● 第七十二段 ● 氷山とアルキメデス
税金を国や国民のために使わないで、自分たちのものにしている事件がよく報道される。聞くたびに、腹が立つ。そういう体質は、「国家」というものが形成されてから、ずっと変わらず伝統として受け継がれているような気がする。いつになったら、改善されるのやら……。
「報道されているのは、氷山の一角だな。同じ様なことをして、見つかっていない奴らがたくさんいるに違いない。」
「その通り。海面に顔を出している氷山は、氷山全体のほんの一部なんだ。」
と、稲田君。ちょっと話のピントがずれていたが、興味があったので、彼にたずねてみる気になった。
「どれくらいなんだ?」
「何が?」
「氷山の一角だよ」
「ああ、それは、アルキメデスの原理で計算ができる。つまり……」
「ちょっと、待った!」
と、彼が説明を始めようとするのを止めた。今回は自分でやってみよう。
■ アルキメデスの原理 ■
流体中の物体は、その物体が押しのけている流体の重さに等しい大きさの浮力を、重力と反対の向きに受ける。
F=ρV F:浮力の大きさ
ρ:液体の密度
V:液体中にある物質の体積
海水の密度は、約1.03g/cm^3。密度がこの値よりも小さい物体は、海水に浮く。大きければ沈む。氷の密度は、約0.92g/cm^3。だから、氷山は、海水に浮いて当然だ。しかし、顔を出しているのは、その一部分。どれくらい顔を出すのか。それをアルキメデスは教えてくれている。
では、計算してみよう。
氷山全体
の体積V /\
__________/ ,、\_________海水面
/ F‖ \
/ ‖ \
\ W| /
\ ↓ / 海面下にある氷山の体積V1
\ /
\/
氷山全体の体積をV、海面より下にある氷山の体積をV1とする。
まずは、氷山の重さWをVを使って表してみよう。
W=0.92×V
次に、浮力FをV1を使って表してみる。
F=1.03×V1
さて、浮力と氷山の重さはつりあっているわけだから、
F=W
1.03×V1=0.92×V
V1 0.92
――=―――=0.8932038……
V 1.03
なるほど。海面より下にある氷山は、全体の約9割。残りの約1割だけが、海面上にあるわけだ。
そうか、悪いことをしても、見つかるのは1割だけのなのか……。
【メモ】
◆アルキメデスは、BC287年、シチリア島のシラクサで生まれている。アレクサンドリアで勉強した後、帰郷。シラクサは、第2次ポエニ戦争では、カルタゴ側に属していたが、アルキメデスは自分の発明した投石機などを用い、祖国の防衛に努める。
◆BC212年、将軍マルケスが率いるローマ兵が乱入したとき、アルキメデスは地面に図を描いていた。兵士がそれを踏みつけたので、
「俺の円を乱すな!」
と言って、その兵士に殺されたと伝えられている。享年75歳。
◆「地面に図を描くなんて……」
と、思われるかもしれないが、当時は、ほこりを払った地面や砂をまいた床を、黒板の代わりに使用していた。
また、当時は、風呂あがりにオリーブ油を体に塗る習慣があったのだが、アルキメデスは、油を塗ったあとの皮膚に、指で図を描いて研究をしたという。
◆てこの原理を解明したのも、アルキメデス。
「われに足場を与えよ。されば地球を動かさん。」
は、有名な言葉。シラクサの王ヒエロン2世は、
「地球の代わりに何か大きくて重い物を動かしてみせよ。」
と命令した。アルキメデスは、複滑車を作って、荷物を満載した船を港から岸に上げたという。このとき彼は、いすに座って、片手しか使わなかったそうだ。
◆有名な浮力の発見にも、シラクサの王ヒエロンは関係している。ヒエロンは、金の王冠を見て、金細工師が金の代わりに銀を混ぜて使っているのではないかと疑った。自分ではどうしようもない王が、アルキメデスに検査を依頼したのだ。
◆アルキメデスは、湯をいっぱいに張った風呂に入ったとき、自分の体積と同じだけの湯があふれ出すことに気づいた。「アルキメデスの原理」のヒントをつかんだ彼は、裸のままで、
「ユウレカ、ユウレカ(見つけた、見つけた)」
と叫びながら、街を走った。
こうして彼は、王冠の比重を求めて、銀が混ぜられていることを見破った。
◆彼はまた、円周率を求める努力もしている。円に内接する九十六角形と、外接する九十六角形を使って、
220 223
――>π>――
70 71
を求めている。
◆球の体積は、その球の直径と等しい高さの外接円柱の体積の3分の2である。これも、アルキメデスが証明した。
◆彼の死後約150年後、ローマの雄弁家キケロが、アルキメデスの墓を発見した。そこには、球と円柱の図が描かれていたという。
◆『仮面ライダー』に、アリの改造人間が登場したことがある。その名も、「アリキメデス」。
◆「氷山の一角」ということで、「イッカク」についても少しだけ調べた。
■ イッカク ■
ハクジラの一種。北極海、特にシベリア側に分布している。体長は約5m。メスはその半分くらいの大きさ。オスの頭に1本の長い角がある。だから「一角」と呼ばれているのだが、これは、実は、歯だ。
◆1画の漢字も調べてみた。常用漢字1945字のうち、1画の漢字が2つだけある。「一」と「乙」。
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