★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第二十二段 ●  斜め通行禁止!

 中学校の頃の話だ。毎年3月に行われる卒業式は、学校生活での最後の式典だから、学校側も大変気を配って、念入りにリハーサルが行われる。「これでもか」というほどであった。
 卒業式のとき、何かの賞状を受け取る機会に恵まれた。確か、ビッグなタイトルだったと記憶している。当然、そのリハーサルもあった。賞状をもらう練習をするなんて、おかしな話だが、卒業式には寸分の間違いもあってはならないのだ。みんなの前で、たった一人で練習が行われた。これまた、能率の悪い話だと言ったら、学校は能率を求めている場所ではないと言われるかな。
 名前が呼ばれる。返事をする。起立する。歩く。緊張してはいたが、自分では完璧のつもりだった。だが、ストップがかかった。
「斜めに歩くな!」
 こういう式典では、斜めに歩いてはいけないのだ。曲がるときは、直角にカクッと曲がるのが正しい。何か腑に落ちないものがあったが、そんなものかなと、言われるままにした。
 このときから、斜めにはちょっとこだわっている。
 第三段でもあったように、B0判は、1030mm×1456mm。B5判だと、横182mm、縦257mmになる。このB5判の紙に、7×7の表を紙いっぱいに作ってほしい。つまり、縦も横も7等分したいのだ。。
 横の長さは182mmだから、問題はない。7つに分けると、1つは26mmだ。物差しを使って、26mmごとに印をつければよい。印を付けるのは、上辺か下辺かのいずれかでよい。物差しを印にあてて、左辺か右辺に平行になるように線を引けばすむからだ。昔、中学校の技術で使った、製図板とT定規があれば、平行線なんて簡単だ。
 問題は、縦の7等分だ。257mmを7等分すると、36.714285……mmとなる。こんなに細かく印を付けるのは不可能だから、大抵の場合は36mmで区切って、あとはごまかしているという人が多いのではないだろうか。
 257mmを7等分しようとするからうまくいかないのだ。
「もし、縦の長さがもうすこし長くて280mmだったら、うまく7等分できるのにな……」
 と、頭に浮かんだらもうすこしだ。
「実際は257mmなんだから、どうしようもないじゃないか!」
 そんなことはない。ここで、「斜め思考」の登場である。
 紙の右上に物差しの目盛りの「0」を合わせる。そのまま辺に沿ってまっすぐ下に長さをはかると、257mm。これでは確かにどうしようもない。目盛りの「0」を固定したまま、物差しの下部を左にずらしていく。すると、やがて紙の下辺と物差しの280mmがピタッと合致するときがある。物差しは斜めになっているが、気にせずに40mmずつ印をつけていけばいい。あとは、先程と同じ。物差しを印にあてて、上辺か下辺に平行になるように線を引けばよい。


           182mm
        +----------------+
        |        /|
        |       / |
        |       / |
        |      /  |
        |      /  |
        |  280mm /   |257mm
        |     /   |
        |    /    |
        |    /    |
        |   /     |
        |   /     |
        +----/-----------+

 実は、横182mmの7等分もこの手を使った方が楽だ。26mmなどという、扱いにくい長さで印をつけるよりも、物差しを斜めに使って210mmになるところを見つけ、30mmずつ7等分すればよい。
「いくつかの
平行線に2直線が交わるとき、対応する線分の比は等しい」
 中学2年生で学習する定理だ。役に立つはずだ。


【メモ】

◆罫線の入った紙(ノートでもよい)を使うという方法もある。
 等分したいものを罫線に当てて、目盛りを付けていくだけのことだ。この方法でも、7等分にこだわることなく、何等分だってできてしまうのだ。しかも、電卓で計算することもなく、正確に等分することができる。

