● 第百三十八段 ● 何色の帽子?(前編)
杉野君が、面白い問題を引っさげてやってきた。もっとも、「面白い」というのはあとで、そう思ったことで、最初はわけのわからない問題だった。
「僕が聞いた問題とは少しアレンジしてあります」
と、彼は始めた。こんな問題だった。
―― あるクラスで、担任の先生がクイズを出した。
「ここに4つの帽子がある。このうちの2つは赤い帽子で、残りの2つは白い帽子だ。ただ残念なことに、こうやってかぶってしまうと、当たり前だけど、自分がかぶっている帽子の色が分からなくなるんだ。で、今から誰か4人にこの帽子をかぶってもらうから、自分のかぶっている帽子の色を当ててほしいんだ」
「先生、自分のかぶっている帽子の色は分からないんですね」
「そうだ、先生が4人に直接かぶせるから、かぶらされた本人にはわかりっこない」
「でも、かぶらされた人は、残りの3人の帽子の色は見えますよね」
「そうだね」
「赤が2つ、白が2つと決まっているのなら、自分の帽子の色くらいすぐに分かりますよ」
「まあ、その通りだ。だから、条件を付ける。今から言う条件のもとで、4人のうち誰か1人でも、当てずっぽうでなく自分の帽子の色を言い当てることができたら、ご褒美をあげよう」
「よ〜し。でも、どんな条件ですか?」
「条件を言う前に、誰か4人、挑戦者はいないのか?」
というと、A、B、C、Dの4人が名乗りを上げた。
「で、どんな条件なんですか?」
「A君には別室に行ってもらう。そこで先生が帽子をかぶせるよ」
「えっ、1人きり?」
「そうだよ」
「じゃあ、僕にはわかりっこないよ」
「そう思うかい? まあいい。とにかく隣の部屋で待っていてくれ」
「じゃあ、先に行ってます」
「さて、残りの3人だが、君たちには階段に順に立ってもらう。そうそう、そんな感じだ。階段の下方向を向いておくんだぞ。こうすれば、D君にはB君、C君がかぶっている帽子の色は分かるよね。でも、B君やC君には、上の人が何色の帽子をかぶっているのかはわからない」
「当然ですよ」
別室 | ←の方向を向いている
|
| D_
| |
| C_|
| |
A | B_|
「この状況の中で、先生が今からこの4つの帽子を君たちにかぶせていくよ。さっきも言ったけど、もし、4人の中で1人でも自分の帽子の色が分かれば、全員にご褒美だ」
と、先生は、4人の生徒に帽子をかぶせていった。もちろん、4人以外のクラスの生徒にはその様子が見えている。先生は以下のように帽子をかぶせたのだった。
別室 | ←の方向を向いている
|
| △
| D_
| ▲ |
| C_|
▲ | △ |
A | B_|
「さあ、自分の帽子の色が確実に分かったら、静かに手をあげてくれ」
この4人は、クラスでも成績のトップクラスの生徒ばかりだったのですが、なかなか自分の帽子の色が分かりません。うなるばかりです。ところが、しばらく時間が経つと、
「先生、分かりましたよ」
と、1人がニコニコしながら手をあげたのです。「さて、ここでやっと問題です。手をあげたのは誰でしょう?」
「随分長い問題だね。で、無論、その手をあげた生徒は確実に帽子の色を当てたんだね」
「もちろんです」
「むずかしいかい?」
「むずかしいです。稲田さんは3日かかりました」
「なんだ彼にも出したのか。よし、1日で解いてやろう」
「この手をあげた生徒は5分くらいで分かったんですけど……」
【メモ】
◆帽子の「山」の部分を、英語で「crown(クラウン)」。それに対し「つば」は、「brim(ブリム)」。
◆ソンブレロ。山が高く、つばのせり上がった、メキシコをイメージする帽子だ。
◆「山」がない帽子がある。ゴルファーなどがよくかぶる、額の前のひさししかない帽子、あれは「サンバイザー」。
◆「山」の部分を叩くと音がするほど麦わらを堅く編んだところから名前がある。「かんかん帽」だ。夏の帽子だ。
◆「キャノチェ」「クロシェ」「トーク」といったら、どれも御婦人のおしゃれにファッションに欠かせない帽子の種類。
◆帽子が衣服につながっている場合がある。そんなに驚くことではない。コートやヨットパーカーでは普通のことだ。ふつう、これは「フード」と呼ばれる。
◆前後にひさしのついた帽子がある。もともとは狩猟用だったのが、ある探偵の名前を用いて呼ばれている。その名は、「シャーロック」。
◆実際にはそういう方にお会いしたことが一度もないのだが、テレビなどの厨房のシーンで大きな帽子をかぶっている料理長が出てくることがある。あの帽子は、フランス語で「グラン・ボンネ」。
◆禅宗の僧侶がかぶる頭巾は、「帽子」。これで、「もうす」と読む。
◆ローマ法王など、カトリックの司教以上の神父がかぶる、小さな帽子がある。ずれ落ちることがないのかといつも心配になってしまうのだが、あれは「ズケット」。
◆密室ミステリーの王者ともいわれ、『帽子収集狂事件』『皇帝のかぎ煙草入れ』などの作品で知られる推理作家は、ディクスン・カー。
◆1910年、ココ・シャネルが初めてパリの開いた店は、帽子の専門店だった。
◆アラン・ドロン主演の映画に『ボルサリーノ』があるが、これはイタリアの帽子メーカー。
◆森村誠一の小説『人間の証明』にでてくる『麦わら帽子の詩』の作者は、西条八十。『人間の証明』は、映画化もされ、Mama,do you remember the old straw hat you gave to me?
で始まる主題歌は大ヒットした。
この歌詞で関係代名詞が省略されることを覚えた。
Mama,do you remember the old straw hat that you gave to me?
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上の文のようにthatが入ってもいいところを省略しているのだ。
◆七福神のうち、帽子をかぶっているのは2人。恵比寿と大黒天だ。
◆NHKの教育番組で、きのこ帽子とつりズボンで、20年間無言の演技を続けたお兄さんといえば「のっぽさん」。
◆「メガネモチノウオ」というより、「ナポレオンフィッシュ」と言った方が通りがいい。 頭の形がナポレオンの帽子に似ていることから、こんな風に呼ばれている。
◆どんなおかしなことでも、主人の好みには家族は従わねばならないという意味のことわざ。「亭主の好きな赤烏帽子」。
◆メーテルリンクの『青い鳥』では、チルチルとミチルが魔法使いからダイヤモンドをもらいって帽子につけた。
◆水球をするときに使う帽子の色は3色。白と青と、ゴールキーパーの赤色。
◆JRA日本競馬会で、いちばん内側、つまり1枠の騎手の帽子の色は白。
◆アメリカンフットボールの審判の主審も、白い帽子をかぶっている。
◆全日本帽子協会が主催している「帽子の日」って、8月10日。説明は無用ですね。
◆で、問題の答だが……、次回に回しましょう。