★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第五十八段 ●  日本銀行を探せ!

 酒の席だった。
「ここに
一万円札があります」
「そうだね」
「この一万円札には、ある鳥がデザインされています。何でしょう?」
 稲田君のことだから、またくだらない問題だろうとは思ったが、一応返答した。

キジだろ」
「おお、すばらしい。では、キジは何羽いるか」
「2羽だ」
「あれ、よく知ってるね〜。おみごと、おみごと。では、立っているキジは、向かってどっちに描かれているか」
「左だ。ついでにいうと、右のキジは、そっぽを向いている」
「おお、さすがだ。しかし、どうやら、この一万円札に、キジ以外の鳥がいるのをご存じないようだ」
 すこしずつ彼の術中にはまっていくのを感じながら、抜け出ることができなかった。
「えっ。ちょっとそれを貸してくれ」
「あげないよ。必ず、返せよ」
「ちゃんと返すよ!」
 まず、裏を探した。キジが2羽描かれている。そのほかに、鳥は見当たらない。次に、表。福沢諭吉がいるが、彼は鳥じゃない。いや、彼ほどの人物だ、どこかの会社の「とうどり」ぐらい務めていたかもしれない。そんなにむづかしく考えなくても、彼は聖徳太子の「あととり」だ。しかし、どちらも面白くないしゃれだ。
「だめだ。ギブアップだ。」
「わからない?」
「福沢諭吉が聖徳太子の『あととり』ってのじゃないよな」
「何だよそれ!」
「いや、あの、その……。じゃあ何がいるの?」
「インコだよ」
「インコ?」
「そう」
「何羽いるの?」
「1羽」
「どこに」
「ここに、ほら、『INKO』!」
 と、「GINKO」の「G」の文字を隠して、見せてくれた。やられた。

 ほんのすこしだけだが悔しかったので、帰宅後、自分の一万円札を取り出し、別の問題がつくれないか探してみた。その気になれば見つかるものだ。見つけた自分に、拍手を送りたくなるくらいのいい問題だ。
 数日後、稲田君に出題する。

「この一万円札に、ローマ字で書かれた『NIPPON GINKO(
日本銀行)』が何ヶ所あるか?」
「ローマ字で? 漢字はダメなんだね。ちょっとそれを貸してくれ」
「あげないよ。必ず、返せよ」
「ちゃんと返すよ!」
 彼は、一万円札を奪った。しばらく時間が経った。
「だめだ。裏面に1ヶ所しか見つからない。しかし、1ヶ所なんて答えであるはずがない。そんな問題出すわけないからな」
「その通り。答えは1ヶ所ではない。複数だ」
「もういいから、教えてくれ」
「何だ、もうギブアップか。全部で35ヶ所に書かれているんだ」
「35ヶ所も! そんなバカな」
 と、再び彼は一万円札を奪った。しかし、見つからない。
「ないぞ!」
「あるよ!」
「いや、穴があくほど探したんだ。絶対にない」
「それはね、稲田君が勝手に『これくらいの大きさの字だろう』って想像しているからだよ。その想像よりも、ず〜っと小さいんだ」
「人の考えていることがよくわかるね〜」
「わかるんだな、それが。まぁ、稲田君が見つけられないのも、無理はないよ。目を凝らして見ても分からないくらいの小さな文字で書かれているんだ」
「そんなに小さいの?」
「小さいというか、虫めがねが必要かもしれない。よ〜く探せば、表面に8ヶ所、裏面に27ヶ所見つかるはずだよ」
「本当?」
「本当だよ。見つかったら、あまりの小さい文字に感動するはずだ」
「早く教えてよ」
「まずは表面。左上と右上にある「10000」に注目。よ〜く見てごらん。実は、『10000』のアンダーラインの中に4ヶ所ずつ、計8個の『NIPPON GINKO』があるよ」
「うぉ〜! これが『NIPPON GINKO』なのか!」
「次は裏面。上部に大きく『NIPPON GINKO』。これは、いいよね。今度は、下部の波打つ横線に注目。この横線の下、波に沿って、26個の『NIPPON GINKO』が並んでいるんだ。これで、全部合わせて35ヶ所」
「すごい、『NIPPON GINKO』が波打ってる! 感激だ〜!」
「稲田君は、嘘をついたね」
「なに?」
「インコは、35羽もいたよ」


