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疑問No.1253 (2017.12.15)

Q. アイコさんからの疑問

 メルマガをいつも楽しく読んでいます。私の疑問も載せてもらえないかといつも思っているのですが、なかなか見つかりません。ところが、先日、バスに乗ったときに、小さい頃から疑問に思っていたことを気づいたのです。
「やむを得ず急停車する場合があります」
というアナウンスが車内に流れたのです。「やむ」って何ですか?
「やむを得ず」の意味はわかっています。でも、「やむ」って何ですか? それがわからないのです。よろしくおねがいします。

「やむ」とは、名詞なのか、動詞なのか? いや、動詞はおかしいか……。


A. ぱぱさんから

 「やむ」は、動詞だと思います。下二段活用動詞の「止む(やむ)」。現代語(口語)では下一段活用になって「止める(やめる)」。
 「止むを得ず」は現代語に残っている文語的表現で、口語体にすれば「やめることができずに」となるのではないかと思います。それで意味が通じるのではないかと。

A. うにうにさんから

 まず、「やむ」という語の意味から。
 これは文語体の動詞で、現代語の「やめる」に相当します。意味はそのとおり、「やめる、終わりにする」ということです。漢字では「已むを得ず」と書きます。
 では、その「得ず」とはどういう意味か。
「ず」が否定なので「得ない」だということはおそらくお分かりでしょうが、「得る=手に入れる、ゲットする」と思っているとしたら、そうではありません。これは漢文に由来する表現で、「得」は可能を表します。「〜することを得(う)」といえば「することができる」。その否定形ですから「〜することを得ず」は「することができない」という意味です。
 ちなみに、戦前の法律は文語体で書かれていましたので、この「得」「得ず」がよく出てきていました。今は主な法律は口語体に改まりましたが、一部の法律には文語体が残っています。
 たとえば、「身元保証ニ関スル法律」の第2条は「身元保証契約ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ」という一文から始まっています。「5年を越えることができない」という意味です。
 ところで、この「〜することを得ず」という言い方の「こと」はしばしば省かれます。たとえば、「五年ヲ超ユルヲ得ズ」と書いても同じ意味です(ただし法律ではこういうとき必ず「コト」を入れるようですが)。
 少し文法的な説明をしてみます。結論からいうと、「〜するを得ず」は「する」という動詞を名詞的に使っている用法です。「やむを得ず」の「やむ」、「越ゆるを得ず」の「越ゆる」、「するを得ず」の「する」は、それぞれ動詞の連体形です(終止形は「やむ」「越ゆ」「す」となる)。連体形というのは、その名の通り、体言(=名詞)につながる形ですので、「やむこと」「越ゆること」「すること」といった使い方になります。
 しかし、ときどき、その体言が省かれて、動詞だけになることがあります。たとえば、ことわざで、「言うは易く行うは難し」というのがありますね。この「言う」「行う」がそれで、もし省かなければ「言うことは易く、行うことは難し」、あるいは「言うのは易く、行うのは難し」などとなるでしょう。このように、動詞でありながら名詞のような使われ方をするのを「準体法」といいます。
 以上からおわかりのように、「やむを得ず」とは「やめることができない」、つまり「そうするしかない」という意味になりますね。
 同様の表現で「そうせざるを得ない」というのがありますが、これも同じ準体法で、「そうせざる(こと)を得ない」、つまり「そうしないことができない」→「そうするしかない」という意味になります。
 ときどき、ネットなどで「やもおえず」とか「やもうえず」などと書いてあったり、またしゃべるときに「矢も追えず」のように聞こえる発音をしている人がいますが、きっと意味が分かってないんだろうなと思います。