● 第六十三段 ● デシよりデカいヘクト
たとえば、マッチ棒の長さは、5cm。これで、「5センチメートル」と読む。こんなことは、小学校で習う。しかし、つい「5センチ」と言ってしまう。この表現でも、ほとんどの場合、意志の疎通に支障はない。誰もが長さを想像するはずだ。しかし、「5キロ」と言われたら、あなたは何を想像するか。長さか、いや、重さかもしれない。やっぱり、正しく「5キロメートル」とか、「5キログラム」とか言うのがよい。「5キロヘルツ」というのもある。
「メガヘルツ」は、FM放送を聞くときによく使う。東京FMの周波数は、80メガヘルツ。fm Osakaは、85.1メガヘルツだ。ちなみに、1000ヘルツが1キロヘルツで、1000キロヘルツが1メガヘルツだ。
「センチ」、「キロ」、「メガ」などは、単位につける接頭語と呼ばれるものだ。まだこの上にもある。最近はコンピュータのハードディスクに、1ギガバイトというのが登場している。「ギガ」というのは‥‥、それも含めて以下に紹介しておく。
SI(国際単位系)の接頭語
記号 名称 大きさ
Y ヨタ 10の24乗
Z ゼタ 10の21乗
E エクサ 10の18乗
P ペタ 10の15乗
T テラ 10の12乗
G ギガ 10の9乗
M メガ 10の6乗
k キロ 10の3乗
h ヘクト 10の2乗
da デカ 10の1乗
d デシ 10の−1乗
c センチ 10の−2乗
m ミリ 10の−3乗
μ マイクロ 10の−6乗
n ナノ 10の−9乗
p ピコ 10の−12乗
f フェムト 10の−15乗
a アト 10の−18乗
z ゼプト 10の−21乗
y ヨクト 10の−24乗
ここで「10の○乗」という表現がされているが、例えば、10の3乗というと、1に0が3つ続く数、つまり「1000」を表している。また、10のマイナス3乗とは、小数点以下の3桁めが1、つまり、「0.001」ということだ。
日常生活で使うのは、大きい方はメガ、がんばってギガまで。小さい方はミリ、がんばってマイクロまでかな。
【メモ】
◆国際度量衡総会で採択された単位系が、国際単位系(SI、International System of Units)。7つの基本単位、たくさんの組み立て単位から構成されている。原則として、1つの量に1つの単位がある。基本単位 長さ m メートル
質量 kg キログラム
時間 s 秒
電流 A アンペア
温度 K ケルビン
物質量 mol モル
光度 cd カンデラ
◆本文で紹介した接頭語のうち、1960年のSIの採用時にあったのは、「テラ」から「ピコ」まで12だけ。
◆1964年にはフェムトとアトが、1975年にエクサとペタ、そして、1991年にはさらに4つが付け加えられた。現在、接頭語は20個。
・1964年に追加
倍数 記号 接頭語 語義
10^-15 f フェムト 15(ケルト語)
10^-18 a アト 18(ケルト語)
・1975年に追加
倍数 記号 接頭語 語義
10^18 E エクサ 6(ギリシャ語)
10^15 P ペタ 5(ギリシャ語)
・1991年に追加
倍数 記号 接頭語 語義
10^24 Y ヨタ ラテン語の最後の1つ前の文字Y
10^21 Z ゼタ ラテン語の最後の文字Z
10^-21 z ゼプト ゼタとheptaを合成
10^-24 y ヨクト ヨタとoktoを合成
◆ここまで、ほぼ10^3おきに新しい接頭語が付けられているのがわかるが、最後に加えられた4つの接頭語については、かなりの苦労の後がある。
ゼタとヨタは、ギリシャ語の「ゼータ」(ラテン語の最後の文字Zに相当)と「イオタ」(ラテン語の最後から1つ前の文字Yに相当)にそれぞれ由来する。
また、ゼプトは10-3の7乗ということで、7を意味するギリシャ語の“hepta”をゼタと合成して生まれた。同様に、ヨクトは10-3の8乗なので、8を意味するギリシャ語の“okto”をヨタと合成して生まれた。
◆面積の単位に「アール」がある。1アールは、10m×10mの正方形の面積に相当する。100アールで、1ヘクタール。ここに「ヘクト」が使われている。天気予報などでは、「ヘクトパスカル」もよく聞く。これは、圧力の単位だ。他の用例は知らない。
◆1リットルの10分の1が、1デシリットル。他の場面で「デシ」が使われているのを知らない。
◆「デカ」が、単位に使われているのを、見たことがない。「デカメートル」とか「デカグラム」とか、世界のどこかで使われているのだろうか。見たことはないが、「デカ」が10を表しているということは、たくさんの用例がそれを示している。
decade 10年間
decagon 十角形
Decalogue 十戒(「じっかい」と読む!)
decathlon 十種競技
December 12月(本当は、10番目の月を示している)
decennial 10年記念日
次のような恐ろしい意味の単語もあった。しかし、これはむしろ、「デシ」の方の範疇かもしれないな。
decimate 10人のうち、1人を殺す
◆ボッカチオの作品に、『デカメロン』がある。『十日物語』とも呼ばれる。フィレンツェを襲ったペストを裂けて集まった3人の貴公子と7人の貴婦人とが、1日に1人が1話ずつ、10日に渡って100の話をするという物語。ヨーロッパの散文文学の祖とされている。また、ダンテの『神曲』に対し、『デカメロン』は『人曲』とも呼ばれる。
◆「センチ」は、「センチメートル」でしか使ったことがない。いや、よく思い出してみたら、あった、あった。パリで発見したことがある。
観光の最中に、ミネラルウォーターをよく飲んだ。1リットルのボトルでは持ち運びに重いので、小さめのボトルをよく利用した。見たところ500ccくらいの水が入っているようなのだが、「50」と表示されている。
「50リットル! そんなわけないよな。」
よ〜く見ると、「50cl」だった。「cl」とあるから、塩素が含まれているのかとも考えたが、それも変だ。これは、「センチリットル」に違いない。1リットルの100分の1を表しているのだ。さらに念のために、1センチリットルは、10ccのこと。
◆さらにさらに念のために、「cc(シーシー)」は、cubic centimeter の略。つまり、立方センチメートルのこと。
◆「メガトン」は、100万トンのこと。これは、主に核兵器の威力を示すときに使う。これも恐ろしいなあ。
◆キロキロと、ヘクト出掛けたメートルが、弟子に追われてセンチミリミリ。