【メモ】

◆「NIPPON GINKO」という小さな文字(
マイクロ文字)は、もちろん、偽造防止が目的だ。

◆では、千円札の「NIPPON GINKO」を探してみよう。まず、表面。右下に丸くなっている曲線に沿って、5ヶ所。裏面では、上部に大きく「NIPPON GINKO」。
さらに、その「NIPPON GINKO」と下部の「YEN」の文字につけられている影に注目。4つの「N」の右側にある影の中に、小さく「NIPPON GINKO」がある。だから、全部で10ヶ所。

◆五千円札の裏面にも、大きな「NIPPON GINKO」。そして、千円札と同様に、3つの「N」の影の中に、極小の「NIPPON GINKO」が発見できる。さらに、表面の右上の「5000」のアンダーラインの中にも、4ヶ所ある。合計8ヶ所。
 目が疲れたでしょ。

◆キジは、日本の
国鳥であるとともに、岩手県の県の鳥にも指定されている。ニワトリも、キジ科の鳥だ。

◆国鳥というものを、世界で最初に定めたのはアメリカ。1782年に特産のハクトウワシが議会により選定されている。キジが日本の国鳥に選定されたのは、1947年の日本鳥学会第81回例会において。選定理由は、キジが日本特産であるだけでなく、童話・文学・芸術などで親しまれ、勇気と母性愛に富むという点などがあげられた。

◆キジは、桃太郎の3番目の家来。

◆余計なことを言ったために、災難を招くことを「雉も鳴かずば撃たれまい」という。また、無愛想に拒絶するときに使う「けんもほろろ」は、キジの鳴き声。「頭隠して尻隠さず」のモデルも、キジ。

◆キジは人間より数秒早く地震などを知り、ケーンケーンとけたたましく鳴くことが知られている。キジの足には、「
ヘルベスト体」という震動を敏感に感じとる感覚細胞があり、このためと考えられ、人体には感じとれないような地震の震動を感じとることができるとされている。しかし、数秒早く知ってもなぁ……。

◆登山家の隠語で、「キジ撃ち」に行くといえば、トイレ。女性の場合は「お花摘み」ということもある。
 また、「キジ撃ち」は、大きく3つに分類されている。大キジ、小キジ、空(カラ)キジ。空キジというは、トイレに行ってはみたものの、何も出なかった――ということではなく、ガスが出たという場合のこと。

◆日本の中央銀行である日本銀行の資本金は、1億円。

◆千円札、五千円札、一万円札などの日本の紙幣の正式名称は、「日本銀行券」。大きさに違いはあるが、縦の長さはみんな同じ、76mmだ。

◆一万円札は、昭和33年に初めて発行された。このときスカシに入っていた図柄は、法隆寺夢殿。

◆一万円札の裏面の右下には、「ドーナツ」が2つ横に並んでいる。手で触れてわかるくらいのものだから、識別用の印だろうということは想像がつく。しかし、これは単なる印ではなく点字だった。この点字は「ウ」を表している。どうして、「ウ」だって? それは、他の二種類の紙幣を見ればわかる。現在、日本で発行されている紙幣には、裏面の右下に識別用の点字が打ってあるのだ。千円札に入れられている点字は「ア」、五千円札は「イ」。
 ということは、もし五万円札というものができたら、「エ」になるのだろうな。
 それより、二千円札ではどうなっているのだろうか? 早く見たい。

◆歴代の日銀総裁の中で、紙幣の肖像になっている人物は、
高橋是清だけ。五十円紙幣の肖像になっている。彼は、原敬が東京駅で暗殺されたあと、首相に就任する。しかし、立憲政友会内部の対立のため、1年持たずに内閣は総辞職。1936年の二・二六事件で暗殺されたとき、彼は大蔵大臣だった。

◆五十円紙幣が最初に発行されたのは、昭和26年12月1日。「これからはもう作りませんよ」となったのは、昭和33年10月1日。ただし、この五十円札は、現在でも50円として立派に通用する。しかし、古い紙幣としての価値があるはずから、持っていくべくところに持っていけば50円以上で買い取ってもらえるはずだ。

◆「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」と言った福沢諭吉は、最高額の紙幣の肖像に使われている。いいのかな?

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