● 第百五十九段 ● "VE","RI","TAS" ?
「稲田君、ハーバード大学ってホームページ持ってるかな?」
「ハーバード? アメリカの?」
「そ、ボストンの」
「ハーバードだったら、当然ホームページくらい持っているだろうよ」
「じゃあ、そこのアドレス調べてもらえないかな?」
「僕が? どうして?」
「そういうものを調べた経験がないんだよ」
「ま、やってあげるけど、やったことがないんだったら、一度やってみたら。あ、それとホームページの『アドレス』は、おかしいよ。それは『URL』っていうんだよ」
「あ、そうなの」
「でも、どうしてハーバード大学のホームページが見たいの?」
「ずいぶん昔にボストンに行ったときにね……」
「え、ボストンに行ったことがあるの?」
「うん。で、そのとき、ハーバード大学にも行ったんだ。そこの大学生協でハーバード大学のロゴが入ったTシャツを買ったんだけど……」
「だけど?」
「きのう気がついたんだ。Tシャツの中に、"VE","RI","TAS"って書いてあるんだ。こんな感じで……」
「それぞれに何か意味があるのだろうけど、わからなくってさ」
「何だろうね? 何かの頭文字かな?」
「ね、気になるだろ。だから、調べてみたくってさ」
「だったら、ハーバード大学のメールアドレスを調べてあげるから、直接メールで聞いてみたら?」
「あ、それいいかもしれない」
後日、稲田君に教えてもらったアドレスに、「意味を教えてください」と、無謀にもメールを送ってみた。
How do you do?
I went to Boston ten years ago.
Then I bought a T-shirt which has Harvard's logo.
I don't know what "VE","RI","TAS" mean.
Please teach me!そしたら、なんと、翌日に返事が来た。要約すると以下のようになる。
》I don't know what "VE","RI","TAS" mean.
"Veritas" means "truth" in Latin.「3つの単語じゃなかったんだよ、稲田君。ラテン語で『真実』だってさ」
「ハーバードの校訓だろうね」
「マジ?(ハイスクール語で『真実』)」
【メモ】
◆チャールズ皇太子、ダイアナ妃の離婚騒動のきっかけともなった、『ダイアナ妃の真実』の原作者は、アンドリュー・モートン。
◆映画『ローマの休日』で有名になった「ボッカ・デラ・ベリータ(真実の口)」には、トリトーンという神様の顔が描かれている。
◆赤いものは「真実の愛」、黄色いものは「嫉妬」、白いものは「純潔」。バラの花言葉です。
◆主著に『詩と真実』『若きウェルテルの悩み』といえば、フランフルト生まれのドイツの詩人ゲーテ。
◆問題。ハーバード大学の創立は、アメリカの独立の以前、以後、どっち?
答え。以前。アメリカの独立は、1776年。
◆ハーバード大学は、マサチューセッツ州にあるアメリカ最古の大学。1636年創立。ジョン・ハーバードが遺産の半分と彼の蔵書のすべてを寄贈したことから、ハーバード大学と呼ばれている。
◆ハーバード大学のある町の名前は、ケンブリッジ。イギリスの有名なケンブリッジ大学と同じ地名だが、これは偶然ではない。
大学創立当時はニュータウンという名前だったのだが、植民地のリーダー達の多くが本国イギリスのケンブリッジ大学出身が多かったので、それにあやかって改名したというわけだ。
◆数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞した広中平祐は、1968年以来ハーバード大学の教授として活躍している。
◆SF作家にH.G.ウェルズがいるが、この「H」はハーバード。ちなみに、「G」は、ジョージの略。
◆アメリカン・フットボールの最初の試合とされるのは、マックギル大学とハーバード大学の試合。
◆由緒ある8つの大学から構成される、アメリカ東部のスポーツ・リーグは「アイビー・リーグ」。ブラウン、コロンビア、コーネル、ダートマス、ハーバード、ペンシルベニア、プリンストン、イェールの8大学だ。
最初にできたのはハーバード、最後にできたのはコーネル大学。
◆なぜ、「アイビー」なのか?
(1)「アイビー」とは、ツタのこと。ツタの絡まっているような由緒ある校舎を持つ大学という説。
(2)最初は4大学でリーグが結成されたので、ローマ数字で4をあらわす「IV」という説。。
◆アメリカ大統領のジョン・F・ケネディ、『或る女』の有島武郎、駐日大使のエドウィン・ライシャワー……、みんなハーバード大学の卒業生だ。
◆ハーバード大学を卒業したことはないけど、「ハーバード」という名前のビスケットなら食べたことがある。
ハーバードは、表面にギザギザがあって、クリームがサンドしてあって、白と黒の2種類があって……。そういえば、どうしてあのビスケットが「ハーバード」なんだろう?
◆その前に、「チョイス」や「マリー」といったビスケットのお話。森永製菓のビスケット「チョイス」の表面には、「CHOICE」「T」「M」と書いてある。「CHOICE」はわかるとして、「T」「M」って一体なんだ?
実は、これ、森永製菓の創始者、森永太一郎のイニシャルなのだ。
◆同じく森永の丸いビスケットに「マリー」がある。マリーの箱には女の子の絵があるのだが、この女の子の名前は「クララ」。「マリー」ではない。「?」でしょ。
実は、このようなタイプのビスケットは、世界中で「マリー」と呼ばれているそうなのだ。マリー・アントワネットが好んで食べたことに由来しているとか。ビスケットの周りにある書かれている歯車のような絵は、マリー・アントワネットの家紋を表しているらしい。
「クララ」というのは、森永のビスケットが最高級のミルクを使用しているということをアピールするために付けられた名前だそうだ。世界一のミルクといえば、スイスのアルペンミルク。スイスの女の子といえばクララ(?)――となったんだそうだ。
スイスの女の子といえば、ハイジでしょうに……。
◆さて、ハーバード。
まさかと思うけど、ハーバード大学と関係があるのかな? うだうだ言っていてもしかたないので、お菓子の会社に聞いてみた。
「つかぬことをうかがいますが、『ハーバード』っていうビスケットがありますよね」
「はい」
「表面がギザギザで、白と黒のタイプのある……」
「あ、それは前のハーバードでして、今は表面が丸いんですよ」
「え?」
「昨年(1998年)から変わっているんです」
「そうなんですか、知りませんでした。実は、『ハーバード』っていう名前なんですが、どうして『ハーバード』なんでしょうか? アメリカにもハーバード大学がありますけど、それと関係があるんでしょうか?」
「はい、大学と関係があるんです。確か、ハーバード大学の校章か校門か何かが、ギザギザの形をしていて、そこから名前をとったと聞いております」
「え! そうなんですか。 ハーバード大学の近くの店で作っていたとか、ハーバード大の卒業生が作ったとか考えていたんですが、違うんですね」
「違いますね」
「でも、現在のビスケットはもうギザギザがないんですよね……」
「そうなんですよ。ですから、本当は名前も変える必要があったのですが、そのままにしております。クリームがサンドしてあるということだけは同じなんですが……」
◆ところが、このあとの情報がある!
実は、「ハーバード」は、2000年8月に販売が終了していたのだ。ご存じでした? 広報部に電話をしたら、そのように教えていただきました。
クリームがサンドしてあるタイプのものは、今は、「WELL」という名前で売られているそうだ。しかし、これは、「ハーバード」とは、全くの別物。
やはり、VERITASを謳(うた)っている「ハーバード」、ギザギザがないとだめなんでしょうね〜。【参考文献】『ナマエの謎探偵団』田中ひろみ(文化放送ブレーン)
【協力】森永製菓(株)お客様相談室、広報部