★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第九十一段 ●  アザラシのショーが見たい!

 杉野君が、やってきた。

「この間、夏休みがとれたから、水族館に行ってきたんです。そしたら、アザラシのショーをやっていましてね……」
「ああ、台の上で拍手したり、投げたボールを鼻先でキャッチしたりするやつだね」
「はい、あれは、いつ見ても、大人が見ても楽しいですね」
「ちょっと待ってよ、アザラシって言った? オットセイじゃなくって?」
「あれ、どうだったかな? アシカだったかもしれない」
「しっかりしてよ。どうだったの?」
「だって、あのあたりの動物って、区別がむずかしいじゃないですか。トドやセイウチじゃなかったことは確実なんですけどね……」
「稲田君に聞いてみようか。彼なら詳しそうだし……。そうだ、その水族館に電話してみようよ」
「何もそこまでしなくても……。百科事典か何かで調べてみたら、違いが分かるんじゃないですか。その方が勉強にもなるし……」
「よし調べてみよう」

■ 鰭脚類(ききゃくるい) ■
四肢が鰭(ひれ)のようになっている食肉類。アシカ科、アザラシ科、セイウチ科の3科に分類される。アシカ科とセイウチ科は、共にイヌの祖先種から進
化したと考えられ、アザラシ科はカワウソの祖先種から進化したと考えられている。

 どうやらアシカもアザラシもオットセイもトドもセイウチも、すべて鰭脚類の仲間だ。
「セイウチは、牙が生えているからすぐに区別できるますね。アシカ科とアザラシ科は、どこがどうちがうんですか?」
 杉野君は、せかせかして困る。
「泳ぎ方が違うようだよ。アシカは、前足でオールのように水をかいて泳ぐんだ。後ろ足は、ほとんど動かさず舵取りのように使うそうだ。アザラシは逆で、後ろ足を櫓(ろ)のように左右にくねらせて泳ぐんだ。前足が、舵取りの役目だよ」
「アザラシの方が、魚に近い泳ぎ方をするんですね。でも、それじゃあ、泳ぐ様子を見ないことには区別ができませんね。もっとあっさりとわからないのかな?」
「歩き方が違うみたいだ。アシカは、上半身を起こしてヨチヨチ歩くんだ。アザラシは、歩くなんてできない。足で体を支えることができないから、背中を丸めたり伸ばしたりして前進するんだ」
「シャクトリムシみたいに?」
「そうそう」
「なるほど。じゃあ、僕が見たのは、アシカのショーだ!」
「もっとすばやい区別のしかたがあるよ!」
「どうするんですか?」
「後ろ足の付き方がまったく違うんだ。アシカは、後ろ足が前に向かって折れているんだ。アザラシの後ろ足は、後ろに向かって生えているんだ。」
と、杉野君に図鑑を見せた。
「なんだ、全然違うんじゃない。この足の付き方では、アザラシは、上半身を支えることができそうにないですね」
「そう、アザラシのショーは、ありえないということだね」
「それで、オットセイとトドはどうなったのですか?」
「おっと……」


【メモ】

◆耳たぶの有無で、アシカ科とアザラシ科を区別することもできる。
 ここでいう「耳たぶ」とは、正確には耳殻とか耳介とかよばれる部分で、人間でいえば頭の横に飛び出している集音装置の部分だ。人間のような耳があっては泳ぐのに邪魔になるので、どんどん小さくなってしまい、アシカ科にはもうしわけ程度についているくらいだ。そして、アザラシ科になると、耳たぶがなくなってしまった。

◆要は、泳ぐという機能のために、体が寸胴になり、耳殻が小さくなり(あるいはなくなり)、足はひれのようになってしまったのが、鰭脚類なのだ。

◆アシカは、漢字で「海驢」、英語でsea lion。

◆アザラシは、漢字で「海豹」、英語で、seal。アザラシは、北極にも南極にも生息している。

◆オットセイは、漢字で「膃肭臍」。
 本来の名前は「オットツ」で、オットセイの臍(へそ)を薬としたことから、このように書かれる。英語では、fur seal(毛皮アザラシ)なんだけど、アシカ科に属している。
 オットセイとアシカとの区別は、本当にむずかしい。強いていうなら、毛皮が違う。オットセイの体の毛は、下毛(綿毛)があって、毛皮としてはよいも
のだ。アシカは、体の毛が粗く、綿毛がない。

◆トドも、アシカ科。とても大きなアシカと考えてください。

◆後ろ足の付き方から考えると、オットセイやトドのショーは、あるかもしれない。

◆セイウチは、漢字で「海象」。英語では、walrus。
 実は、セイウチ科の動物は、セイウチしかいない。後ろ足が前方を向いているのはアシカの仲間に似ているが、耳たぶがないところはアザラシの仲間に似
ている。特徴の牙で、砂を掘り起こし、貝などの軟体動物を食べる。

◆日本で唯一繁殖している鰭脚類は、ゼニガタアザラシ。北海道の岩礁帯だけに生息している。

◆アザラシ科には、19種が存在する。ゼニガタのほかに、タテゴト、アゴヒゲ、ゾウ、ゴマフなど。

◆最大のアザラシは、ゾウアザラシ。雄は体長 5〜6.5m にもなる。成長した雄には、長く伸びた鼻袋がある。だから、「ゾウ」アザラシ。北米西岸に住む
キタゾウアザラシと南氷洋の島々に住むミナミゾウアザラシがいる。

◆「とどのつまり」のトドは、鰭脚類のトドではない。出世魚のボラが、最も成長した段階を「トド」というのだ。

◆ボートを漕ぐのに使われる道具は、オール。カヌーを漕ぐのは、パドル。日本語で言えば、「櫂(かい)」

◆ボート競技の「エイト」で使われるオールの数は、1艇につき8本。
 しかし、乗っている人数は、1艇につき9人。ボートを漕ぐ人が、8人。あとの1人は「コックス」と呼ばれ、漕ぐ人に指示を出すのが役目だ。

◆ボート競技で、オールを両手で1本持つものを「ローイング」というのに対し、両手にオールを1本ずつ持つものを「スカル」という。

◆英和事典で、「オール oar」を調べたら、櫂も櫓も oar だった。区別していないんだ。いい加減な!

◆「櫓(ろ)」は、「やぐら」とも読む。両者は、まったく違うじゃないか。納得がいかない。

◆「櫂は三年、櫓は三月」。櫂の使い方は、櫓に比べて12倍むずかしいということだ。


【参考文献】
  ・動物の図鑑  小学館


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