● 第七十三段 ● 完全数を見つけよう!
神は、6日間かけて世界を創造した。『旧約聖書』には、そう書かれてある。また、アウグスティヌス(354〜430)は、
「神は万物を6日の間に造り給うた。これは、この数が完全だからである」
と言っている。
彼の言う「完全」とは、こうだ。
6の約数は4個ある。これは、易しい。1、2、3、6だ。この中で、自分自身、つまり6をのぞいた約数を全て足してみると、
1+2+3=6
となり、6に戻った。この特徴を古代ギリシャの人々は大変不思議に思い、「完全数」と名付けて尊重していた。
6の次の完全数は、何か? これは、小学6年生への問題。7の場合、8の場合、9の場合……と、順番にやっていけばすぐに分かる。答えは、28。
28=1+2+4+7+14
となる。この28も、6と同様、古代ギリシャでは神聖な数とされていた。たとえば、月の運行が28日周期になっているのは、28が「完全な数」だからで、これは、神の周到な計画によるものだとされていた。
では、3番目の完全数は何か? これは、高校生への問題。さっきの問題が小学生向けで、今度が高校生向けなのは、それくらい見つけにくいからだ。
496=1+2+4+8+16+31+62+124+248
28の次が、496! だから、腕力で(一つ一つ順番に計算して)見つけるとなると大変だ。
4番目の完全数は、8128。こうなると、もうお手上げに近い。
8128=1+2+4+8+16+32+64+127+254+508+1016+2032+4064
アレクサンドリアのニコマコスは、長年の計算の結果、3番目、4番目の完全数を見つけて、
「善美なるものはまれにして指折り数え得るほどしかないが、醜悪なものは非常に豊富である」
と述べている。
さて、5番目の完全数は、中世に入ってから発見された。それは、33550336。
33550336=1+2+4+8+16+32+64+128+254+1012+2048+4096+8191+16382+32764+
65528+131056+262112+524224+1048448+2096896+4193792+8387584+16775168
さあ、6番目の完全数は、みなさんへの問題。コンピュータを使ってでもいいから、やってみよう。
【メモ】
◆19世紀末までに、12個の完全数が発見されている。もちろん、コンピュータなどはない時代のことだ。
◆25番目の完全数は、1987年11月に発見された。アメリカの2人の高校生、ローラ・ニッケルとカート・ノルの2人は、大型コンピュータを1週間使って、この数に到達した。なんと、13066桁の数だった。
◆偶数の完全数を作り出す方法は、ギリシャ時代に考え出されていた。
n n+1
2 ×(2 −1) (nは、自然数)
n+1
(2 −1)が素数なら、上記の式で表される数はすべて完全数になる。これは、ユークリッドが証明している。nに1、2、3、4を代入してみよう。
2^1×(2^2−1)=2×3=6
2^2×(2^3−1)=4×7=28
2^3×(2^4−1)=8×15 → 15は、素数でないから無効。
2^4×(2^5−1)=16×31=496
しかし、奇数の完全数が存在するかどうかは、現在でもわかっていない。
◆最初の『旧約聖書』は、ヘブライ語で書かれていた。
◆■ アウグスティヌス ■
354〜430。異教よりキリスト教に回心(えしん)した教父。当時の混迷する西ヨーロッパで、カトリック教義の確立に尽くす。著書『神の国』では、教会と信仰の最後の勝利を主張し、教会の権威を確立した。『告白論』は、彼の自伝。放逸の生活からマニ教を経て、キリスト教にたどりつくまでの記録だ。
◆1797年頃、ハイドンは、『天地創造』というオラトリオを作曲している。歌詞は、ミルトンの叙事詩『失楽園』に基づいている。この『天地創造』は、世界の三大オラトリオの1つとされている。あとの2つは、メンデルスゾーンの『エリヤ』とヘンデルの『メサイヤ』。
◆■ オラトリオ ■
17世紀に発展した、独唱・合唱・管弦楽を用いた大規模な宗教的劇音楽の形式。聖譚曲(せいたんきょく)ともいう。聖書の物語や聖人の伝説などを題材にとっている。
◆「アラジン」というバンドがあった。ヒット曲に、『完全無欠のロックン・ローラー』がある。
◆野球の世界には、「完全試合」というのがある。これは、ノーヒット・ノーランとは少し異なる。完全試合は、相手チームにまったく出塁を許さずに勝った試合。つまり、無安打、無得点、無四死球、無失策が必要となる。これに対し、ノーヒット・ノーランは、相手チームに1安打も与えずに勝つこと。無安打、無得点ということだ。だから、フォアボールで出たランナーくらいはかまわない。
◆ボーリングで、パーフェクトゲームといえば、ストライクを12回続けて出すこと。倒したピンの数は全部で120本なのだが、得点は300点ちょうどになる。
◆昆虫の成長で、卵→幼虫→さなぎ→成虫という4つの段階があるのは、「完全変態」。さなぎの過程がない場合は、「不完全変態」。
◆ポーランド生まれの女性科学者マリー・キュリーは、言っている。
「純粋な科学には、完全な自由が必要である」
◆「完全」を英語で、perfection。これが短くなると、「パフェ」。そう、チョコレート・パフェの「パフェ」は、これだ。【参考文献】
・数学のことが分かる辞典 江藤邦彦 日本実業出版社