● 第六十四段 ● プレゼント交換を考える
クリスマスパーティなどで、プレゼントの交換が行われるときがある。いくつになっても楽しいものである。プレゼントを買う段階から、ワクワクする。 メンバーが集まったら、輪になって、クリスマスにふさわしい歌を歌いながら、隣りの人にプレゼントを回していく。歌い終わったところで、自分の手にある物が、自分へのプレゼントとなる。誰のプレゼントが自分の物になるか、予想は困難なので、非常にスリリングである。
自分の買ってきたプレゼントの行方も気になる。相手が喜んでくれているのかどうか。
「誰だ、こんなつまらない物買ったのは!」
なんて言われたら、死んでしまいそうだ。やはり、エチケットとして、みんな笑顔で円満に過ごさなければいけない。きっと、腹の中では、嫉妬や憎悪が跋扈(ばっこ)しているのだろけど……。想像すると、恐ろしい。
ま、大抵の場合は、「1000円程度の物」などといった指定があるので、何をもらっても金額的には当たり外れはないはずである。しかし、それでも金額以上の期待を持ってしまうのは、人間の悲しい性である。そんな期待をするから、先の発言のように、プレゼントを買ってくれた人に非常に失礼な発言が出てしまう。この発言は、ぐっとこらえなければならない。表情に出してもいけない。一人になってから考えよう。この交換は、正しかったのかと……。
数学の世界では、いつでも交換OKというときがある。「交換法則」と呼ばれるもので、加法、乗法の場合が、特に有名だ。
a+b=b+a
a×b=b×a
一般的に言えば、演算の順序を入れ換えても、結果が同じなる場合、「交換法則が成り立つ」という。減法や除法では、悲しいかな、これが成立しない。
中学生までで学習する演算は、加減乗除の四則演算がほとんど全てだから、交換法則が成り立つものが2つ、成り立たないものが2つということになる。だからといって、世の中の全ての事象が、交換可と交換不可が半々になっていると思ったら大間違いだ。
だいたい、交換法則が成り立つというのは、本当に特殊だ。特殊だから、中学校の教科書でも、大きく扱われるし、利用する価値が生まれる。
世の中の様々な事象で、交換法則が成り立つ場合を考えてほしい。あまりの例のすくなさに、交換法則が成り立つという特殊性が浮き彫りにされる。逆に、成り立たない場合なら、いくらでも言える。
・パンツをはいてから、ズボンをはく。
・キーを差し込んでから、エンジンをかける。
・本を読んでから、感想文を書く。
・ドアを開けてから、中に入る。
・皮を剥いてから、食べる。
・服を脱いでから、風呂に入る。
・お金を払ってから、レシートをもらう。
これらの例と減法や除法とは、随分性格が異なっているので、同じに考えることはできない。お遊びだと思ってほしい。
物事には順序がある。順序を崩せば、軋轢(あつれき)が生じる。でも、何か新しい物が生まれることもある。
【メモ】
◆先の方法でプレゼント交換を行うと、歌が終わったら、自分の手元に自分のプレゼントが戻ってきた――ということもよくあることだ。こういう場合は、参加メンバーの誰もが自分のプレゼントが戻ってきているはずだから、曲を変えて、もう一度行えばよい。
◆びっくり箱は、人を驚かせるプレゼントとしてよく用いられる。英語では、「jack-in-the-box」という。箱に潜んでいるピエロの彼は、ジャックという名前だったんだ。
◆英語の「present」は、名詞と動詞でアクセントの位置が異なるという単語の典型だ。この単語を音節に分けると「pre・sent」で、「贈り物」という名詞の場合には、前の音節にアクセントがある。動詞の「〜を贈る」では、後ろの音節にアクセントが来て、発音も名詞の場合とは少し異なる。また、「出席している」、「現在の」という形容詞のpresentは、綴りは同じだが別の単語。音節に分けると、「pres・ent」。
◆童話『わらしべ長者』で、主人公が最初にわらと交換したものは、みかん。
◆大相撲で、行司が力士の名前を呼び上げる順序は、奇数日と偶数日で異なる。初日は東方から、2日目は西方から。
◆物事の順序・方法を定めることを「段取り」というが、これは、階段を作るときに行う見積もりを指す言葉だった。段の高さがそろっていない階段は、非常に登りにくい。
◆「一眼、二足、三胆、四力」。剣道で大切なものの順序だ。
◆インスタントラーメンのスープに、
「必ず火を消してから、スープを入れてください」
とあるが、あの順序を間違えても、おいしいスープができあがる。すくなくとも私には味の違いを確認することができない。いったい何なのだろう?
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◆ズボンをはいてから、パンツをはいても別にかまわない……か。