★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第百五十八段 ●  尿素をたずねて

「ニョウソ? ニョウソって、尿素のニョウソ?」
「そう。その尿素」
「あの、肥料とかに使う尿素?」
「肥料にするわけじゃないけど尿素がいるのよ」
「わかった、買ってくるよ。で、量は?」
「どれくらいの単位で売ってるのか知らないけど、いちばんすくないのでいいわ」
「わかった」
「あ、それとね……」
 ということで、仕事の帰りに尿素を買ってくるのを頼まれた。しかし、一体何に使うのだろう?

■ 
尿素 ■
化学式は、CO(NH2)2。「ウレア」「ユリア」「カルバミド」ともいう。ヒトや肉食動物の尿の中に多く含まれている(ヒトの場合1.5〜2.0%)ので、この名前がある。ヒトや肉食動物の体内ではタンパク質が分解され、アミノ酸を経てアンモニアとなり、肝臓内で尿素に変換される。尿素は細胞膜を容易に透過し、腎臓を通じて体外に排出され,ヒト(成人)では1日30gに達する。

「尿素」なんていうから、尿の中にもっとたくさん入っているのかと思ったが、その程度だったのだ。でも、ま、きっと、ほかの成分よりはずっと多いのだろう。
 とまあ、ここまでは調べたのだが、その尿素を一体何に使うのか? 不思議な気分のまま、薬局へ向かった。
「すいません。尿素ありますか?」
 なんて言ったら、
「この人何言ってんの!?」
 と、怪しまれやしないだろうかとも考えた。でも、勇気を出して、その言葉を発した。

「すいません。尿素ありますか?」
「尿素ですか? ここでは扱ってませんが、園芸用品のところであると思いますよ」
 どうやら怪しまれずに済んだ。でも、
「園芸用品?」
 ここは、大きなホームセンターで、中に薬局もあるというところなのだ。
「はい。肥料用の尿素がありますよ」
「いえ、肥料に使うんじゃないんですよ」
「何に使うんですか?」
「いや、その、頼まれたもので……、よくわからないのですよ。でも、園芸用と薬品用とで何か違うのですか?」
「精製度が違います。薬品用は、精製度が高いです」
「ああ、そうなんですか……」
 しかし、いくら話をしていてもないものは仕方がない。別の薬局に行って、頼まれた尿素、グリセリン、精製水を買った。

「一体何が始まるんだ?」
「化粧水を作るのよ。チラシに作り方が載ってたの」
「化粧水を? 作る?」

 では、ここで化粧水の作り方を披露しよう。
・用意するもの
  尿素
  グリセリン
  精製水
  容器

尿素、グリセリン、精製水

・作り方
(1) 尿素50g、精製水200g、グリセリン5cc(小さじ1杯)を用意する
(2) 容器に尿素、精製水を入れふたをし、尿素が溶けて透明になるまでよく振る。
(3) 尿素が溶けたあとグリセリンを加え、再びよく振る。
(4) これで化粧水の原液の完成。
(5) 化粧水として使うときには、10倍以上に薄める。

「それだけで、できたの?」
「そうみたい。案外簡単だったわ」

 あれからもう一月近く経っているが、しっとりつるつるらしい。


【メモ】

◆尿素と聞くと、一瞬、
「え!?」
 と気構えてしまうが、たいていの化粧水には入っているものらしい。

◆ちなみに今回使った材料の料金を書いておこう(消費税込み)。

  尿素……………1659円(500g)
  グリセリン…… 417円(100ml)
  精製水………… 81円(500cc)
  容器……………  0円(家にあるものを使った)
  ―――――――――――――――――――――
  合計……………2157円

 このうち、今回使った尿素やグリセリンはほんのわずかだから、まだまだたくさん残っている。

◆先の化粧水は無添加なので、保存は冷蔵庫で。原液は、数ヶ月は大丈夫らしい。

◆化粧水を作るための尿素は、肥料用の尿素でかまわないらしい。だったらもっと安くで買えたのに……。

◆哺乳類などの生物が、体内で生成されたアンモニアと二酸化炭素を用いて尿素を生成する回路を「尿素回路」または「オルチニン回路」という。これは、肝臓に存在する。
 イギリスのH.A.
クレブスらが肝臓の切片を用いて尿素生成の実験を行っていた際に、オルニチンが尿素生成を促進することを発見した。

