● 第六十六段 ● 怠け者のカレンダー
カレンダーをめくるのを忘れてしまう。そんな経験はないだろうか?
「今年はやるぞ!」
と心に決めて、日めくり式のカレンダーを購入したことがある。そのカレンダーには、日常の英会話の例文が書かれてあるので、毎日1つずつ例文を覚えることができる。1年経ったら、ほとんどペラペラになっているはずだった。しかし、これは、30日続かなかった。悔しいから、残っていた例文は1日でまとめて読んだ。
「3日坊主カレンダー」なるものを、使ったこともあった。日めくり式のカレンダーを続けることができない人のためのカレンダーだ。3日に1度めくればいいのだが、それでもだめだった。
考えてみれば、もっともな話だ。ふた月に1度めくればよい式のカレンダーでも、遅れてしまうのだから……。5月になっても、1月・2月のカレンダーがそのまま壁に放置してあるということも珍しくはない。
これは「忘れる」というのではないな。本人は覚えているのだ。だって、必要なときにはカレンダーをめくって、5月の曜日を調べている。そのときに、1〜4月分を破ってしまえばいいのだが、それもしない。要は怠け者なのだ。
だから、新年に変わるときが、いちばん困ってしまう。
「そうだ。毎年の1月1日を、必ず同じ曜日にすれば、カレンダーなんていらなくなるぞ!」
いい案だと思ったが、すぐに挫折した。4年に1度のうるう日が来ると、3月から曜日が1日ずれることになる。
「うるう日が、2月の終わりにあるのがいけないんだ。12月の終わりだったらよかったのに……」
これは、大変なことになってきた。暦法を変える必要がある。
ついでに、今の暦の欠点をいくつか考えてみた。(1)毎年、月日と曜日の対応が変わってしまう。
(2)2月だけが極端に短い。
(3)うるう日のある場所が、中途半端。
稲田君に、以上のことを報告すると、
「素晴らしい。しかし、既に同じようなことを考えた人がいる」
と、「万年暦」の存在を紹介された。数日後、彼が詳しく教えてくれた。1、4、7、10月 日 月 火 水 木 金 土
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 312、5、8、11月 日 月 火 水 木 金 土
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 303、6、9、12月 日 月 火 水 木 金 土
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30このように、1年を1〜3月、4〜6月、7〜9月、10〜12月の4期に分ける。各期は、順に31日、30日、30日になっている。したがって、各期は合計91日。これは、ちょうど13週間になる。つまり、この暦を使っている限り、月日と曜日の対応は、永久に変わらないということだ。理想のカレンダーだ。
ただ、この方法では、4期で364日となり、平年で1日、うるう年だと2日足りない。そこで、平年には12月31日を、うるう年には6月31日を設ける。この日は、「週外の日」、つまり「曜日のない日」ということで、休日とする。曜日のない日を作るなんて発想が、素晴らしいと思う。
22世紀からでも、採用してみたらどうだろう。【メモ】
◆1930年に世界暦協会が発足し、先に紹介した万年暦が作られた。
◆この暦法だと、
「来年の元旦は何曜日?」
「何言ってんだ。元旦は、日曜に決まってっだろ!」
となる。
1月1日に限らず、どの月日でも曜日が固定されるから、
「今年の彼女の誕生日は、何曜日かな?」
というワクワクはなくなる。
◆世界暦協会は、新年が日曜日から始まるとしているが、その必然性は全くないから、好きなようにすればよいのではないか。たとえば、ゴールデンウィークでの休みが多くなるように、1月1日の曜日を決めればいい。
◆そんな日本だけのわがままは許されないだろうから、この問題は、国連の機関か何かで協議されるのだろうな。そうなると、先の案はきっとボツになる。
◆12000席を誇る甲子球場の名物スタンドは、アルプススタンド。
「上の方に万年雪がありそうだ。」
と、岡本太郎の父である岡本一平が、その名をつけた。
◆「万年酢」と呼ばれる調味料がある。酢・酒・水を混合して熟成させた酢のことだが、使用した分だけ、酒・水を加えるので、長期間使うことができる。
◆「万年通宝」という貨幣がある。「和銅開珎(わどうかいちん)」に次いで、760年に鋳造された銅銭。皇朝十二銭の一つ。
◆漢字で「万年青」と書いたら、オモト。ユリ科の常緑多年草だ。初春に白い小花をつける。
◆夜も昼もしきっぱなしの寝床は、万年床。ベッドのことだな。
◆コンクリートで作った塀は、万年塀。果たして、万年の耐久性があるかどうか。
◆鶴は千年、亀は万年。では、「億年」生きるのにふさわしい動物は何だろう。
◆大阪では、「まんねん」がよく使われる。
「大阪に住んでまんねん」
「風邪ひいてまんねん」
英語での現在完了進行形に相当するか。「まんねん」を語尾に付けることで、1年や2年といった期間ではなく、非常に長期に渡りその状況が続いていることが表現される?