★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第百二十六段 ●  究極のサマータイム

「おやつにしましょう」という。
 この「おやつ」とは、「お八つ」のことで、現在でいえばだいたい午後2時から4時までにあたる。江戸時代には、この時間帯に間食する習慣があったと
いうことだ。
 昔の時刻の表し方は、おおよそこんなふうになっている。


    23  0  1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12
    子   丑   寅   卯   辰   巳   午
      九   八   七   六   五   四   九


   12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23  0  1
      未    申    酉    戌    亥    子    丑
   九    八    七    六    五    四    九


 間食についてではなく、どうもわからなかったのは「お八つ」だ。

「『おやつ』というのはね、時刻の名前なんだ。鐘が8回撞かれた時間に食べていたことのなごりなんだよ」
と、小学校4年生のときに教わった。なるほどそうなのかと思っていたが、ちょっと調べたら、おかしなことに気づいたのだ。

 0時、12時にそれぞれ9回撞かれた鐘は、時間が進むごとにその数が減っているではないか!
 小4当時、家でぶらぶらしていたボンボン時計は、時間が進むごとに「ボ〜ン」の回数が増えていく。ふつうは増えるものだろうと思っていたので、鐘の数が減ることには大いに疑問を持った。自分なりに考えようとは努力したのだが、布団の中で「ボ〜ン」を何度か聞いているうちに眠りに入ってしまっていた。

 話は変って、「四六時中」という言葉がある。いつもいつも忙しいなんてときに、「四六時中忙しい」 などと使う。
 これは、4×6=24で、1日が24時間であることをいっているのだ。ただし、辞書で調べると

   二六時中にならってできた語

とある。最近の用法なのだ。
 なぜ「二六時」なのかは、もうお分かりいただけたと思う。先の表にもあるように、日本では飛鳥時代から、1日を子(ね)から亥(い)までの12辰刻(とき)に分けて時刻を表現してきたのだ。だから、2×6=12で「二六時中」というわけだ。

 ただし、鎌倉時代に「時」が変った。
 それまでは、1日の長さを12等分したものを「1辰刻」としていたのだが、鎌倉時代以降は、「不定時法」が一般的になったのだ。
 つまり、簡単にいうと、夜明けから日暮れまでを6等分したものを「昼の1辰刻」、日暮れから夜明けまでを6等分したものを「夜の1辰刻」とするようになったのだ。だから、昼の1辰刻と夜の1辰刻の長さが違うことになる。それだけではない、夏の1辰刻と冬の1辰刻も長さが違ってくる。
 究極の「サマータイム制度」、「ウィンタータイム制度」ともいえるこの方法では、なんだか大変なんじゃないの、と我々現代人は考えてしまうが、時計というものが普及していない時代の話だ。不定時法の方が便利だったのだろう。
 逆に、時計がやたらと普及している現在にサマータイム制度を採用しようとすると、毎日時計をセットしなおすなんてことはやってられない。仕方がないから、どこかで日を決めて、「今日からは1時間時計を早めましょう」ということが必要になる。それでもややこしい。
 不定時法の「正確な」時計って、作れないかな。これはこれで面白いと思うのだけど……。


【メモ】

◆■ 夏時間(summer time) ■
中高緯度に位置する国では、夏の間、日の出が早く、日の入りが遅い。そこで、夏の間だけ、時計を標準より1時間早めて、余暇を有効に使い、省エネを図ろうというもの。アメリカ、カナダ、EU、南半球の多くの国々で採用されている。

◆夏時間で生まれた余暇を自然と親しむ理想的な使い方をすれば、その効果は石油に換算して、日本だけで一夏102万キロリットルと推算されている。
※データが古いと思います。すみません。

◆夏時間、イギリスでは「summer time」、アメリカでは「daylight-saving time」。略してDSTという。

◆夏時間じゃない時間は、「standard time」。

◆サマータイム制度を導入していない主な国々。
 日本、韓国、中国、台湾、東南アジア諸国の大半、ロシア、アイスランド。

◆日本でも1948年から4年間、サマータイム制度が採用されたことがある。不評だったので中止された。

◆『Mr.サマータイム』を歌っていたのは、サーカス。『サマータイムブルース』は、渡辺美里。

◆「草木も眠る丑三つ時」とよくいわれるが、この「丑三つ時」についても説明しておこう。
 1辰刻は現在の時間ではおよそ2時間。しかし、これでは時間の単位としてはすこし長すぎるので、1辰刻を4つに分けて表現することもあったのだ。

   丑一つ……午前2:00〜2:30
   丑二つ……午前2:30〜3:00
   丑三つ……午前3:00〜3:30
   丑四つ……午前3:30〜4:00

◆「お八つ」の謎だが、どうやら9をかけているらしい。真夜中から順番に1辰時に番号をつけて9をかけると以下のようになる。

   1×9= 9 →九つ
   2×9=18 →八つ
   3×9=27 →七つ
   4×9=36 →六つ
   5×9=45 →五つ
   6×9=54 →四つ

◆なぜ9をかけるのか?
 第八十段でも述べたように、中国の「陰陽(おんみょう)道」では、陽の最高の数が9とされている。この思想に関係しているのではないかといわれている。

◆「お江戸日本橋七つ立ち〜」
という歌がある。「七つ」つまり、朝の4時ころに日本橋を出発したということを言っているのだ。

◆鐘の回数で時刻を表現すると、1日のうちに「六つ」が2回やってくる。混乱を避けるために、「明け六つ」「暮れ六つ」と区別している。

◆さすがだと感心するほどのことではない。現在でも、「午前6時」「午後6時」といって区別している。

◆こんなことをさすがだと感動するくらいなら、24時間制で時刻を表したほうがいい。
 だいたい、12時間制で時刻を表すことに何のメリットがあるのだろう?
 時刻に厳しくならざるを得ないところでは(たとえば駅)、24時間制で時刻を表している。

◆昔我が家で使用していたビデオデッキは、12時間制で時刻を表すものだから、午後の番組を予約録画したつもりが、まったく違う番組が録画されていること
がある。

◆あ、あった。メリットはあった。大きい数字を使わなくて済む。

◆ボンボン時計や鳩時計は、夜の12時に12回も鳴る(鳴く)設定になっている。あれは、うるさくて仕方がない。
 だから、自宅の鳩時計は、「ポッポ」のスイッチを切ってある。

◆24時間制の鳩時計は、嫌だな。


【参考文献】
 ・日本の常識事典  KKベストセラーズ


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