◆クレブス(1900〜1981)は、ドイツに生まれ,イギリスで活動した生化学者。他の大きな功績に、
クエン酸回路(TCA回路、クレブス回路)の大筋を確立したことがある(1940)。

◆クエン酸回路というのは、簡単に言うと……、う〜ん、「呼吸することでエネルギーを獲得する仕組み」――こんなところかな? とにかくエネルギーを取り出すための回路だから、非常に重要なのだ。

◆「クエン酸」は、漢字で書ける。「枸櫞酸」だ。で、「枸櫞」って何だ? これは、レモンのことだそうだ。

◆クレブスさんは、1953年、ノーベル生理学・医学賞を受賞している。これだけの重要な仕事をしているのだから、当然だ。

化粧品の定義。1948年施行の新薬事法によると……、
「化粧品とは人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し容貌を変え、皮膚や毛髪をすこやかに保つなどの目的で身体に塗擦、散布、その他これに類する方法で使用され、人体に対する作用の緩和なものをいう」
 となっている。
 だから、石鹸は化粧品。

◆横断歩道は「ゼブラゾーン」。化粧するときのポイントになるのはTゾーン。

◆頭髪を除く全身の美容、具体的には、美顔から痩身、永久脱毛、爪の手入れまでを行う美容室を「エステティック・サロン」という。

◆紫外線を防ぐ化粧に書かれてある「UV」といえば、「ultla violet」のこと。「SPF」とは、「日焼け止め指数」のこと。「sun protect factor」の略だ。

◆過剰に分泌された皮脂や、ホコリなどに刺激により毛穴の角質が厚くなり、毛穴が詰まってしまう、ニキビができる第1段階を「
コメド」という。

◆最近の化粧品によく「ノン・コメド」と表示されてあるが、これはニキビを作りにくくしたものだ。

◆化粧品のひとつで、本来スペイン語で「仮面」という意味を持つのは「マスカラ」。

◆まつ毛をはさんでカールさせるための道具がある。あるのは知っているが、使ったこともないし、名前も知らなかった。ビューラー(アイラッシュカーラー)というらしい。

◆目の縁に塗る化粧品は、アイシャドー。下まぶたの内側に塗る化粧品は、アイシャイナー。

◆では、アーチ、コーナー、ストレート――何だかわかるだろうか? 定規の種類です。って言われても、何の定規だか分からない? これらの定規は、眉を描くときに使用されるものだ。

◆化粧品メーカーのイメージガールで、「揺れるまなざし」は真行寺君枝、「クッキーフェイス」は夏目雅子。かなり古いなぁ。

◆ヘチマの根から吸い上げる液は化粧水や咳止めに使われる。また、実の繊維は体洗いや靴の敷皮等に用いられる。

オーデコロンの語源になった、ドイツの都市はケルン。「ケルンの水」という意味なのだ。

◆女性の化粧落しに用いる油性クリームのことを一般に「クレンジング・クリーム」。

◆肌の角質や汚れを落とす粒子が入った洗顔料を「スクラブ」という。英語で「ゴシゴシ洗う」という意味がある、

◆初めて使用する化粧品や薬などが肌に合っているかどうかを試す、アレルギーテストを「パッチテスト」という。

◆口紅のことを「ルージュ」というが、「ルージュ」とはフランス語で赤色のこと。

◆舞台化粧用の油性練りお白いのことを「
ドーラン」というが、これはドイツにあった会社の名前。日本では最初ドイツ製のものが使われたことから、このように呼ばれた。

◆化粧品として使われる、深海ザメの肝油から作ったオイルは、「スクワランオイル」。

◆薬や化粧品のCMで、「新発売」という言葉を使えるのは、発売後6ヶ月以内となっている。しかし、「新発売」が多すぎる!

◆すっぴん<薄化粧<化粧<厚化粧<扮装<仮装<変装<変身<?
 厚化粧、扮装のあたりから、元との識別が困難になってくる。
 変装したのに、元と同一視されるようでは困る。


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