★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第六十九段 ●  飛行機と計量スプーン

 調べてみたら、なかった。今回は、「風力計」を国語辞典で調べてみた。
 正確にいうと、項目は見つかった。しかし、

   →ふうそくけい(風速計)

となっていた。「風速計」を調べよということだ。で、風速計を調べると、「風速を測定する機械」とある。ありゃ、これは何だか、風力を勘違いしているなと感じた。

■ 風力階級 ■
風の速さを示すために定めた階級。風速計のないところで、風速の程度を目測するために利用する。0〜12の13階級に風速を区分している。1805年、イギリスの軍人ビューフォートが、帆船の帆の張り方などにより、階級表を作った。その後、海面や陸地の状況などを考慮に入れて改良されたのが、現在のビューフォート風力階級表(気象庁風力階級表)。

風力階級 風 速
以上 未満
陸上の状態
風力0   0〜 0.3 静穏。煙はまっすぐに昇る。
風力1 0.3〜 1.6 風向は煙のたなびき方で分かるが、風見には感じない。
風力2 1.6〜 3.4 顔に風を感じる。木の葉が動く。風見が動き出す。
風力3 3.4〜 5.5 木の葉や細い小枝がたえず動く。軽い旗が開く。
風力4 5.5〜 8.0 砂ほこりが立ち、紙片が舞い上がる。小枝が動く。
風力5 8.0〜10.8 葉のあるかん木が揺れ始める。池や沼の水面に波頭が立つ。
風力6 10.8〜13.9 大枝が動く。電線が鳴る。かさはさしにくい。
風力7 13.9〜17.2 樹木全体が揺れる。風に向かっては歩きにくい。
風力8 17.2〜20.8 小枝が折れる。風に向かっては歩けない。
風力9 20.8〜24.5 人家にわずかな損害が起こる。(煙突が倒れ、瓦がはがれる)
風力10 24.5〜28.5 内陸ではあまり起こらない。樹木が根こそぎになる。人家に大損害が起こる。
風力11 28.5〜32.7 広い範囲の破壊を伴う。めったに起こらない。
風力12 32.7〜  

             (風速は、地上10mでのもの。単位m/秒)

 気象用語で、風力といえば、風力階級のことで、これは、風速から決定されているのだ。だから、厳密にいえば、風速計はあっても、風力計はない。
 少しだけ勉強した。風速には、瞬間風速と平均風速があり、単に風速といえば、10分間の平均風速をいうのだそうだ。では、実際はどのように平均しているのか。
 気象台に尋ねることにした。担当の方が、本当に丁寧に答えてくださった。瞬間風速と平均風速のことを話したら、
「その通りです。ある時刻の風速というのは、10分前からの風速を平均したものです。」
 とのお答え。
「うちの近くに、飛行機に似た形で、プロペラがくるくる回っているのがあるのですが、あれが風速計ですか。かなり大きなものですが‥‥。」
「そうですね。あれは風向風速計です。お宅はどちらですか?」
「大和郡山市です。」
「ちょっと待ってください。‥‥。それは、気象台のものではありませんね。」
「そうですか。で、質問なんですが。風速を平均するって、具体的にはどうやっているのですか。」
「気象台の風速計は、0.25秒ごとに測定結果を送ってきます。」
「それが、瞬間風速ですね。」
「そうです。そのデータを10分間積算して、平均すればいいわけです。」
「なるほど。ということは、最初の5分間が風速10m/秒で、次の5分間が20m/秒だった場合は、平均風速は15m/秒になるのですね。」
「そうです。」
「しかし、0.25秒ごとだと、10分間の積算だとはいえ、大変な計算になると思いますが‥‥。」
「もちろん、コンピュータで処理してます。」
「そりゃ、そうですね。」
 瑣末(さまつ)な質問をしてしまったと反省していたら、
「一度、気象台の方へおいでください。いろいろ資料もありますし‥‥。」
 お言葉に甘えて、いつかお邪魔させてもらおう。


【メモ】

◆「アネモメーター」いえば、風速計のこと。計量スプーンのような形の風受けを持つ風速計は、ロビンソン風速計。初期のタイプの風受けは4個だったが、風速に変動があると実際の風速より大きい値を示してしまうということで、3個に減らされてしまった。現在、気象台や測候所ではこのタイプの風速計は使用されていない。
 変わって気象台などで使用されているのは、風向と風速が同時に測定できるプロペラ型風向風速計。

◆さて、記憶力問題。あなたの家の扇風機の羽は、右回りか左回りか? わからなかったらさっそく回してください。大抵の扇風機は、右回りに羽が回っている。
 理由が分からなかったので、いくつかのメーカーに尋ねてみたところ、どこからも同じような答えが返ってきた。
「特に理由はありません」
 こういうことだ。そもそも、モーターの回転で「正回転」といわれているものが右回転なのだ。だから、換気扇も船のスクリューも右に回るのがふつうだ。もちろん逆回転の扇風機を作ることも可能だが、そうなるとそれに付随して他の部品も作り替える必要があり、何のメリットも生まれてこない。
 では、モーターの正回転はなぜ右回りなのか?
「時計の回転の方向を踏襲したのでしょう」
 というお返事をいただいたが、詳しいことは分からないそうだ。

◆「Tomorrow is another day.」
 という台詞で終わる有名な映画をご存じだろうか? そう、『風と共に去りぬ』だ。この台詞は、日本語の字幕では、
「明日は明日の風が吹くわ」
 となっている。なかなかの名訳だと思う。

