社の『ディノクライシス』で薬品調合時の薬品ランクは、触媒・止血剤(事実上は毒状態の治療)・体力回復薬の順でランクが上昇します。先の説に従ったのかも。
この説は80年代初期に書物などで語られ、当時は色つきの化石(物的証拠)がなかったので仮説でしたが、のちにこれを否定する発見があったかは聞いたことがなく、個人的にはそれなりに説得力がある説だと思ったので紹介しました。
A. 子沢山さんから
Hashiyanさんの疑問は、「葉緑素が光合成に緑色光を利用しない理由」という、metaphysical(形而上学的)な内容なので、造物主しか答えようがないのでしょうが、凡人には「葉緑素が光合成に緑色光を利用していない状態の説明」という、physical(物理的)な回答でご容赦ください。
葉緑素の基本構造は、ピロール環という構造を4つ環状につなげた「テトラピロール環」という構造をしており、動物のヘモグロビンに含まれるヘムやビタミンB12と共通した構造をしています。
このテトラピロール環は共通して波長
400〜500 nm(ナノメートル)や 600〜700 nm
付近の可視光を吸収する性質があり、その結果みな特有の色をしています。
前者の吸収域をB帯といい紫色〜青色に、後者の吸収域をQ帯といい赤色に相当します。また、テトラピロール環の中心は金属と結合することができ、葉緑体はマグネシウム、ヘムは鉄、ビタミンB12はコバルトと結合しており、その金属によりテトラピロール環の構造が多少変化し、光の吸収域や吸収量が変化します。
ヘムやビタミンB12では、紫〜青色のB帯の吸収は多く、赤色のQ帯の吸収が少ないため、全体として赤色を帯びます。一方、葉緑素はB帯、Q帯ともに吸収が大きいため、Hashiyanさんがご指摘の光のスペクトルでいうと、両脇の青色、赤色がなくなり中心の緑色が残るので、葉緑素は緑色を呈するわけです。
A. ごんたさんから
私がまず思ったのは「色に重要性はないのでは?」ということで、結論として導き出される答えは、「葉緑素がたまたま緑色だったから」でした。
もしこの物質が透明な物質なら、Hoshiyanさんの言うように場所によって色を変えたり、動物のことを考えて様々な色の植物が繁茂したかも知れません。しかし、そうならなかったのは緑色をしたこの物質を含まないと生きられないからでは?ということです。
また、太陽の発する光(あるいは地球にふりそそぐ光)の色が緑以外(三原色で言う赤と青系統の波長を持つ色)に豊富であったことも偶然ではないと思います。緑色がカットされても他色の光が豊富に存在するならエネルギー生成に困りませんね。
もし降り注ぐ光の色分布に偏りがあって緑色主体の光だったなら、葉緑素は効率が悪いため、効率よく生成する代わりの物質(たとえば「葉赤素」「葉青素」なる物質)を取り込んだ赤や青系の植物が地球を覆っていたかもしれません。
そんな物質が存在しないなら、地球には植物、しいては生命が存在しない星になっていたかも知れません。そう考えるといろんな偶然の上に我々の存在は成り立っているわけですね(あくまで想像だけど……)。
A. よしなしごとさんから
僕も黒だと熱を持つからなのか、それとも緑は光合成に必要ないのか、疑問した。そんなとき東京大学でその疑問に答える講演会があったので行ってきました。要約すると以下のようになります。
光合成に使われる酵素Rubiscoは赤の波長で第一励起状態になり、さらに青の波長で第二励起状態となるそうです。これでフォトン1つに対して生物のエネルギー単位であるATPを6〜8個作るそうです。簡単に言えば光合成には青と赤の波長が必要で、緑はそれほど必要でないそうです。
ところがここで問題があります。青と赤の波長は葉肉を作る柵状組織に吸収されやすいのです。葉緑素まで赤と青の波長が届きにくい!
しかも赤と青の波長の光が届いて活発に光合成が行われ、酸素がたくさん作られると、ATPからデンプンを作るカルノーサイクルを阻害する物質ができてしまいます。つまりエネルギーをたくさん作ろうとすると、その次の工程であるデンプンが作られない、いわば植物にとっては毒のようなものです。
植物も本当は光合成の効率を高めたい。しかし高めると自分にとって毒となる物質ができてしまうし、そもそも葉肉で赤と青が吸収されてしまう。そこで植物はわざと効率を低くするために緑の波長で光合成をすることにしました。
緑の波長の光は葉肉でも葉緑素にも吸収されにくい。つまり葉を透過します。すなわち下の葉っぱにまで届きます。だから太陽があたる上の方だけでなく下の方の葉にも光が届きます。たしかに葉1枚1枚の効率が良いと下の方に葉がある必要性がなくなりますものね。
ちなみに、シダ植物や高く成長しない草は葉の裏が白っぽくなっていますよね。あれは葉を透過してしまった光を反射して、再び葉に光を反射させる働きがあります。高い木々に光が遮られた草は少しでも光を吸収しようとして獲得した機能だそうです。
素朴な疑問ですが、それは長い年月を経て進化した生物の効率を求めた答えなんですね。改めて自然のすごさ、尊さを実感させられました。
A. ミドリムシさんから
今回の質問を読んではたと気づかされました。「葉が緑なのは葉緑体があるから」と学校で教わった事実のみで思考停止していたことに。
この質問によって私の知的好奇心は大いに刺激され、他の方からの回答を待つ前に調べてみました。
すると『日本植物生理学会』のサイトにある質問コーナーで同様の質問があり、それに東大の研究者の方が解答されているものがありました↓
http://www.jspp.org/cgi-bin/17hiroba/question_search.cgi?ques=true&quesid=1855
自分の言葉での回答ではないので反則かもしれませんが、素晴らしい疑問とそれを解明した研究者の方々に敬意を表してご紹介させていただきます。
★私も植物な高等な生き残り作戦に、感動いたしました!
みなさん、ありがとうございました!
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