● 第五十九段 ● 留守番のお相手
留守番電話はきらいだ。
相手の電話に自分の声を吹き込むのが苦手だ。なんだか、かしこまってしまう。留守番電話に上手にメッセージを話すことができる人がいるが、そういう人には、ほとんど尊敬の念すら感じている。
きらいだと言っておきながら、家を留守にするときには、やはり留守番機能をセットしてする。そのうえ、自宅に戻ってきたときに、留守中に電話があったというランプが点滅していると、
「何かあったのかな。いい内容か、悪い内容か?」
とすこし期待している自分がある。かなり勝手だなと思う。
メッセージを録音するのは苦手だが、この機能は本当に便利だと思う。
たとえば、家に居るときでも、留守録をセットしておくということがある。ベルが鳴っても電話に出ない。居留守ではない。迷惑電話の撃退法の一つしてやっている。
こっちが留守番電話だとわかった途端に、何も話さず電話を切る人がいるが、そんなときはどうせその程度の内容だったんだろうと、気にしないでいる。本当に大切な内容の電話なら、相手がメッセージを吹き込んでいる最中に、受話器を上げればよい。
「ごめんなさい。今、帰って来たところなんです」
ほんのすこしだけ罪悪感が残るので、こんなことをしている人は実際にはすくないだろうと思って、何かの機会に話してみたら、
「私もやっている。罪悪感は全くない」
という人まで現れた。調査してみたら、かなりの割合で存在しているのではなかろうか。
でも、やはり、留守番電話に話しかけるのはむなしい。
「はい、○○です。」
と相手(とこっちが勝手に思い込んでいる)が言うから、こっちがしゃべっているのに、向こうも何か言っている。
「失礼な奴だ。」
と思って聞いてやると、
「発信音の後に、メッセージを入れてください」
と、お決まりのフレーズだ。悔しい。最近は、その間違って話してしまった声まで録音されることが多いから、あとでそれを聞かれると思うと、真っ赤になる。
こないだなんか、稲田君にこんないたずらされた。このいたずらが成功する
確率はかなり高いのではないかと思う。
稲田君に電話をかけた。
――はい、稲田です
「星田です。この間は、どうも」
――あ〜、この前はありがとう。それで、どうだった?
「あ、何とかうまくいったよ」
――そりゃよかった。ところで、この電話は留守番電話です。発信音の後に、
メッセージを入れてくださいね。ピー(発信音)
「うそ………………」
留守番電話側の台詞は、適当に考えればいい。
「最近どう? 元気でやってる?」
とか、
「お久しぶりですね。会って酒でも飲みたいですね。」
とか。ただ、当然のことだが、このテープを作るときには、相手の台詞のところは、間をあけておくこと。絶妙の間が、要求される。
いたずらしたい気持ちはすごくあるのだが、良好な人間関係を保つために、このテープは作らずにいる。
【メモ】
◆今はあまり見られなくなった、ダイヤル式の電話。信号が送られるのはダイヤルを回すときなのか、戻すときなのか?
答えは、戻すとき。つまり、回すときに信号を送ると、何か不都合が起こるわけだ。どんな不都合が起こるか。中学生への問題。
たとえば、6を入力する場合は、指を6の穴に入れて、ダイヤルを爪のところまで回す。これで、利用者は6のつもりだろうが、電話機にしてみれば、
「この人は6を入力したのだろうか? いや、待て待て。もしかしたら、6に続く7、8、9かもしれない。0ってこともあるぞ。ダイヤルをゆっくり回す人もいるし、まだ信号は送れないな〜」
ということになる。だから、利用者がダイヤルを爪のところまで回して、指をはずし、ダイヤルが戻るときに信号を送るように設定されているのだ。
◆日本の電話の市外局番で、最も短いのは2桁。これは、東京と大阪にあるだけ。最も長いのは6桁。
◆市外局番は「0」から始まる。
「011」があるのは北海道。「099」があるのは、鹿児島県。
鹿児島県には「09977」という市外局番もある。調べた中では、これがいちばん「大きな」市外局番だった。大島郡の瀬戸内町だ。
◆電話を利用して人を呼び出すときなどに使う器具は、ポケットベル。英語では「ビーパー」、「ページャー」などと呼ばれている。しかし、携帯電話のメールの普及で、もう、あまり見られなくなってしまった。
中・高校生での間では、「メル友」「メル恋」なる言葉があって、メールを通して、コミュニケーションをとっているらしい。どうせ電話をかけるのなら、直接話をすればいいのに……としか考えられないのは、かなり頭が硬い。それなりのメリットがあるのだろう。
◆動産、不動産という言葉があるが、電話は、動産に分類される。
◆会社などで使われる「大代表」といえば、電話の本数は11本以上だ。
◆公衆電話は、床屋の角にある。これは、森高千里のヒット曲『渡良瀬橋』の中の話。そして、まりこの部屋へ電話をかける。これは、中島みゆきの『悪女』の中での話。長電話したときには、膝の上に小猫がいる。薬師丸ひろ子の『あなたをもっと知りたくて』の中での話。
◆薬師丸ひろ子の『あなたをもっと知りたくて』は、はじめ、『あなたのモットー知りたくて』だと思っていた。
◆国内線の航空機内に備え付けられた公衆電話が使用できるのは、地上5000m以上。
◆新幹線に乗っている客に電話をかけようとするときには、107番にダイヤルすればよい。
◆公衆電話の長電話を解消するために、短い通話優先の「ワンショットテレホン」なるものがある。電話に「ワンショットテレホン」と表示されているだけなのだが、効果はあるそうだ。
◆緑の公衆電話で、1度に入れることのできる10円玉は5枚。100円玉なら4枚まで。
◆電話番号の117番、119番、177番。このうち、いつでも相手と話せるのは、119番。だからといって、いたずらしてはいけない。