・ 第六十一段の一 ・ どうして14分の1なのか?
大相撲の巴戦の話だった。
すこし復習しておく。巴戦に出場する力士は、A、B、Cの3人。3人の実力は全くの互角。最初に対戦するのは、AとB。このとき、後から対戦するCは、優勝する確率が、先に対戦するA、Bに比べてだけ小さいというのだが、その計算方法が分からなかったのだ。教えてもらったが、かなりむずかしかった。数学の話は虫酸が走るという人は、読み飛ばした方がいいかもしれない。
さあ、Cのつもりになって読んでください。
Cが優勝するための最短距離は、
ACC or BCC
となる。これは、勝った力士を、取り組みが行われた順番に並べたものだ。第1戦では、A、Bのどっちが勝ってもかまわないことがわかる。どちらが勝とうが、優勝するつもりのCには関係ない。だから、とりあえず、第1戦はAに花を持たせて、以後を考えることにする。すると、Cが優勝するパターンは、次のようになる。
ACC
ACBACC
ACBACBACC
ACBACBACBACC
:
これを見ると、Cが優勝するチャンスは、第3戦、第6戦、第9戦……。つまり、第3n戦(nは自然数)のときだと分かる。Cは第3n戦で相手に勝てば、優勝できるのだ。
よく考えてみれば、巴戦では、第1戦と第2戦は、必ず行れる。しかし、第3戦以降は優勝の権利を持った力士が負けた場合にのみ行われることになる。したがって、第3戦が行われる確率は、1/2ということだ。以降、第n戦目が行われる確率は、次の通り……。
第1戦,第2戦 … 1
第3戦 … 1/2
第4戦 … 1/4
第5戦 … 1/8
第6戦 … 1/16
:
:
第n戦 … 1/2^(n-2)
※たとえば、「3^2」という表記は、「3の2乗」を表す。
Cが優勝するためには,優勝権を持った試合(第3戦、第6戦、……、第3n戦で巡ってくる)で勝てばよい。
第3戦まで進んで、しかもCが勝つ確率……(1/2)×(1/2)=1/4
第6戦まで進んで、しかもCが勝つ確率……(1/16)×(1/2)=1/32
第9戦まで進んで、しかもCが勝つ確率……(1/128)×(1/2)=1/256
したがって、Cが優勝する確率の合計は,
1/4 + 1/32 + 1/256 + …
しかし、これを永遠に足し続けるのは大変だ。こういうときは、あっさりと公式のお世話になることにしよう。初項a、公比r(r<1)の等比数列を無限に足し続けたときの和Sは、次の式で求められる。
a
S=――――
1−r
この式に初項1/4、公比1/8を代入して、和を求めると2/7を得る。
やっと出た。Cが優勝する確率は、2/7だ。では、残りの5/7は何かというと、当然A、Bの優勝する確率だ。2人の優勝確率は、全く同じなので、これを2で割ればよい。つまり、最初に対戦する2人の優勝する確率は、5/14だ。
まとめてみよう。
A、Bが優勝する確率……5/14
Cが優勝する確率…………2/7(4/14)
ほら、Cが優勝する確率は、他の二人より1/14だけ小さいでしょ。
以上、最後までおつきあいくださった方、ありがとうございました。
【メモ】
◆しかし、実際は試合数が多くなれば、それだけ疲労も蓄積されるのだから、後から対戦するCにもメリットはある(かな?)。
◆相撲で、「全勝優勝」って呼ばれるものがある。昨今は、朝青龍がなんだか簡単にやってしまいそうなのだが、あれは、大変だぞって話。
相手が互角の力を持っているとすれば、勝つ確率は1/2。互角の相手と15連勝する確率は、(1/2)^15=0.0000030517578125……
すごい値でしょ。こんな確率だったら、ほとんど起こらないという感じだが、それをやってのけるということは、互角の相手が15人並んでいるのではないということ。つまり、朝青龍が群を抜いて強いということだ。