★雑木話★
ぞうきばなし

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  ● 第百二十三段 ●  アルファでサヨナラ

 プロ野球では、9回の裏まで試合が行れるのが普通だ。しかし、ときには、9回裏のスリー・アウトを待たずに、勝敗が決まる場合がある。
 一つは、スコアが下のような場合。

   Sチーム|000 000 000| 0
   ――――+―――――――――――+――
   Tチーム|000 100 00X|1X

 最終回の表の攻撃が終わった段階で、Tチームの勝ちが決まっている。普通「X勝ち」と呼ばれている勝ち方だ。この場合は、最終回の裏の攻撃は、全く行われていない。
 もう一つは、下のような場合。

   Sチーム|000 000 200| 2
   ――――+―――――――――――+――
   Tチーム|000 100 002|3X

最終回の裏で1点以上勝ち越せば、それ以降の攻撃が行われず試合終了となる。これは、日本では「サヨナラ勝ち」と呼ばれている。
 どちらの場合にも、勝ちチームの得点の横に「X」の記号が付けられるのだが、これがもともとは「α(アルファ)」だったというのだ。
「9回裏の攻撃を最後までやっていれば、まだ点が入っていたかもしれないのに‥‥」
 という意味だと思う。「あともう少し」ということを表すときに、「+α(プラスアルファ)」と言ったりするが、あれに似た感じかな。
 ひょんなところから、ギリシャ文字が登場してきた。
 放射線には、α線、β線、γ線などの種類がある。また、星座を構成している星には、明るい順番にα星、β星、γ星、δ(デルタ)星……と名前がつけられている。しかし、ギリシャ文字について知っているのは、そこまでだった。
「δ」の後を知らない……。
ギリシャ文字は、紀元前10〜前9世紀に、フェニキア文字をもとに成立している。ローマ字のもとになった文字だ。始めは21文字だったのが、紀元前5世紀頃に現在の24文字となった。
 ギリシャ文字だから、ギリシャ語を表記するのに使われるのだが、その他にも学問上の記号としても使われている。ギリシャ文字の24字をスラスラ言えると、かなりかっこいいかもしれない。以下に紹介しておくので、この際覚えてみてはどうか。用例は分かる範囲でつけておいた。あしからず。

文字 読み 用例
A α  アルファ 角度、角加速度、α星、α澱粉、α線、α波
Β β ベータ 角度、β星、β澱粉、β線、家庭用VTRの一方式 
Γ γ ガンマ 角度、比重、γ線、100万分の1g(重量の単位)
Δ δ デルタ 三角州、厚さ、密度、増分を表す(数学)
Ε ε イプシロン  誘電率、放射率
Ζ ζ ゼータ 『機動戦士Zガンダム』
Η η エータ  
Θ θ シータ 角度、θ波
Ι ι イオタ  
Κ κ カッパ 熱伝導率
Λ λ ラムダ 波長
Μ μ ミュー 平均値、摩擦係数、10の−6乗(単位の接頭語)
Ν ν ニュー 振動数
Ξ ξ クサイ  
Ο ο オミクロン   
Π π パイ 円周率、円順列(数学)、浸透圧
Ρ ρ ロー 密度
Σ σ シグマ 総和(数学)、標準偏差(統計)
Τ τ タウ τ粒子
Υ υ ユプシロン  
Φ φ ファイ 直径、空集合(数学)、黄金比(数学)
Χ χ カイ リアクタンス、χ2乗分布(統計)
Ψ ψ フサイ  
Ω ω オメガ オーム(電気抵抗の単位)、角速度、1の3乗根

【メモ】

◆オフコース、DREAMS COME TRUE、斉藤由紀、GAO(ガオ)。みんな、『さよなら』を歌っている。

◆「サヨナラ勝ち」の「サヨナラ」を、「さよなら」とひらがなで表記している新聞を見たことがない。なぜかな?

◆片方のチームが、試合を放棄すれば、9回裏まで行われずに勝敗が決まる。この場合の、スコアは9対0だ。

◆アメリカ合衆国大統領のルーズベルトは、野球の試合について、こんな風に語っている。
「8対7がいちばん面白い。」

◆大相撲では、14日目に優勝力士が決定していても、千秋楽は行われる。

◆そういえば、プロ野球でも、優勝チームが決まっても、135試合行われる。「消化試合」と呼ばれているが、何だか寂しい名前だ。

◆じゃあ、どうして、「α」が「X」になったのか? 「α」が、「X」に似ていたから……っていうのが、通説らしい。

◆ギリシャ文字の最初の2文字は、αとβ。続けて言うと、「アルファベータ」。これが、「アルファベット」の語源。日本語のかなを「いろは」というのと、同じ名前のつけ方だ。

◆「+α(プラスアルファ)」とは言っても、「プラスい」とは言わない。

◆ギリシャ文字の小文字は、何だかフニャフニャしている。きっと、サラサラっと書く文字なのだろう。一方、漢字は、カクカクしているイメージがある。漢字のルーツである甲骨文字は、亀の甲羅や骨のような硬い物に刻んでいたのだから、曲がった線は書きにくかったのだろう。

◆はっきり言って、ギリシャ文字は書きにくい。

◆1の3乗根、つまり、3乗して1になる数は、1,ω,−ωの3つ。ω,−ωは、次の通り。
         __             __
     −1+√3i        −1−√3i
   ω=――――――― , −ω=―――――――
        2           2
               __
   (iは、虚数単位で、√−1 のこと)

 面白いことに、ωを2乗すると、−ωになる。また、−ωを2乗すると、ωになる。当然といえば、当然なのだが……。説明はむずかしい。

◆「α」には「始まり」、「ω」には「終わり」という意味がある。両者をくっつけて「αとω」といえば、「始めと終わり」「全て、全体」の意味。

◆だから、「ω(オメガ)ねに適(かな)う」とは、「見極められた上で、最終的によしと認められる」の意味。