★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第五十四段 ●  a cord marked pottery

 ダーウィンの進化論を、日本に初めて紹介したのは、アメリカの動物学者、モースだった。日本では、モールスとも呼ばれている。
 彼は、1838年、アメリカのメーン州に生まれた。幼い頃から貝を集めて、貝殻の収拾研究家として知られるようになる。やがて、ハーバード大学で腕足類を研究する助手の仕事に携わる。フロリダでは、貝塚を発掘した実績もある。
 1877年6月、腕足類の採集のために来日、そのまま東京大学理学部動物生理学教授に招かれた。だから、大森貝塚の発見は、来日の直後だと思ってよい。
 6月19日、彼は横浜から東京に向かう汽車の窓から、田園風景や農業の様子をスケッチしていた。汽車が大森の駅を過ぎて間もなく、鉄道工事中の崖の断面に大量の貝殻が堆積しているのを発見する。当時の汽車のスピードはそれほど速くはなかったが、車窓から見ただけで貝塚を確認するというのは、簡単なことではないはずだ。彼の研ぎすまされた注意力、観察力を感じる。
 9月16日、モースは、東京大学の学生らとともに、「大森貝塚」を訪問。貝殻だけではなく、土器や骨角器も発見している。現在、京浜東北線の線路の脇には、「大森貝塚」の碑がある。
 モースといえば、大森貝塚の発見がよく知られているが、もう一つの大きな功績がある。縄文土器に「縄文」の名を与えたのも、モースだったのだ。
 大森貝塚から出土した土器の表面に縄目模様がついていたので、これを「cord marked pottery(縄文土器)」と表現し、報告書を提出。以後、このタイプの土器は、「縄文土器」と呼ばれるようになった。
 「縄文」っていうから、てっきり日本人が命名したのだと思っていたけど、「コードマーク」を「縄文」と訳しただけだったんだ。古い言葉だと思っていたが、明治にできた言葉だったんだ。
 その後、79年8月まで教授の職を努め、いったん帰国する。82年に再来日した彼の興味は、もっぱら日本の陶器や民族資料の収集に向けられた。彼の収集は、一般の美術研究家が見向きもしない物まで集めている点で意義が深い。彼の集めた陶器の一部は、現在ボストン美術館に保存されている。また、モースは、一般を対象とした講演会にもすすんで参加している。巧みな話術と得意の描画で人気が高かったそうだ。
 さて、日本に滞在中のモースの様子をもっと知りたいという人は、彼の著書『Japan Day by Day』(邦題『日本、その日その日』)を読んでみるといい。


【メモ】

◆千葉県にある日本国内最大の貝塚は、加曽利貝塚。

◆大阪府の南部には、貝塚市がある。

◆東京オリンピックで、日本の女子バレーボールチームは、金メダルを獲得した。この「東洋の魔女」のメンバーのほとんどは、日紡貝塚の実業団チームのメンバーだった。といっても若い人はご存知ないか。
 当時、大日本紡績(現ユニチカ)は、大阪の貝塚市に大規模な工場を持っていたのだ。略して、「日紡貝塚」というわけだ。

◆その貝塚市だ。この名前からして、市内にはさぞ大きな貝塚があるのだろうと思い、市役所の方に質問をしたところ、丁寧に答えていただいた。
「昔、かなり昔です。貝殻が塚状になっていたところ――貝塚があったといわれているのですが、よくわかりません。山の方からはアンモナイトなどの化石が出ますが、こんなのは貝塚じゃありませんしね」
「じゃあ、貝塚市には現在、貝塚と呼べるようなものは発見されていないのですね」
「そうなんです」

◆■ 縄文時代 ■
縄文土器に代表される時代。狩猟、漁労及び採集が生活の基調。住居は堅穴式が主。土器の形式から、早期、前期、中期、後期、晩期の5期に区分される。草創期を加えて考えることもある。

◆■ 縄文土器 ■
日本の石器時代に製作・使用された土器。約10000年前から前3世紀頃まで製作された。表面に撚糸(よりいと)状の縄目文様が多いことから、この名がつけられた。北海道から九州南西諸島まで、広く分布している。ろくろを使用せず、粘土を輪にしたものを積み上げて作る。600〜800℃の低温で焼かれるため、壊れやすい。色は黒褐色や赤褐色で、厚手。草創期のものには、豆粒文、隆起線文、爪形文などの文様がある。ほかにも、貝殻文、沈線文、押形文など様々な模様がある。形態も多様で、早期には尖底土器、前期から後期になると、深鉢形、丸底、注口形、片口付、火炎式、甕形、鉢型、香炉形、土瓶形などの土器が作られた。

◆鹿児島県の屋久島では、老木の杉の林があることが有名だが、現地で「屋久杉」と呼ばれているのは、樹齢800〜1000年を超える杉だ。この屋久杉の巨木の中には、根回りが43m、樹齢7200年と推定される縄文杉がある。その他、貴重な動植物も多く、1993年12月、屋久島は世界遺産に指定された。

◆ちなみに、九州で最も高い山は? 答は、高さ1935mの宮之浦岳とされている。しかし、この山は屋久島にあるので、純粋に「九州」といってよいものかどうか……。

◆英語で「ロープスキッピング」といえば、「縄跳び」のこと。漢字で「七五三縄」と書いたら、「しめ縄」のこと。伊勢志摩国立公園の中の二見浦(ふたみがうら)には、しめ縄で結ばれた大小2つの夫婦岩がある。

◆英語では「ロープスキッピング」。これは、縄跳びのこと。

◆手遅れなことをいったことわざ。「泥棒を捕らえて縄をなう」。

◆自分の領分、勢力が及ぶ範囲のことを、「縄張り」という。

◆京都の八坂神社には「おけら参り」という行事がある。大晦日の夜から元旦にかけて神社にお参りし、雑煮を焚く火を火縄に移して頂いて帰るのだ。

◆伊勢志摩国立公園の中の二見ヶ浦には、しめ縄で結ばれた夫婦岩がある。

◆「キープ」と呼ばれる記録法がある。縄の結び目を使った「文字」だ。インカ帝国では、自国の人口調査や統計、家畜数、穀物倉庫の貯蔵量、軍隊の人数、採金の量などあらゆるものを記録していた。

◆Edward Sylvester Morse が、「モース」と呼ばれているなら、モールス信号の発明者 Samuel Finley Breese Morse だって「モース」だ。ただし、「モースの硬度計」で知られるドイツの鉱物学者は、Friedrich Mohs 。

◆「土器を見ているとドキドキしますね」
と、毎年の歴史の授業の中で話す教師を知っている。このギャグは、生徒には爆笑はとれないまでも、静かに受けているようだ。


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