◆もっとユニークな方法を紹介しておこう。
 ゴムひもを使うのだ。そうそう、パンツのゴムでいい。最近は百円ショップでもよく見かける。
 あのゴムひもに、あらかじめ目盛りを刻んでおくのだ。ものさしをあてて1cmおきに目盛りを付ける。これで道具の準備は終了。
 これを分けたいものにあてて、ビヨ〜ンと伸ばす。ゴムの目盛りに従って、印を付ければ、簡単に等分できます(一人でやるのはむずかしいけれど……)。
 厳密にいえば、すこしくらい長さは異なっているだろうが、ようかんなどを均等に分けたいときには、おすすめの方法だ。

◆布目に対して斜めに裁った布のことを「
バイアス」という。直角交錯の布目に対して45度の角度で裁断したものを「正バイアス」といい、最も伸長率が高く、よじれない。斜めは、役に立つ。

◆和裁や洋裁で、糸を互いに斜めに交差させながら進む縫い方を、千鳥掛けという。英語では、クロスステッチ。

◆映画館や劇場で、前の人の頭が邪魔になって、見えにくいときがある。これをすこしでも解消するには、前の席の人の頭と頭の合い出に、後ろの席の人の頭が来るように席のずらして配置すればよい。
 このようすを俯瞰すると、ちょうど、席が斜めに並んでいるように見える。「千鳥配置」と呼ばれる。

◆西に傾いた太陽を、「
斜陽」という。転じて、栄えていたものが落ちぶれることも指す。
 太宰治(1909〜1948)の『斜陽』は、昭和22年(1947)の発表。戦後の没落貴族の家庭を描いている。

◆太宰治が生まれたのは、青森県の金木町。大地主だった津島源右衛門の息子として生まれた家が、金木町太宰治記念館「斜陽館」として残っている。
 この豪邸は、1950年津島家が手放し、旅館「斜陽館」として町の観光名所となっていたが、1996年に町が買い取り、旅館は46年の幕を下ろした。そして、1998年の4月、復元修理を終えた斜陽館は、太宰治記念館として再スタートした。

◆「
斜に構える」とは、物事を正面からとらえず、皮肉やからかいの気持ちで接すること、気取った態度をとること、の意味だ。
 では、一体、何を「斜に構える」のか?
 あらためて問われると困ってしまうが、答は刀。剣道などでは、刀のきっさきを相手の目の前に向けた構えを「正眼の構え」としている。

◆1つや2つの階の移動には、エレベーターよりも
エスカレーターの方がずっと便利だ。ただし、エレベーターと違って、エスカレーターは斜めに上下するので、設置するには広い面積が必要となる。日本のエスカレーターの傾斜角度は30度、踏段の速度は分速30mが標準となっている。
 エスカレーターが普及するようになったのは、1900年にパリで開かれた万国博覧会にアメリカの会社が出品してからであり、「エスカレーター」の名称もこの会社の商品名であった。
 日本で最初にエスカレーターが設置したのは、東京日本橋のデパート、三越。1914年のことだった。

◆列車の場合、傾斜が急なところを上り下りするのは非常に困難だ。こんな場合、列車が運行しやすいように線路をジグザグに敷き、折り返し運転をすることになる。この方式は、「
スイッチバック」と呼ばれる。

スクランブル交差点を初めて見たときは、本当に驚いた。斜めに渡ってもかまわないなんて、なんて柔らかい発想なんだと思った。しかし、初めて渡るときには、なんだかすこし勇気が必要だった。
 ちなみに、日本で初めてスクランブル交差点が採用されたのは、熊本市。国道57号線にある子飼本町の交差点だ。ここは商店街への買い物客や通学生などの歩行者が多く、信号機は設置されていたものの変則的な交差点であったため、スクランブル交差点を導入することとなった。1968年12月1日のこと。

◆ここで、記憶力クイズを一つ。「車両通行止め」の標識は、○に斜め線。では、その斜め線は「/」か、それとも「\」か?
 答えは自分で道路で発見すること。

◆【注】本文で、7等分する方法を紹介したが、これは「平行線がうまく引ける」ことが条件になっている。――ので、「うまくいかなかったぞ」という苦情は、メールしないでね。
 本文では右上隅から7等分したが、同様に左上隅からも7等分し、2点を直線で結べば、きっとうまくいく。
「うまくいきました」という内容のメールをお待ちしております。


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