■ 『風と共に去りぬ』 ■
原題は、『Gone with the Wind』。作者は、マーガレット・ミッチェル(1900〜1949)。南北戦争を舞台に、南部の大農場主の娘、スカーレット・オハラの愛の遍歴を描いたもの。1936年に発刊。出版後1年で、150万部という空前のベストセラーとなり、ピューリッツァー賞を受賞している。映画化した監督は、ビクター・フレミング。主演は、ビビアン・リー(1913〜1967)とクラーク・ゲーブル(1901〜1960)。完成は、1939年。日本での公開は、「時局に合わない」ということで、戦後の1952年となった。アカデミー賞の10部門を獲得している。

◆『風と共に去りぬ』の続編『スカーレット』も大ベストセラーになっている。これを書いたのは、アレクサンドラ・リプリー。
◆ミッチェルは、1949年交通事故で死亡している。彼女の書いた小説は『風と共に去りぬ』のみだと思われていたが、最近になって未発表小説が発見され、ラブレター・写真などとまとめて出版されている。タイトルは、『ロスト・レイセン』。日本でも、森瑶子(1940〜1993)が翻訳したものが出版されている。

◆「万物は地・水・火・風の4つの元素からなり、愛や憎しみによって結合・分離する」
 と説いたのは、古代ギリシャの哲学者、エンペドクレス(BC493ごろ〜BC433ごろ)。どうも他の3つに比べて、風は「軽い」気がするのだが……。

◆その昔、鍛冶屋さんは「鞴」と呼ばれる送風器を使っていた。手動式の差し鞴や、足で踏んで使う踏み鞴がある。
 では、「手風琴」って何かわかるだろうか? 「手」で「風」を送る鞴のような楽器なんだけど……。そうそう、アコ−ディオンだ!
 次に、「風鎮」をご存じだろうか? 紙が風で飛ばないように押さえる重し? あれは「文鎮」。掛け軸の下の軸の両端に、重しが吊してあるでしょう。あれが、風鎮。
 もう一つ、「松風」とは? 茶道の用語で、釜の湯の煮えたぎる音を「松風」というのだそうだ。

◆「どっどど どどうど どどうど どどう 青いくるみも吹き飛ばせ……」
で始まるのは、宮沢賢治の『風の又三郎』。主人公、又三郎の本名は、高田三郎。
「風の又三郎」は東北地方の妖怪で、新潟県などの「風の三郎様」とともに、風の神としてまつられる。

◆日本史の教科書に載っていそうな、「風」をもうすこし探してみよう。
 まずは、『懐風藻』。現存する日本最古の漢詩集で、編者未詳。天平勝宝3年(751年)に成立。120偏の漢詩が、作者・年代別に収められている。
『風神雷神図屏風』は、都の建仁寺にある。作者は、江戸初期の画家、俵屋宗達(生没年未詳)。
『赤富士』は、葛飾北斎(1760〜1849)の『富嶽三十六景』の中の一作品。えっ、風に関係がないって? いえいえ、この絵の正式な名称は『凱風快晴』。「凱風」とは、南からのやわらいだ風のこと。
 さらに、アニメ『いなかっぺ大将』の主人公は、風大左ェ門。彼のライバルは、西一。西一には、西二という名前の弟がいたなぁ。おっと、こんなの教科書に載ってないぞ。

◆「逆風」は向かい風、「順風」は追い風。
 衣服にたきしめた香(こう)のかおりを吹き送る風のことも「追い風」という。とても美しいな言葉だ。また、「追い風に乗る」なんて言葉もあって、どちらかというと、向かい風よりも追い風の方が人気が高いと思うのだが、飛行機の離着陸によいのは向い風だ。
 陸上競技には、記録が公認されない「追い風参考記録」というものがある。秒速2mを越える風が吹いた場合に適用される。せっかくいい記録が出ても、追い風参考記録になってしまうこともある。
 ホームランには追い風参考はない。だから、風をうまく利用することも大切になる。ちなみに、甲子園球場で有名な浜風はレフト方向から吹く。また、童謡『たきび』で有名な北風は「ぴいぷう」と吹く。

◆高層ビル街の路上で、スカートがまくれ上がるように風が吹き上がる現象は「モンロ−効果」。もちろんこの「モンロー」は、マリリン・モンロー(1926〜1962)のこと。

◆風によって、砂が砂丘の表面に描く模様は「風紋」。風紋に最も適しているのは、風速5〜6mの風。風が弱すぎると風紋は発生しなし、強すぎると風紋は壊れてしまうことになる。

◆風に色がついているわけがないのだが、「金風」といえば秋風のこと。「金」は、五行説で秋や西をさすからだ(→第二十九段)。

◆荊軻(?〜BC227)は、中国の戦国時代の刺客。
「風は蕭蕭として易水寒し、壮士ひとたび去ってまた還らず」
 と詠って、秦の始皇帝の暗殺に向かったが、失敗して殺された。

◆美しい月も雲がむらがってきて覆い隠してしまう、やっと咲いた花も風に散ってしまう――このような状況を、「月に叢雲、花に風」という。よい状況というのは長続きしないもので、とかく邪魔が入るという意味だ。しかし、そんな逆境に出会ってはじめて人の真価が問われるのかもしれない。このことを、「疾風に剄草を知る」という。

◆「風の便り」に聞いたのだが、卑劣な人は「風上におけない」そうな。


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