★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第七十五段 ●  時計に関する右、左

 まずは、時計の針。時計の針は、なぜ右に回るのか?
 これは、しばらく考えていれば、なんとなく答はわかってくる。日時計だ。
 北半球では、日の出から日の入りまで、影は右回りに動く。それを踏襲しているのだ。もちろん、南半球では影は左回りに動くのだが、針のある時計が発明された頃の地球は、「北半球中心に回っていた」ので、右回りが採用されたわけだ。解決。
 次は、腕時計。腕時計は左腕にはめることが多いが、これはいかなるわけか? 実際にやってみれば、理由が分かるかもしれない。さっそく、実験を行なった。
 はじめから困ってしまった。はめにくい! 右利きの人が、右腕に腕時計をするのは非常に辛い。これが、理由なのかな? でも、やってやれないことではない。はめてしまえば、ちゃんと時間を読むことができる。アナログにしろ、デジタルにしろ、関係ない。文字が逆さまになることもない。何にも困らないぞ!
 腕時計を右腕にしたまま、腕組みをして考えた。分かった、竜頭(りゅうず)だ! 左腕用の腕時計は、時間を合わせたりするためのつまみやボタンが、文字盤の右側についている。これを間違って、右腕にはめたら、操作がむずかしくなってしまう。
 まとめると、こうなる。

  (1)右利きの人が、右腕にはめるのは難しい。
  (2)竜頭が右側にある。

 ここまで考えたところで、稲田君に以上の話をした。
「時計の針が右に回る理由は、それでいいと思うよ。僕も何かの本で呼んだことがある。でも、腕時計がなぜ左腕用に作られているかについては、何だか弱い気がするなぁ」
「どこが?」
「だって、竜頭なんてどちら側にでもつけられるはずだからね。竜頭が右側だから左腕用なのじゃなくて、左腕用にするために、竜頭が右側につけられているのだと思うよ」
「なるほど」
 いわれてみれば、確かに竜頭の件はおかしい。しかし、これ以上新たな理由は思い浮かばなかった。
 数日後、彼は、別の理由を持ってやって来た。要約すると、こんな話だ。
 腕時計が初めて作られたのは、17世紀。しかし、社会に出回り始めたのは、1920年代になってからのこと。売り出すまでにこんなに時間がかかったのは、腕時計の小さな部品を作るのに高いコストがかかったからだ。しかも、初期の腕時計は、とにかく壊れやすかった。デリケートな部品が多かったせいだ。そこで、メーカーは考えた。
「腕時計は、左腕にはめるものだ!」
 多くの人は右利きだから、左腕専用にすることで、乱暴に扱われることが少なくなるだろうという狙いだ。これが、「腕時計左腕の法則」の由来。
 最近の腕時計は、壊れることは少なくなった。しかし、それでも腕時計は、頑固に左の手首にしがみついている。


【メモ】

◆腕時計は昔に比べて丈夫になった。ということは、右腕用の腕時計が既に製造販売されているかもしれない。

◆左回りの時計を見たことがある。場所は、理髪店。鏡に映った時計が、普通に読めるように設計されていた。振り返って見たら、確かに逆だった。

◆北極の上空から地球を見ると、地球は左に回っている。

◆レコード盤は、右回り。CDは、内側から左回り。

◆中国料理のマナーでは、料理を乗せた回転式のテーブルを回す方向は、右回り。

◆お酒の好きな人のことを「左利き」とか「左党(さとう)」とかいうが、これは、鉱山で働く人々が、右手に槌(つち)、左手に鑿(のみ)を持っていたというところから生まれた言葉だ。左手は、鑿手。つまり、飲み手だ。

◆『私の彼は左きき』は、麻丘めぐみのヒット曲。

◆弟の山幸彦は、兄の海幸彦に釣り針を借りて漁に出かけたが、なくしてしまう。何度謝っても兄は許してくれないので、彼は海へ針を探しに行くことにする。そこで、海神の娘と出会い、結婚し、さらに釣り針と奇跡を起こすという玉を得て、兄を懲らしめたという『海幸山幸』のお話。

◆山幸彦がなくした釣り針は、タイの喉にひっかかっていた。

◆山幸彦が、海神の宮殿から戻ったとき上陸したのが、宮崎県の青島。島の中央には、山幸彦を祭る青島神社がある。ここでは、毎年1月15日、伝説にちなんで裸で海に入り神を迎える「裸詣り」の行事が行われる。

◆ミシンに使う針には番号がついているが、一般に番号が大きくなると針は太くなる。

◆戦時中には「千人針」の習慣があった。1枚のさらし布に、赤い糸で千人の女性が一針ずつ縫い玉をつけたものだ。弾丸除けになるとされていて、特に寅年生まれの女性に千人針を縫ってもらうと出征兵士が帰還するといわれた。「虎は千里往って千里還る」といわれているからだ。

◆「待ち針」とは、よくいったものだ。布がずれないようううに、針仕事が完了するまで待っていてくれる。

◆お世話になった針を供養する「針供養」が行われるのは、2月8日と12月8日。

◆上辺は優しそうにみえるが、実は相当に意地が悪い。こういう人は、「真綿に針を包」んでいる。遠まわしに、じわりじわりと攻めるときにも真綿は使われる。この場合は、「真綿で首を締める」という。

◆建築基準法では、原則として20mを越える建築物には、避雷針を設けなくてはならないと定められている。

◆避雷針で保護されるのは、突針を頂点とする頂角60°の円すいの中。

◆奈良県都祁(つげ)村には、「針」という地名がある。

◆針の木峠は、日本一高いところにある峠だ。富山県と長野県の境にある。

◆漢字で「針魚」と書くと、サヨリ。下あごが針のように細長く伸びているからだ。「細魚」とも書かれる。

◆西洋では「悪魔の縫い針」「空飛ぶ毒蛇」などと呼ばれる昆虫がいる。これは、トンボのこと。

◆これっぽっちのことを大げさに言うのは、「針小棒大」。


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