● 第百四十四段 ● 「いちいち」うるさいぞ!
最近、年号、月、日の数字を並べると、「1」ばかりが6つも並ぶという珍しい日があった。そこで、数学をすこしかじっている者として、こんないたずらを考えた。もとのネタは、杉野君から教えてもらったものだが、それを少しアレンジしてみた。
「稲田君、電卓を使って占いができるというのを知ってるかい?」
「知らないな。それに、僕は占いなんて信じていないよ」
「そんなことを言うと、それで終わってしまうから、一度やってみないか?」
「そこまで言うなら、やってやろうか?」
「ありがとう。本当はこの占いは、1月1日の元旦にやって1年の運勢を占うものなんだ」
「じゃあ、だめだね」
「そういわずに、まだ正月なんだから、やってみようよ。ここに電卓がある。まず、そこに3桁の数字を入れる」
「何でもいいのかい? じゃあ、123」
「かなり適当だね。次に、その数に4桁の数を掛け算するんだ。結果に1がたくさん登場しているほど運勢がいいんだ」
「そんなの先に結果を暗算で求めてしまえば、1をたくさん出せるぞ」
「そりゃそうだけど、3桁×4桁の計算の結果は6桁か7桁になるんだ。こんな暗算をできる人はそんなにいないよ。しかも、計算するだけじゃなくて、答に1がたくさん出てくるようにするなんてかなりむずかしいと思うけど……」
「なるほど、言われてみればそうだ」
「だから、適当に4桁の数字を掛け算してみてよ」
「適当といわれてもなぁ……、じゃあ、4567」
「なんだあまり考えてないなぁ!」
「考えてるぞ。1の位を7にしたんだから。これで、3×7=21だから、下一桁は確実に1になるだろ」
「で、結果は?」
「561741」
「1が2つか……、今年の運勢は凶ですね」
「凶!」
「7つそろったら大吉、1がまったくなかったら大凶ということになってるから、1が2つだと凶ってところです。よかったね、大凶でなくて……」
「本当によかったよ。で、君の運勢はどうだったの?」
「まだやってません」
「やってみてよ」
「いいですよ……、ええと、3桁、かける、4桁、と。あら、大吉だ〜! どうしよう」
「『どうしよう』って、あら、ホントだ。1111111だ」
「ほほう、また、何か仕掛けがあるな……」
【メモ】
◆1月11日には、こんなことがありました。
708年1月11日、日本初の自然銅を武蔵の国秩父郡が献上、元明天皇はこれを喜び、元号を和銅と改元した。
上杉謙信が、敵に塩を送ったとされるのが、1569年1月11日。
伊豆七島が静岡県から東京府に移管、編入されたのも、1878年の1月11日。
◆1月1日、11月1日、11月11日だって、1ばかり並ぶのだから、1月11日が特に珍しいというわけではないのだけど……。
◆電卓とは、「電子式卓上計算機 electronic calculator」を略したもの。「卓上」という言葉がわざわざついているところから考えて、これができた当初は「卓上」がそれはそれはすごかったのだ。
今では「電卓」と呼ばれることが多いが、これは正式名称。1979年にJISでそう決まった。
◆世界初の電卓は、1962年、イギリスのサムロック・コンプトメーター社が開発したアニタ(ANiTA)というもの。日本では1964年にシャープが第1号機を開発している。ただし、当時の電卓は演算素子に真空管(のちにトランジスタやダイオード)を使っていたので、大きさはテレビくらいで、価格も40万円前後(当時)していた。
◆1972年には1万円台の電卓が開発され、世間の話題をさらった。その翌年には、ついに1万円を切った。
◆今では、ICやLSIが使われるようになって、ご存知のように、こんなに小さい。みなさんも、薄くて小さいやつを1つくらい持ってるでしょ。
◆最近、計算尺という代物を見たことがない。見ても、もう使い方を忘れてしまった。
◆電卓のキーで、「C」はクリア。「M」はメモリの略。
◆積(掛け算の結果)が1111111になるような3桁×4桁の組み合わせは、実は1通りしかない。だから、暗記しておけばよい。
239×4649=1111111
やはりこういう場合は、語呂合わせにした方が覚えやすい。「ピース、サンキュー、よろしく」とか「兄さん、急に、よろしく」ってのはどうだろう。もちろん、「ピース」ってのは、じゃんけんのはさみのサインと同じで、「2」を表している。
◆ついでに、積が11111111になるような4桁×4桁の組み合わせもある。
7373×1507
これはもう、「なみなみいこうな」と覚えるしかないだろう。