★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第五十七段 ●  あなたにも、ミニミニ光線

 幼稚園には、カルチャー・ショックがある。誰もがこの時期を通過しているはずなのだが、大人が幼稚園に入ると、必ず感じてしまう。
 部屋の隅には、おもちゃの電話が置いてある。これで、電話ごっこをして遊ぶのだなと思いながら、受話器を上げる。その受話器の小さいこと、軽いこと。まず、ここでカルチャー・ショック。あ、でも、最近の携帯電話やPHSは、これくらいかな。
 すぐ横のキラキラした小さな目が、こちらの動向を窺っているので、受話器を手にした以上、何かパフォーマンスをしなければならない。よし、電話をしているフリをしてやろう。
「もしもし?」
「はいはい」
「えっ!?」
 本当に声が聞こえる。再び、カルチャー・ショック。見れば、部屋の反対側の隅にもおもちゃの電話が置いてあって、そこで小さいのが小さい受話器を持っている。このおもちゃの電話は、本当に話ができるのだ。小さいくせにハイテクだなぁ、最近の幼稚園は……。
 そういえば、何もかもが小さい。コップが小さい、いすが小さい、便器が小さい。
 便器の小さいのには、本当に驚かされる。和式便器の横幅は、両手の親指と中指で作る円の直径くらいだった(と思えた)。この輪を左右に20cmほど広げれば、それが子ども用の便器の大きさだ(ったと思う)。実際はこの感覚よりも大きいのかもしれない。何しろ、小さい頃大きく感じていたものを、大人は小さく感じてしまうからだ。
 何でも大人の感覚で見てはいけない。子どもの頃いつも遊んでいた公園が、やけに小さく狭く感じられることがある。この現象が自分にも起こっているのだということを、自覚しないといけない。さもないと、
「あのね、あっちゃんのおうちの犬は、こ〜んなに大きいんだよ」
と楽しそうに話しかけてくるあっちゃんに対して、
「う〜ん。あのね、あの犬はね、特別大きいわけではないんだよ」
となる。だから、大人は嫌いだ。

 そんな大人には、ミニミニ光線を照射するとよい。ミニミニ光線を受けた物体は、全ての方向に長さが10分の1になってしまう。それはそれは恐ろしい光線だ。
「長さが10分の1になるということは、表面積は100分の1、体積は1000分の1になるというわけだね。となると、毎日の食事の量も1000分の1で済むわけだから、食費がかからなくていいなあ」
と、稲田君。
「あのね、この光線は夢のない大人に罰を与え、かつ、小さかった頃のことを思い出させるために開発された光線なんだ。君みたいな考えだと、ミニミニ光線が無駄になる」
「いや、無駄にはならないぞ。食糧がすくなくて済む」
「やっぱり、君にはミニミニ光線だ」
「ちょっと待ってくれ。こんな問題はどうだ。この問題が解けたら、ミニミニ光線も甘んじて受けようじゃないか」
「勝手に条件を出すな。しかし、その問題とやらを言ってみろ」
「よし。これだ!」
と、用意していたかのように、彼は問題を提示した。

 問題:時速100kmで走っている自動車があるとする。その車に、ミニミニ光線を当てると、スピードはどうなるか。
     (1)時速1000km になる
     (2)時速 100km のまま
     (3)時速 10km になる
     (4)時速 1km になる
     (5)その他

「ええい、分からん! やっぱり、ミニミニ光線だ!」
「そんなぁ……」
 答えが分かったら、デカデカ光線で元に戻してあげる。


【メモ】

◆幼稚園には、円形の折り紙があった。この丸い紙で鶴を折ると、羽の形はどうなるか? 頭の中だけで想像できたら、大したもの。

◆海外で「東京ショックボーイズ」という名で呼ばれている日本のグループがある。電撃ネットワークのことだ。かなり過激なパフォーマンスで人気を博している。

◆後遺症を残すような激しい精神的ショックのことを「トウラマ」という。もともとはラテン語だ。

◆1971年8月に起こったドル・ショックのことを、当時のアメリカ大統領の名前から、「ニクソン・ショック」という。

◆毎年、夏から秋にかけてスズメバチに襲われる被害が出る。一度ハチに刺された人が再び刺されたときに起こるアレルギー症状を特に「アナフィラキシー・ショック」という。ひどい場合は、死に至る。

◆ウルトラマンの必殺技で、手を十字に組んで発する光線は、「スペシウム光線」。

◆野球場などの夜間照明用に使われる光線は、「カクテル光線」。昼光色に近づけるために、ナトリウム灯、水銀灯、ハロゲン灯などの光線を混ぜてある。

◆太陽光線を虫眼鏡に通し一点に集中させると、紙などが燃え上がる。この原理で起こる火災を「収斂(しゅうれん)火災」という。
 水を張った金魚鉢や、車にぶら下がっているマスコットの透明な吸盤などでも、収斂火災が起こることがあるので注意。


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