★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第九十六段 ●  口を揃えましょう!

「今日、面白い問題を教えてもらったんです」
 杉野君が、紙と鉛筆を持ってやってきた。
「へぇ、どんな問題?」
「漢字の問題なんですけどね、『口(くち)』って字に、あと2画書き足して、別の漢字を作るんです」
「ああ、その問題なら知っているよ」
「なんだ、知ってるんですか」
「でも、徹底的にやったことはないから、今日は一つ徹底的にやってみようか」
「じゃあ、僕がまず口火を切りましょう。最初は、『田』ってのはどうですか」
「いいね。確かに2画増えている。その字を上に突き抜ければ『由』、下に突き抜ければ『甲』、両方とも突き抜けたら『申』だね」
 杉野君は、「田」「由」「甲」「申」をメモした。
「次に思いついたのは、『元旦』の『旦』でした」
「『日』の下に横棒を引いたんだね。だったら、『日』の左に縦棒を引いて『旧』もできるね」
「次は、『目』『白』『四』『囚』が浮かびました」
「『囚』なんて、よく思いついたね」
「『口』の中に何か入らないか考えてたら、出てきたんです」
「この問題を考えるより、頭のどこをどんなふうに使って、こんな漢字が出てくるのか、そのことの方が面白いね。で、次は?」
「次は、『口』のまわりに2画をつけることを考えたんです。何か思いつきますか?」
「う〜ん、『右』とか『石』とか……。ちょっと時間をくれよ」
「いいですよ」
 思いつくままに、紙にメモしていった。

   田 由 甲 申 旦 旧 目 白 四 囚
   右 石 兄 史 古 占 台 只 叶 叩

「どうだ! これで20個だよ」
「『叶』『叩』なんて、よく出てきましたね」
「きっとまだあるんだろうね」
「あります、あります。たとえば‥‥」
「口をはさむようで悪いんだけど、ちょっと待ってくれ。口惜しいから、ここから先は、口を閉ざしていただきたい」
「自分で考えるから、口出し無用ってことですね。じゃあ、口が裂けても言いません」


【メモ】

◆ほかにどんな漢字があるのか、しばらく考えてほしい。答は最後に発表するから、そんなに口を尖らせないで……。

◆「口火」は、火縄銃や爆薬などの点火に使う火のこと。

◆人から人へと話が伝えられることを「口コミ」というが、これは「マスコミ」をもじりだ。

◆しゃべることも、することも極めて達者だというのを、「口八丁、手八丁」。苦しいときは、「胸突き八丁」。

◆口の中でブツブツとつぶやく様子を、「蟹の念仏」という。ただし、何度も繰り返していると、「口が酸っぱくなる」から注意。

◆激しい調子で議論する様子を、「口角泡を飛ばす」という。ちょっときたないなと思う。

◆ A GOOD MEDICINE TASTES BITTER. 「良薬口に苦し」だ。

◆巫女(みこ)の口を通して、霊魂の心意を聞くことを、「口寄せ」という。「いたこ」の口寄せで知られるのは、青森県の恐山。

◆極めて危険な場所のことを、「虎の口(虎口 こくう)」という。『タイガーマスク』が修行していたのは、「虎の穴」。

◆相撲用語で、「虫めがね」といえば、序の口のこと。番付表の力士名が小さくて、虫めがねを使わないと読めないくらいだから。

◆京都府久世郡久御山町には、「一口」と表記する地名がある。これで、「いもあらい」と読む。

◆アラビア語で「魚の口」という意味を持つのは、みなみのうお座の1等星「フォーマルハウト」。秋の空には珍しい、1等星を持つ星座だ。みずがめ座に描かれている美少年ガニメデは水瓶を持っているのだが、この水瓶の水を受けているのが、みなみのうお座の口だ。

◆ウニの口(口器)は、「アリストテレスのちょうちん」と呼ばれる。

◆魚のタラ(鱈)は、口が大きく、歯が強いことから、「大口魚」とも表記される。

◆日本料理で、汁物に入れる香りのある野菜や香辛料を総称して、「吸い口」という。春なら木の芽、夏なら柚子(ゆず)など。

◆江戸時代、卸問屋などに奉公人を紹介していた人材斡旋業者を、「口入れ屋」という。

◆茶室の出入口を「躙(にじ)り口」という。高さ約67cm、幅64cmほどだから、人一人がやっと通れるほどの大きさだ。

◆陰暦10月の初め、新茶の壷を初めて開けることを、「口切り」という。

◆江戸時代、公衆浴場では、洗い場と浴槽との間に板戸があった。この板戸は、浴槽の前をシャットアウトし、湯が冷めるのを防ぐためのものだ。洗い場から浴槽へは、板戸の下をかがんで入らなければならない。この出入口のことを、「石榴(ざくろ)口」という。ザクロの実の酢を、鏡を磨くのに使ったことから、「鏡要(い)る」を「かがみ入る」にかけたしゃれだ。

◆クリーニング屋さんは、ワイシャツにアイロンをあてるとき、ふつう、袖口から取りかかる。

◆神社の駒犬で、口をあけているのはふつう向かって右。

◆平たい形の鈴を、「鰐(わに)口」という。社殿・仏殿の正面にぶら下がっていて、参拝するときに鳴らすあれだ。

◆口をとがらせてこっけいな顔をしているお面は、ひょっとこ。火吹き竹で火を吹くために、口をとがらせているとされる。「火男」の意味か。

◆日本の都道府県の中で、「口」という漢字が使われているのは、山口県ただ一つ。ほかに、人間の体の部分を表す漢字が使われているのは、岩手県の「手」。

◆都道府県の名前を漢字で書いたとき、画数が最もすくないのも、山口県。たったの6画だ。

◆班田収授の法にもとづき、満6歳以上の男女に一定の割合で与えられたのが、「口分田」。収穫の約3%を、田租(でんそ)として徴収された。

◆では、答えの発表。先の20個に続いて、

   可 句 号 司 叱 召 加

これで、27個。ふつうなら、ここまでだと思う。
 しかし、まだある。ここから先は、漢和辞典の世話になろう。総画索引の5画の漢字をかたっぱしから調べてみると‥‥。

   叮 叨 叭 叺

 ※「新字源」を見ると、さらにあと4つあったが、JISの第2水準に含まれていない漢字なので、ここで発表できない。残念。ぜひ、漢和辞典を見てください。

◆「叭」は、「喇叭(らっぱ)」の「ぱ」。


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