★雑木話★
ぞうきばなし

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  ・ 第八十四段の二 ・  モンテカルロでπ
   (この段は、第八十四段の一からの続きです)

 バチカン市国に次いで小さい国が、モナコ公国
「モナコ」というのは、ヘラクレスの神殿であるモノイコスがこの地にまつられたという言い伝えによる。
 この国も、小さいながら、特徴の多い国だ。いや、小さいにもかかわらず、国の形体をとっているからこそ、特徴が多いのかもしれない。
 面積は、1.95km^2。この狭い土地に、約31000人が暮らしているのだから、人口密度は、約15900人/km^2。世界で最も人口密度が高い国の一つである。
 国が位置するのは、ヨーロッパ南部。地中海のコート・ダジュールに面したリゾート地だ。年間約400万人が訪れる観光国で、F1フランプリが行われたり、国営のカジノがあることで有名だ。
 国内は、モナコ市、ラ・コンダミーヌ地区、モンテカルロ地区、フォンビエイユ地区の4地区に分けられている。
 首都であるモナコ市は、その大部分が地中海に突き出た岬の上にあり、13世紀の要塞の跡に王宮が建てられている。また、政庁、裁判所、ビザンティン様式の聖堂、海洋博物館などが集まり、モナコの行政の中心になっている。
 モナコ湾を隔てた対岸にあるのが、モンテカルロ地区。ここには、国営のカジノや豪華なホテル、別荘などが建ち並び、一大娯楽・観光・保養地となっている。F11のモナコ・グランプリが行われるのも、モンテ・カルロだ。
 そうだ、モンテ・カルロで思い出した。

■ モンテカルロ法 ■
 偶然現象に対する統計的利用法。乱数や物理的なランダム・メカニズムを使った実験によって数学的な問題の近似値を得る方法。ルーレットやダイスの技術に類似性を持つことから、カジノで知られるモンテカルロにかけたといわれる。1940年代の中ごろ、コンピュータの生みの親であるフォン・ノイマンらが行なったのが最初で、命名も彼らによるとされている。

 ここに、半径1mの円がすっぽりと納まる1辺2mの正方形の板があるとする。この板に向かってでたらめに弓矢を放っていくと、どれくらいの割合で円の中に当たるか――という問題。
 えっ、弓矢が板に当たらず、外れた場合はどうするかって? そのときは、やりなおすものとする。
 この実験は、偶然を利用して、正方形の面積と円の面積を比べていることになる。
 正方形の板に当たった弓矢の数をx本、そのうち円の中に当たった弓矢をy本としてみよう。y/xの値を計算することで、正方形の面積に対する円の面積の比の値がわかるから、ここから式を変形して、円周率πの近似値が求めら
れるのだ。

    y    π×1×1    π
   ――=―――――=――
    x     2×2      4

 だから、

       4y
   π=――
       x

 この例では、弓矢を放つという物理的な実験を行なっているが、これではたくさんの回数の実験を行なうのには超時間がかかってしまう。そこで、通常はコンピュータを使うことになる。コンピュータの方で多数の乱数を作り出して、「実験」するわけだ。
 しかし、このモンテカルロ法に精度のよい結果を期待してはいけない。たとえば、πの近似値を2桁の精度で求めるくらいなら、比較的簡単なことなのだが、6桁の精度、つまり3.14159くらいまで求めようとすると、これはもう大変。なんと、10億回の試行が必要になり、これは高速のコンピュータを使ってもほとんど不可能だ。
 ただし、だいたいの値がわかればいいということであれば、話は別。複雑な問題に対しても、威力を発揮する。
 さて、フランスの面積は55.2万km^2。モナコの面積は、フランスの比較にならないほど小さいのだが、それでもモンテカルロ法で求めることができるはず。この場合、弓矢を放つわけにはいかないから、どうしましょ?


【メモ】

◆モナコの経済基盤は、観光。最大の財源はモンテカルロ地区にあるカジノの収益だ。1962年に開設されたカジノの経営状態は思わしくなかったのだが、ドイツでカジノ経営に成功した人物を経営に迎え、新しいカジノを建設した。豪華な設備を持つこのカジノは、次第に国際的な社交・娯楽の場として名声を得ることになる。

◆モナコの立法権は、国王と普通選挙でえらばれる任期5年の議員18名からなる議会にある。しかし、議会は国王に助言を与えるにすぎず、決定権は国王にある。

◆行政は、国王の元で、国務相と3人の顧問官が行なう。しかし、国務相はフランスの推薦で決めるということになっている。

◆モナコの国王は、レーニエ3世。彼は、1956年にハリウッド女優のグレース・ケリーと結婚している。彼女は、1男2女をもうけたが、1982年、自動車事故で死去した。

◆男の子がいてよかった。モナコという国は、男子の王位継承者がいないと、フランスに併合されることになっているのだ。

◆ここで、モナコの歴史をごく簡単に。
 モナコは、1297年、ジェノバの名門グリマルディ家によって築かれた。フランス革命下の1793年には、フランスに没収・併合されたが、1861年、フランスの保護下で独立し、公国となった。1911年、アルベール1世によって憲法が制
定され、1962年にはより民主的なものに改められた。1993年には国連に加盟している。

◆馬具商からスタートしたという海外有名ブランドメーカー「エルメス」のヒット作に「ケリー・バッグ」がある。グレース妃が愛用していたことから名付けられたバッグだ。

◆グレース・ケリーとレーニエ大公が知り合うきっかけとなったのは、ヒッチコック監督の映画『泥棒成金』。この映画のロケが、モナコで行われている。

◆モナコの国旗は、上半分が赤、下半分が白というデザインだ。これは、インドネシアの国旗と全く同じだ。ちなみに、モナコの国旗を180度回転させると、ポーランドの国旗になる。

◆「コート・ダジュール」とは、「紺碧海岸」という意味。フランスの南東部の地中海に臨む地域で、カンヌ、ニース、モナコを中心とする保養地がある。

◆マカオは、「東洋のモナコ」と呼ばれている。

◆モンテカルロ法が利用された化学に関連した問題の一例。
 (1) 原子物理学、特に原子炉の設計や臨界値の計算
 (2) 液体や気体中の粒子の運動の解析
 (3) 固体中へ液体が浸透する現象の解析

◆第七十六段で紹介する予定の「ビュフォンの針」も、モンテカルロ法の好例だ。

◆庄野真代の『飛んでイスタブール』という曲はかなりヒットしたが、それに続いて『モンテカルロで乾杯』という曲も発表されている。


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