★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第百四十五段 ●  ナメクジの平和な社会

「これはね、人間の骨格に関する話なんだけど……」
 と切り出した。
「それは、重要な話だね」
 稲田君は、そう答えた。
「そうじゃなくて、本当に骨格に関する話なんだ……」

 中学生の頃、剣道部に所属していた。剣道が上手かったわけではない。好きだったわけでもない。どこかの部活動に入っていた方がいいだろうという固定概念があったし、最大の理由は、「防具」を持っていたということだった。
 剣道でいう防具とは、面、胴、籠手(小手・こて)、垂(た)れなどである。一式そろえるとなると結構な金額がかかるのだが、なぜかこれらの防具を自分の物として持っていたのだ。
 剣道なんて防具なしにやれるものではない。たまに試合形式の練習をすると、当たり前のことだが、相手が打ち込んでくる。面を打たれて、軽い脳しんとうを起こしたことがある。また、胴を打つはずの竹刀(しない)がずれて、太股に当たるということがある。もちろん、これは「一本」にはならない。しかし、かなりの痛みだ。みみず腫れのようになる。
「『一本』取られてもいいから、この練習終わろうよ〜」
 とそんなことばかり考えていた。
 こちらも胴を打とうとして相手の太股を打つこともあるだろうから、お互い様だといいたいところだが、そうではない。根本的に弱いのだ。下手なのだ。相手の竹刀がこちらに当たることはあっても、こちらの竹刀が相手に当たることなど滅多になかった。ひたすら防御だった。悪夢の時間だった。
 太股にも防具がほしい――これは、当時の切実な願いだった。

「そこで考えたんだけど、哺乳類って今のところ動物の最も進化した形体っていわれてるけど、本当にそうかなって……」
「どういうこと?」
 やっと稲田君は話に興味を示した。
「だから、太股にも防具がほしいんだ」
「え?」
「骨が外で、肉が内側にあるような、そんな形じゃだめなのかなって思ったんだ……」
「それって、ロボコップみたいだね」
「そうそう、そんなの」
「でも、そんなの珍しくも何ともないよ。そんな生物なんてうようよいるよ」
「え!」
「びっくりしなくても、カニとかカブトムシとかがそうでしょ」
「あ、そうか」

「こういうのは『
外骨格』っていうんだ」
「聞いたことがあるよ」
「だろ」
「じゃあ、外骨格の生物って、いつも防具をつけている状態なんだ。よほど、毎日が戦闘モードなんだね」
「……」
「よくSFで宇宙人がヌルヌルでブヨブヨした形しているじゃない。あれって、戦闘のない平和な状態が長く続くと、あそこまで進化するってことなのかなぁ?」
「独り言として聞いておきます」
「ナメクジの社会は平和なんだ。あ、ウミウシもそうだ……」


【メモ】

剣道では、相手との距離のことを「間合い」という。

◆剣道の試合で「めん!」といって胴を打つのは反則でもなんでもない。人間性は疑われるけど。

◆剣道の公式試合で、二刀流を使うことは許されている。見たことないけど。

◆面も胴も小手もあるのに剣道ではない武道はな〜んだ? 答、なぎなた。

◆剣道の上級者に贈られる称号は3種類ある。錬士、範士、教士。

◆剣道で使われる竹刀のつばは、直径8cm以内と定められている。

◆剣道で大切なもの。「一眼、二足、三胆、四力」。

◆剣道で、小手を打つときは、ふつうは右小手と決まっている。ただし、相手が上段の場合のように手もとが上がっているときは、左小手を打ってもよい。

◆「小手」というのは、ひじと手首の間のことをいう。この小手にはめる防具が「籠手」。つまり、籠手を小手にはめるのだ。コテコテになっちゃうな。あ、両手にはめるから、コテコテコテコテか。

◆「小手」に対するのが、「大手(おおで)」。「大手を広げる」とか「
大手を振る」とかいうでしょ。あの「大手」は、肩先から指先までのことをさしている。

◆剣道で、竹刀を操作するために必要な手の作用を「
手の内」という。へぇ、そんなところから生まれた言葉だったんだ。

◆映画『ロボコップ』シリーズの主人公の警官の名前はマーフィー。アン・ルイスという名前の女刑事も登場している。

◆カニは外骨格の生物だけど、我々はおいしく頂いている。

◆竹刀を持って街を歩いている人はあまり見かけないけど、カニはいつもハサミを2丁持っている。

◆■ 外骨格 ■
我々、脊椎動物は、身体の内部に骨格が骨格が形成されている(内骨格)。これに対し、
動物の体の表面を殻などの固い構造物が覆っている場合、「外骨格」と呼んでいる。貝類、甲殻類、昆虫類、多足類、腕足類などが代表的。

◆魚のうろこやカメの甲羅なども外骨格のようなものだが、表皮で覆われていて、その下に構造物が形成されているという形なので、厳密には内骨格とされている。

◆外骨格は、体の保護、外敵からの防御に役立っているが、もちろんデメリットもある。固くて重いので、どうしても動きが鈍くなる。だから、外骨格が発達した動物には、運動性にかけるものが多い。運動することなんて諦めてしまって、固着しているものもある。

◆ただし、甲殻類、昆虫類などでは、外骨格に多数の間接があり、すぐれた運動性を持っている。アリなんて、感動するほどちょこまかと歩き回っている。

◆外骨格の最大の欠点は、成長が妨げられてしまうということ。大きくなるためには、脱皮を行って、新しい外骨格がまだ柔らかな間に体を大きくするほかない。ただし、その時期は、外骨格の最大のメリットである「外敵からの防御」という役割を放棄することになる。

◆調べていて驚いた。なんと、ウミウシも脱皮をする。
■ 
ウミウシ ■
殻を失った巻貝類の一種。ナメクジのようなところから、英名はsew slug(slugは、ナメクジ)。体の形は細長く、色彩の美しい種が多い。多くは頭部に色鮮やかな1対の触角が持ち、これを角に見立ててウミウシと名付けられた。浮遊性のものもあるが、多くは岩礁帯にすんでいる。

ナメクジも殻を持たない陸生の巻貝だよ。

◆○×クイズ。
(1) ゴキブリも脱皮する。○か×か?
(2) アブラゼミが初めて脱皮するのは、地上に出たときである。○か×か?
(3)昆虫やクモ、カニなどは触覚や足がなくなっても、脱皮すると元に戻ることができる。○か×か?
答 (1)○ (2) × (3) ○

◆脱皮しているときって、どんな気持ちがするんだろう?


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