「やったー! 見つけたぞ!」
と思っても、よくよく調べたらやはり違っていた――なんてことがある。こういうのを糠喜びというのだが、ガドリンやマリニャックの発見も、糠喜びにあたるのかもしれない。今回は、新元素の発見のお話。スウェーデンのストックホルムの近郊に、イッテルビー(Ytterby)という町がある。1787年、鉱物が大好きだった(これがほんとの「大鉱物」?)スウェーデンの陸軍中尉カール・アレニウスが、ここで黒い鉱石を採取する。それが、フィンランドのガドリンの手に渡り、1794年、彼はその鉱物から新しい酸化物を発見した。
この酸化物は、産地の名前にちなんで「イッテルビア」と呼ばれていたが、後に「イットリウム(yttrium)の酸化物」という意味の「イットリア」と呼ばれるようになった。つまり、ガドリンは、新しい元素イットリウムを発見したつもりだったのだ。
発見から50年以上たった1843年、スウェーデンのモサンデルは、イットリアを3つの成分に分けることに成功、イットリア、テルビア、エルビアと名付けた。何のことはない、村の名前「イッテルビー」を3つに分解して名前にしたのだ。3つ揃うと「イッテルビー」が現れるという仕掛けだ。いいネーミングだと思う。「小岩井農場」のネーミングの逆パターンだ。
さて、イットリアから得られた元素には、旧名のイットリウムが与えられ、あとの2つから得られた2つの元素には、それぞれテルビウム(terbium)、エルビウム(erbium)の名がつけられた。
話は、まだ続く。1878年、スイスのマリニャックは、エルビアから4つ目の新元素を発見した。で、新元素の名前だが、発見者の名前から「マリニャッキウム」でもよかったのだけど、彼はそうしなかった。やはり、地名から命名することにこだわった。しかし、「イットリウム」という名前も、「テルビウム」も「エルビウム」も既に使われている。仕方がないので、この元素には、ズバリ、「イッテルビウム(ytterbium)」と名が与えられた。
だが、実は、イッテルビウムも単一の元素ではなかった。1907年、フランスのユルバンは、イッテルビウムが2つの元素からなることを発見した。そのうちの一つの名前は、そのまま「イッテルビウム」。もう一つは、さすがにイッテルビー町関連の名前は付けられなかった。ユルバンの生地であるパリの古称「ルテチア」から「ルテチウム」と名付けられたのだった。
話が、こんがらがってきたので、最後にまとめておこう。こういうことだ。1794
イッテルビア→イットリア(イットリウムの酸化物)
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| 1843
+―――イットリア → イットリウム
+―――テルビア → テルビウム
+―――エルビア → エルビウム
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| 1878
+――――イッテルビウム
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| 1907
+―――イッテルビウム
+―――ルテチウム
【メモ】
◆登場した元素の原子番号、元素記号、原子量を紹介しておこう。
39 Y イットリウム 原子量 88.91
65 Tb テルビウム 原子量 158.93
68 Er エルビウム 原子量 167.26
70 Yb イッテルビウム 原子量 173.04
71 Lu ルテチウム 原子量 174.97
◆オーストリアのウェルスバッハも、ユルバンとほぼ同時期に、ルテチウムを発見している。彼が付けた元素名は、「カシオペイニウム」。自分の名前の頭文字「W」とカシオペア座の形をかけたのだろう。
◆ポパイの大好物は、ホウレンソウ。彼の友人のウィンピーは、ハンバーガーが大好物。
◆『ドラえもん』の大好物は、ドラ焼き。
『マジカルタルるート』のタルルるートが好きなのは、タコ焼き。
◆『キン肉マン』の好物は、牛丼。
『おばけのQ太郎』に登場する小池さんは、ラーメンが大好きで、いつもラーメンを食べている。シャ乱Qのアルバムの中には、『ラーメン大好き小池さん』という歌がある。1991年のNHK−BSヤングバトル全国大会でグランプリを受賞した歌だ。
◆パディントンといえば、マイケル・ボンド作の小説の主人公。ペルーからロンドンにやって来て、ブラウン一家に引き取られたクマだ。好物は、マーマレード。
◆ミルンが生み出した童話の主人公『くまのプーさん』の大好物は、ハチミツ。
プーさんは、木の上のハチミツを取るため、ハチに見つからないように、青色の風船を使った。空の色と区別がつかないだろうと考えたのだ。
◆カイル・マクラクランは、ドラマ『ツイン・ピークス』の中で、FBIのクーパー捜査官を演じているが、その捜査官の大好物が、チェリーパイ。
『ツイン・ピークス』のブームで、日本でもOLの間で人気が高まった。
◆「娘さんよく聞〜けよ」の『山男の歌』の中で、山男の好物は、山の便りと飯盒(はんごう)の飯。
◆ナポレオンが大好物のチーズは、カマンベール。彼は、その匂いをかいだだけで、
「おお、ジョセフィーヌ……」
と言ったとそうだ。
◆鈴木梅太郎(1874〜1943)は、米糠からオリザニン(ビタミンB1)を抽出した。
◆糠と米を長時間混合し、糠油を米にしみこませたもの「どうづき米」という。
◆たけのこをゆでるときには、糠を入れるとよいとされる。
◆苦労をともにしてきた妻のことを「糟糠(そうこう)の妻」というが、原典の『後漢書』には、「糟糠の妻は、堂より下さず」と書かれてある。
◆歌の下手な人が歌を歌うと、「糠味噌が腐る」といわれている。しかし、糠味噌が腐るほどの歌には、なかなかお耳にかかれない。【参考文献】
・元素を知る 吉村勝夫 (丸善)
・世界大百科事典 (平凡社)