● 第五十五段 ● 方位磁石を買いましょう
腕時計は、めったにしない。
部屋にはもちろん時計があるし、車にもある。駅にもあるし、喫茶店にもある。その気になってさがせば、時計なんてすぐに見つかる。それでもつけていた方が便利なときもあるので、かばんには一応忍ばせてある。
「これは、有名な方法なんだけどね……」
と言いながら、稲田君が教えてくれた。アナログ時計と太陽を使って、南の方角がわかるというのだ。
時計の短針を太陽の方向に向ける。すると、12時の方向と短針の方向のちょうど真ん中が、南の方角に当たるのというのだ。いくつか頭の中で時間を設定して、シミレーションしてみれば、この方法が正しいことが分かる。
たとえば、現在午後3時だとすると、下の図のようになる。
12 南
| ♂
|
9 ・― 3 →太陽
6
太陽が1時間移動する角度は、15度。一方、時計の短針が1時間に回転する角度は、30度。結局、「12時の方向と短針の方向のちょうど真ん中」を採用することで、その辺りをうまくやっていることになる。
ただ、この方法は、午前3時には使えない。しかも、雨の日もダメ、地下でもダメ。結局、太陽が見えていないとダメなのだから、あまり実用的ではない。稲田君自身、
「実際に使ったのは、2・3度。」
と言っていた。
だから、腕時計を持つくらいなら、方位磁石を持つ方がいい。そうだ、方位磁石を買おう!
【メモ】
◆都会のコンクリート・ジャングルの中では、案外、方角が分からない。
◆時計の短針は、1分間に0.5度回転する。長針は、6度。
◆したがって、長針は短針の12倍速く回転する。と、大袈裟に言うほどのことでもない。短針が「1」から「2」に進む間に、長針は1周しているのだから、むずかしく考えなくても分かることだ。
◆では、長針と短針が直角をつくるのは、1日に何回あるか。中学生向きの問題。時計を見ながら、一生懸命に数えればきっとわかる。
答えは、44回。48回ではないところが、ミソ。
「直角」は1時間に2回ずつ起こりそうなものだが、実際はそうではない。2時台、8時台だけは、1度しか直角にならない。
◆腕時計や懐中時計のぜんまいを巻いたり、針を動かしたりするときに、つまみを回すことがある。このつまみを、竜頭(りゅうず)という。
◆「振り子の等時性」を発見したのはガリレオ。これを応用して振り子時計を作ることに成功したのは、オランダの科学者、ホイヘンス。彼は、土星の環とその衛星タイタンも発見している。
◆「振り子打法」は、イチロー。振り子は、大リーグへと傾いているようだ。
◆芥川賞と直木賞の正賞として贈られている物は、時計。
◆春に咲く黄色い花、タンポポ。『聖書』には「苦菜(ビターハーブ)」の名で登場し、西洋では「牧童の時計」とも呼ばれている。
◆映画『第三の男』の中での有名な台詞。
「イタリアでは、ボルジア家の圧政のもとにミケランジェロを生み出した。しかし、スイスは、500年の同胞愛のもとに鳩時計を生み出した。」
◆滋賀県の近江神宮では、6月10日の「時の記念日」に、天智天皇が作ったとされる水時計を記念して、「漏刻祭」が行われる。
◆交響曲『時計』を作曲したのは、オーストリアの作曲家、ハイドン。「交響曲の父」とも呼ばれている。他に、『驚愕』、『おもちゃ』、『オックスフォード』、『ロンドン』などの作品がある。
◆3分間を計ることができる砂時計がある。1時間を計るためには、これを19回ひっくり返せばよい。これで、正しい。
◆では、3分計と5分計を使って、7分を計るにはどうすればよいか?
まず、3分計と5分計の両方を作動させる。
3分たったところで、3分計をひっくり返す。
さらに2分経つと5分計の上部が空になるので、ひっくり返す。それと同時に、3分計もひっくり返す。
次に、3分計の上部がからになった瞬間が、7分後だ。
これだと、合計で3回も「ひっくり返す」という動作をしていることになる。もっとすくない手はないものか?
◆同じ条件で、1分、2分、4分も計るのは……、かなりむずかしい。
◆たとえば、2分を計りたいなら、こうするのかな?
まず、3分計と5分計の両方を作動させる。
3分たったところで、2分の計測をスタートさせる。5分計の砂がなくなるのが、2分後だ。
しかし、この方法だと、2分を計るために3分の準備が必要になる。準備なしで1分、2分、4分を計るのは可能なのか、不可能なのか?
◆砂時計は、「ひっくり返す」だけではない。「横に置く」ということもできる。こうすると、「時間を止める」ことができるので、便利だ。
◆砂時計の中央のくびれの部分にある、砂の落ちる穴を「オリフィス」という。砂時計を作る職人さんは、この穴の大きさと砂の量を調節することで、指定された時間の砂時計を作ると聞いた。すごい、と思う。
実際には、どうやっているのか。作っているところを見てみたい。
◆島根県の仁摩町には、なんと1年を計ることができる砂時計がある。
http://www.nima-cho.ne.jp/◆サウナには、砂時計が似合う。でも、1年も入るのはいやだ。