● 第百三十四段 ● コーラなら大丈夫?
今年の夏も暑かった。暑いとどうしても冷たいものがほしくなる。喫茶店に入って、
「アイスコーヒー!」
と言いたいところだが、コーヒーを飲むと本当に眠れなくなるのだ。午前中のコーヒーならまだましだが、午後ならだめだ。たとえば午後2時にコーヒー飲んでも、その日の晩は寝づらくなるのだ。本当だ。
自分ではその日にコーヒーを飲んだことを忘れている――ということもある。なぜ眠れないのか、よくわからない。そういうときは、1日の行動を振り返ってみる。
「ああ、あそこでコーヒーを飲んだ!」
なんて、やっと思い出すこと。出されたコーヒーを拒否するなんて、気が小さくてできやしない。
眠れないというのは本当につらいから、自腹を切る喫茶店ではコーラを頼むことになる。もしかすると、コーラの成分の中にも眠れなくなる成分が含まれているのかもしれないが、コーラならなぜか大丈夫なのだ。でも、一応調べてみた。すると、別の「へぇ〜」を発見した。「コーラ」とは、こういうことなのだ。
「コーラの種子エキスを含む炭酸飲料」
この説明からすると、「コーラ」という植物があることになる。そんな植物があるの?
■ コーラ ■
アオギリ科の常緑高木。高さは8〜15mになる。ガーナやブラジルが主産地で、近年は西アフリカ地方の主要産物の一つとして、乾燥した種子を欧米に輸出するようになった。コーラの種子はコーラナッツと呼ばれ、カフェインの一種のコラチンなどを含む。生で噛むと興奮と活気を覚えるので、古くからアフリカ人が用いていた。コーラの種子エキスを含む炭酸飲料は、世界的に普及している。代表的な銘柄にコカ・コーラ,ペプシ・コーラがある。
コーラの木があるなんて……、知らなかった。
さて、コカの葉とコーラの実のエキスを主要な原料とするから、「コカ・コーラ」。この名前の付け方は非常に納得いくのだが、「ペプシ・コーラ」の「ペプシ」がわからない。一体、「ペプシ」って何なんだ? 「ペプシ」なんて植物はないし、すぐに想像の余地がなくなってしまった。「聞いてみるしかない!」
いつものパターンだが、ペプシ・コーラの会社に直接聞いてみた。聞いてみると、なるほどだった。
結論から言うと、「ペプシ」とは胃液中に分泌される消化酵素の「ペプシン」のことだ。
ペプシ・コーラのルーツは、1898年、アメリカ、ノースカロライナの薬剤師キャレブ・ブラッドハムが調合した消化不良の治療薬だ。この治療薬をもとに作られた飲み物がペプシ・コーラ。消化酵素の「ペプシン」とコーラナッツの「コーラ」を合成した名前だったのだ。
コーラの成分については、どうでもよくなった。個人的には、睡眠に優しい飲み物のようだから……。
【メモ】
◆「ヨホホイのサッサ」と言って下るのは天竜川。「エイコーラ、エイコーラ」と言って渡るロシアの川はボルガ川。
◆ペプシンは消化酵素の一つ。胃粘膜の主細胞から胃液中に分泌される。もともとは「ペプシノーゲン」という物質なのだが、これが胃液の酸性の条件の下では、活性化してペプシンとなる。
◆日本でペプシコーラの販売が始まったのは、1958年。CMで有名な「ペプシマン」が、テレビに初めて登場したのは1996年。
◆ちなみに、コカ・コーラの方は、1886年,ジョージア州アトランタの薬剤師ペンバートンが強壮剤として創製したのが最初。間違って、水の代りにソーダ水で割ったところ、独特の味が発見されたそうだ。
◆日本へのコカ・コーラの輸入は、1912年には始まっていたようだ。その年の12月号の『白樺』に掲載された高村光太郎作の詩の中に、「コカコオラ」の文字が見える。高村光太郎は、「コカ・コーラ」を初めて詩の中に取り入れた日本人だ(と思う)。
彼の詩集『道程』の中の「狂者の詩」に、
コカコオラ、THANK YOU VERY MUCH
コカコオラもう一杯
などの部分がある。
◆どこで書こうかと思っていたのだが、今回の話題ならかまわないだろう。
第十三段の【メモ】で、「ネック・ド・イン缶」について述べた。これは、ジュースやコーラの缶で、上部が三段腹のようになっていて、だんだんと細くなっているタイプの缶だ。3段のものを「トリプルネッキング」、4段のものを「クォドネッキング」というということも述べた。実際には、段々になっていなくて、シュッと細くなっているタイプもある。
さて、このネック・ド・イン缶の利点は、材料の節約であるとあのときに述べたが。ある方から、
「それは本当か?」
という意見をいただいた。本当かと聞かれても、実際にジュースのメーカーに訪ねた結果なのだから、本当だとしか答えようがないのだが、その人の反論は理路整然としたものだった。
ネック・ド・イン缶にすれば、確かに胴体の部分、上部のふたの部分の面積を小さくすることができる。しかし、計算してみたところ、それはせいぜい1.8%の節約にしかならないというのだ。この程度で「節約」というのはおこがましく、何か別の利点があるのではないか――というご意見だった。
ここまで、しっかりした根拠を示されると困ってしまったが、困ったときには「現場に戻れ」の鉄則通り、もう一度ネック・ド・イン缶をしっかりと見てみた。
よ〜く見てわかったが、どうも、この缶は、胴体とふたの部分を別に作っているようだ。ならば、「全体で○○%の節約」という計算よりも、「ふたの部分だけで○○%の節約」という計算をしてみてもいいのではないだろうか?
実際に計算してみると、ネック・ド・イン缶にすることで、ふたの部分は14.8%もの節約ができることになる。これなら「立派な節約」ではないか!
とまあ、ここまで考えた後で、メーカーに聞いてみた。答えは同じ、「材料の節約」だった。しかし、計算の結果まで述べると、
「なるほど、そういうことでしたか……」
の後に、
「ネック・ド・イン缶は、飲料メーカーの希望でそうしているのではなく、缶のメーカーのアイデアなんですよ。おっしゃる通り、あのタイプの缶だと、ふたの面積が節約できるんですよ。アルミの板がありますよね、あれからたくさんのふたを抜くわけですが、缶のメーカーでは、1枚の板からなるだけたくさんのふたを取りたいわけです。今のふたの直径を1o短くしただけで、もう1枚多く取れると聞いたことがあります……」
これが本当の「ふたん軽減」(イマイチか……)。