● 第百二十四段 ● 美術館は高尚?
「油絵をやってます。家にはアトリエもあるんです」
などと聞くと、何て高尚な趣味なんだろうと思ってしまう。絵心もないし、アトリエもないから、なおさらそう考えてしまう。うらやましくてしょうがない。
自分には絵なんて描けそうにないから、せめて高尚な雰囲気だけでも感じたいと、美術館に行くことがある。そんな不純な動機で訪れているからか、絵を見ていてもよくわからない。作品を見ずに、作者の名前で見たりしている。
近ごろでは、その美術館にさえあまり行かなくなった。
いや、いこうと思えば、すこし無理すれば行けるのだから、日々の忙しさは理由にはならない。動機の不純さに自分でも嫌気がさしてきたのかな? ならば、なおさらのこと、心をピュアにするためにも行った方がいいな。
情操を豊かにする――なんて目的を持って美術館に行くのは、邪道なのかもしれない。ぷらっと入って、ぷらっと見て、気に入った作品があれば、時間をかけて鑑賞する。それもしっかりと鑑賞するのではなくて、ぼーっと鑑賞する。そんな見方がいいのかもしれない。
ぼーっと鑑賞したいなんてことをいいながら、これからの話をすると、どうも噛み合わない気もするのだが、美術館に行くたびに同じことを考えてしまうのだからしょうがない。チケットを買う際の話だ。
学生割引というのがある。気分はいつも「学生」だ。しかし、世間がそれを認めない。したがって、学生の身分を証明するものを何も持ち合わせていない。
団体割引というのもある。大抵は一人で行くので、この制度も利用できない。しかし、である。こんなのは、「あり」だろうか?
たとえば、正規の料金が500円として、20名以上だと団体割引が適用され、一人400円になるとする。20名に1人くらい足りなくたって、
「20名です。団体割引でお願いします」
とやる。正規の料金だと、
500×19=9500(円)
しかし、団体割引だと、
400×20=8000(円)
で、1500円も得をすることになる。実際の人数をx人として、不等式を立ててみる。
500x>400×20
これを解くと、
x>16
となり、17人までなら、20人だと偽って、団体割引をお願いした方が得をすることになる。
しかし、こんなことをしてもいいのだろうか? 個人的には、何ら問題はないと思うのだ。実際の人数よりすくなめに申告しているのではないのだから。
ただ、問題は余ったチケットをどうするかだ。
(1) 後ろに並んでいる人に、あげてしまう。
――これなら、問題ないだろう。
(2) 後ろに並んでいる人に、400円以下で売る。
――事情を説明されたら、買ってくれるのではないだろうか。でも、これはなんだかスレスレの気がするな。
(3) 後ろに並んでいる人に、400円を越える金額で売る。
――450円としても、正規の金額より安いのだから、買う方にすれば得だ。しかし、額面よりも高く売るのは、これは、多分、違法だろう。
ああ、だめだ、だめだ。こんなよこしまな気持ちで、美術館に入っても、芸術を理解できるとは思えない。でも、金利が低すぎるんだもん、何か考えなきゃ。
【メモ】
◆「邪道」の「邪」。これ一文字で「よこしま」と読む。
◆歌集『桐の花』や詩集『邪宗門』の作者は、北原白秋。
◆修行を妨害するような悪魔のことを、仏教用語で「邪魔」という。
◆邪魔なもののたとえ。「目の上の瘤(こぶ)」「鼻の先の疣疣(いぼいぼ)」「足の裏の飯粒」。
◆昔話にも登場し、へそ曲りの人の代名詞にも使われる鬼は、「天の邪鬼(あまのじゃく)」。
◆持国天(じこくてん)、増長天、広目天(こうもくてん)、毘沙門天(びしゃもんてん)(多聞天・たもんてん)ら四天王が踏みつけているのが、天の邪鬼。
◆2009年は、「国宝 阿修羅展」がとてもとても話題になった。
近鉄の奈良駅から奈良の大学に歩いて通っていた者にとっては、興福寺の境内を抜けていくのが早道で、その途中には興福寺国宝館がある。国宝館には、阿修羅像があって、これまでに何度も何度も拝見した(並ばずに)。
国宝館には他の仏像もた〜くさんあるのだが、やはり、私も阿修羅像がお気に入りだ。正面のお顔は、いつ見ても、夏目雅子さんに見える。このことを人に話すと、たいていの人は、「そういえば、夏目雅子にそっくりだ」と言ってくれる。
国宝館にも、たしか、邪鬼がいたような。
◆フランスの近代写実主義の画家にクールベがいる。『石割り』『画家のアトリエ』『オルナンの埋葬』などの作品で知られている。
◆「ロフト」とは、「屋根裏部屋、倉庫の最上階」のこと。これが転じて、倉庫にあまり手を加えずに、アトリエやブティック、レストランとして利用されているものも「ロフト」と呼ばれている。
◆ニューヨークのソーホー地区のロフトは有名だ。芸術家たちのアトリエが多い。1960年代に前衛文化の発信地となった。
◆この「ソーホー」は、「South of Houston St.(ハウストン通りの南)」の略。
◆今はやりの「SOHO(ソーホー)」は、「Small Office Home Office」の頭文字を並べてできた造語だ。在宅勤務やテレワークで仕事をするフリーランスを総称する言葉だといえばいいかな。
◆国立近代美術館では、手塚治虫のマンガが展示されたことがある。
◆図書館の専門的な職員は、司書。美術館や博物館の専門的職員は、学芸員。
◆何を美しいと感じるか? これは、十人十色だ。
◆芸術は、数学や科学とは対極の位置にあるとよく言われるが、本当にそうかなと思う。
塩の結晶なんかはかなりできた形をしているし、雪の顕微鏡写真なんか、ありゃ、芸術と言っても過言ではない。
◆数学の公式の中にも、「美しい」と感じるものがある。ただ、本文の不等式は、美しいともなんとも思わない。
◆中学のときの数学の先生は、
「同じ問題を解くにも、エレガントに解きなさい」
と言われた。
◆応用。美術館にタダで入る方法。ただし、リーダー性、カリスマ性が必要。
美術館にやってくる見ず知らずの客を17人以上20人未満集め、事情を説明して、1人500円ずつ料金を徴収する。集めたお金で、20枚のチケットを買う。自分の分のチケットを1枚いただいた上で、余ったお金・チケットはくじびきなどして当選した人に渡す。
これもヤバイ方法なのかな? すくなくとも「エレガント」ではないな。
◆お願い・提案。
科学や数学関係で、「美しい」「エレガント」と思われるものを探すと面白いのではないかと思います。かなり主観が入ると思いますが、「私の『エレガント』」を出しあうと盛り上がらないかな……?