★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第六十段 ●  北緯40度、東経140度

 八郎潟は、干拓で有名だ。
 しかし、干拓されるまでの八郎潟が、大きな湖だったということを知っている者は今ではすくなくなってしまった。東西12km、南北27km。面積は約220平方km。つまり、日本では琵琶湖に次ぐ大きな湖だったのだ。
 干拓の計画が最初に立てられたのは、なんと江戸時代の安政年間(1854〜60)。渡部斧松という人が、「八郎潟疎水案」を出している。明治以降も何度か計画はされていたのだが、実現には至らなかった。
 八郎潟の干拓を強く要請したのは、第2次世界大戦後の食糧難だった。農林省が、オランダの技術協力を得て、1957年干拓の工事が始まった。63年には、中央の干拓堤防が完成して、排水作業が終了。64年には、「大潟村」が設置された。さらに、用水路、排水路、道路が作られ、77年には工事が完了している。この結果、合計172.3平方kmの干拓地が生まれた。元の湖の約4分の3が干拓されたことになる。
 干拓地の周りに張り巡らされた堤防の長さは約5km。その外側には調整池が残っており、この面積は約48平方km。手持ちの地図にもちゃんと「八郎潟調整池」と書いてあった。
 八郎潟を車で走ったことがある。本当をいうと、気がつかないうちに八郎潟の中に入っていたのだった。突然、目の前に緑のじゅうたんが広がる。
「何だ、ここは!?」
 もちろん、正体は稲だった。走っても走っても、ずっと緑。そこで地図を見て、やっと理解した。
「そうか! 今、八郎潟の中なんだ。」

 地図を見て、もう一つ気がついたことがあった。八郎潟の中を北緯40度の緯線が突き抜けているのだ。それだけではない。東経140度の経線も通っている。こんなにキリのいい数字の地点はそうないだろう。もしかしたら、何か石碑でもあるかもしれない。
 ワクワクしながら探したら、あった。看板のような、標識のようなものが立っていた。あれは、今でも立っているのだろうか。

【メモ】

◆『八郎』というタイトルの絵本がある。文が斎藤隆介、絵が滝平二郎。強烈なタッチの絵で、一度読んだら忘れられない。

◆懐かしのアニメヒーローのエイトマン。彼は、刑事だった東八郎の記憶を移植されたスーパーロボットだ。

◆八郎潟の干拓について、オランダに技術の援助を頼んだのは、分かるような気がする。オランダも干拓地が多いからだ。
 オランダの干拓地は特に「ポルダー」と呼ばれているが、国土の約4分の1がポルダーだと聞く。北海沿岸地方、アイセル湖畔に多く、大部分が海抜0m以下である。このため、無数の排水溝を整備し、電力によって排水を行っている。
 オランダといえば、風車のある風景が有名だが、あれは、昔、風力による排水を行っていたんだそうだ。

◆奥羽本線の八郎潟駅は、明治35年8月に開業されている。ただし、このときの駅名は、「五城目駅」だった。駅は一日市村にあるのにもかかわらず、五城目町の名前を採用したのだ。その後、大正15年11月、実情に即する形で、駅名は「一日市駅」に変更される。そして、昭和40年6月、周辺の町村合併のため、現在の「八郎潟駅」に名を改めた。駅舎のある場所が変わったわけでもないのに、こんなに名前が変わるなんて珍しい駅だ。

◆八郎潟に行った後で、男鹿半島の先っちょの入道崎にも行ってみた。ここにも、北緯40度を示すものがあった。石で作られたモニュメントだ。近くの寒風山から産出された安山岩で作られたものだそうだ。
 ここを訪れたのは、もう随分前のことなので、記憶が違っているかもしれないが、たしかこの石は縦に切れ目が入っている。隙間が開いているという感じだ。この隙間を、北緯40度の緯線が通っているのだ。通せんぼしてやりゃよかった。

◆北緯40度(付近)の都市。マドリード、アンカラ、サマルカンド、敦煌(トンコウ)、北京、フィラデルフィアなど。

◆北緯30度、東経130度の地点は、「地」点ではなかった。屋久島の南に、口之島という島があるのだが、その東の海だ。ちなみに、口之島はトカラ列島の中の一つ。

◆八郎潟は、潟湖(せきこ)に分類される。陸地と砂嘴(さし)、砂州(さす)、沿岸州などの間に形成された湖のことだ。八郎潟の他に、サロマ湖、中海、宍道湖などが知られている。

◆砂嘴や砂州って言っても、あまり聞かない言葉だから、すこし説明を。
■ 砂嘴、砂州 ■
 風や沿岸流のはたらきで、海岸から細長く突き出た地形が形成されることがある。これが、「砂嘴」。「嘴」とは、くちばしのこと。清水市の三保、北海道の野付崎が代表例。また、反対側の海岸まで届きそうであれば「砂州」。これは、天の橋立や弓ヶ浜が有名。

◆琵琶湖の面積は、約672平方km。周囲は約277kmある。日本最大の湖だ。深さが日本一の湖は田沢湖で、最大深度が423。4m。

◆湖の透明度が話題になることがある。これは、直径25〜30cmの白い円板を沈めていくのだそうだ。水面からそれが見えなくなった深さが、「透明度」ということだ。摩周湖の透明度は日本一、いや、世界一。1931年の8月に41.6mの最大透明度が記録されている。ただ、これは季節や環境の変化を大きく受けるため、変動が大きい。現在はこんなに透明ではない。

◆摩周湖は、霧でも有名だ。せっかく摩周湖を訪れても、透明な湖水どころか、摩周湖に浮かぶカムイッシュ島さえ見ることができないことが多い。

◆干拓と埋め立ては、発想の方向が全く違う。どっちにしても、陸地を広げることになるのだが……。

◆日本中の住所を、緯度と経度による表示に切り替えたら、何か困ることが出てくるだろうか。

【参考文献】
 ・平凡社世界大百科事典
 ・八郎潟駅パンフレット  JR東日本


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