★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第百段 ●  100匹のマルムシ

 彼らは「マルムシ」と呼ばれていた。
 倒れた木の下、積もった落葉の下、床の下――日の当たらない、暗くじめじめした世界に彼らは住んでいる。大きな石をひっくり返すと、ぞろぞろとはい出して来る。上からツンとつつくと、丸くなる。それが「マルムシ」だ。
「それって、『ダンゴムシ』じゃないの?」
 と、稲田君。
「いや、少なくとも、うちの地方じゃ『マルムシ』と呼んでいたんだ。たぶん、『ダンゴムシ』が正しいと思うけど……」
 幼いころに呼んでいた名前だから、いまさら「ダンゴムシ」だと言われても、何だか違う気がしてならないのだ。
 小学校の4年生のころ、マルムシをちょうど100匹つかまえて、学校に持っていたことがある。箱をあけてみた先生は、一瞬ギョッとしたようだったが、
「マルムシはね、『ムシ』ってついているけど、『昆虫』じゃないんだよ」
 と、教えてくれた。どうやら、一般的な「ムシ」というものと、「昆虫」を区別してるようだった。
「どうして昆虫じゃないの?」
「昆虫にしては、足の数が多すぎるんだ。昆虫の足は、6本なんだ」
「じゃあ、クモは?」
「クモの足は?」
「8本」
「だから?」
「だから、昆虫じゃない」
「そう」

 ここで、昆虫の特徴をまとめておこう。
(1) 体が頭、胸、腹の3つの部分に分れている
 (2) 頭には、1対2本の触覚、目、口がある。
 (3) 胸には3対6本の足、2対4枚の羽がある。

 羽は4枚とはかぎらない。ハエやカは2枚しかないし、アリやノミには羽がない。しかし、昆虫だ。彼らの場合は、羽の枚数が減ってしまったと考えればよいだろう。基本的には、昆虫には羽が4枚あるのだ。
 さて、マルムシ、いや、ダンゴムシはというと、(3)に違反している。足はたくさんあるし、羽もない。したがって、昆虫ではない。

■ ダンゴムシ ■
オカダンゴムシ科の陸性の甲殻類。刺激を受けると体を球状に丸める。体長1〜1.5cm。体は小判のような形をしている。頭部、胸部、腹部に分れてはいるが、各部分の区別はつきにくい。胸部は、7つの体節からなり、7対14本の足を持っている。枯れ葉や石の下などに生息し、腐りかけの動植物を餌とする。全世界に分布している。

 甲殻類なのだ。カニやエビ、フナムシ、ミジンコなどと同じ仲間だ。
 甲殻類の多くは、水中で生活をして、エラで呼吸をしている。ダンゴムシは、体表でも呼吸できるようになって、陸に上がってきたということだ。しかし、やはり乾燥は得意ではないので、日の当たらない、暗くじめじめした世界に住むことになる。
 早く昆虫になりたい!?


【メモ】

◆ダンゴムシが100匹いたなら、その足は1400本もある。

◆女王アリには、羽がある。あるにはあるが、脱落する。あってもあのぼてぼてした体では飛べそうにない。

◆女房言葉で、「いしいし」といえば団子のこと。

◆イボダンゴ属タンゴウオ科の魚に、「コンペイトウ」がいる。イボ状の突起が体についていることから、菓子のこんぺいとうの名前が与えられた。

◆ミツバチが花粉を運ぶときには、花粉団子を後ろ足に作る。

◆バラなどのように、花粉が昆虫に運ばれることによって受粉する花のことを「虫媒花(ちゅうばいか)」という。

◆映画『スターウォーズ』に登場したサルのようなパイロットは、チューバッカ。

◆1985年、『演歌の虫』で、第93回直木賞を受賞したのは、山口洋子。

◆相撲用語で、「虫メガネ」といえば、序の口の位のこと。

◆胸焼けがするとき、口に逆流するすっぱい胃液のことを「虫酸(むしず)」という。

◆「蓼(たで)食う虫も好きずき」のタデは、ヤナギタデ。これは食べると辛い。そんな辛いタデでも食べる虫がいるということだ。。

◆おさまらないのは「腹の虫」。噛みつぶすのは「苦虫」。

◆蚊やハエなどの羽虫を打ち払う道具だから、「うちわ」。

◆コンピュータのプログラミングを修正することを「デバッグ」というが、もともとは「害虫駆除」という意味だ。

◆人気アニメ『妖怪人間ベム』の冒頭ナレーション。
「それは、いつ生まれたのか誰も知らない。暗い世界で、ひとつの細胞が別れて増えていき、3つの生き物が生まれた……」

◆「○○ムシ」といったって、昆虫とはかぎらないということは、わかっていただけたと思う。「虫」というのは、人、獣、魚、鳥、貝などを除く、小動物をさしているのだ。

◆クモには、足が8本ある。頭と胸の区別もはっきりしない。よって、昆虫ではない。

◆「虫」は、象形文字。大きな頭を持っているヘビの形だ。

◆では、虫へんの漢字のオンパレード!

  虻……アブ  蚯蚓……ミミズ  蚤……ノミ  蝿……ハエ
  蚕……カイコ  蚊……カ  蛆……ウジ  蛇……ヘビ
  蚫……アワビ  蛙……カエル  蛩……コオロギ  蛭……ヒル
  蛬……キリギリス  蛤……ハマグリ  蛯……エビ  蛾……ガ
  蜘蛛……クモ  蜆……シジミ  蜀……イモムシ  蛻……ぬけがら
  蜂……ハチ  蛹……さなぎ  蜊……アサリ  蚋……ブヨ
  蜥蜴……トカゲ  蜩……ヒグラシ  蝟……ハリネズミ  螺……ニナ
  蠍……サソリ  蝸……カタツムリ  蝗……イナゴ  虱……シラミ
  蝮……マムシ  蝙蝠……コウモリ  蛍……ホタル  螻……ケラ
  螳螂……カマキリ  蝉……セミ  蟹……カニ  蟻……アリ
    (同訓の異字、多数あり)

 う〜ん、何だか体がムズムズしてきた。

◆「虹」も、虫へんだ。どうしてかは、宿題。

◆蚊の幼虫は、「孑孑」。これで、「ボウフラ」と読む。

◆ハエ、カ、ダニなど、人間の健康を害するおそれのある害虫を特に「衛生害虫」という。

◆水虫の正式名称は、「汗疱状白癬(かんぼうじょうはくせん)」。白癬菌という菌が引き起こす、足の裏や縁、指の間にできやすい皮膚病だ。英語では「アスリート・フット」とも呼ばれる。

◆「水虫」は俳句の季語になっている。その季節は、もちろん夏。


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