★雑木話★
ぞうきばなし

トップページへ

前の段へ   ★雑木話★のリストへ   次の段へ


 ● 第百五十四段 ●  ワニのパク

 実は、小さいころに、ワニを飼っていたことがある。
「そりゃ、嘘だろう」
 と疑う人が多いのだが、本当なのだから仕方がない。ワニと聞いて、あの大きなワニを想像するからそうなる。小さいサイズのワニを飼っていたのだ。今となっては記憶に頼らざるを得ないのだが、口の先からしっぽの先までの長さがこれくらい――って、やってもわからないか――70cmくらいあったと思う。
「そりゃ、ずいぶん大きいね。何に入れて飼っていたの?」
 と、稲田君。
「そりゃ、水槽だよ」
「大きな水槽だね」
「そうかな? 底が50cm×30cmくらいで、高さも30cmくらいだったかな〜。ほら、よく熱帯魚を飼っている人がいるだろ。あれくらいの水槽だよ」
「ちょっと待ってよ。ワニの大きさはどれくらいって言ってた?」
「70cm」
「それじゃ水槽に入らないだろ……」
「ああ、パクはいつもしっぽを曲げていたから大丈夫」
「パク?」
「ああ、ワニの名前だよ。餌の金魚をやると、パクって食いつくから『パク』って名前にしたんだ」
「金魚!!」
「そうだよ。金魚が餌なんだ。1日に3匹ずつ与えていたんだ」
「金魚が餌なのか……、何だかかわいそうだな」
「う〜ん。肉食だからしかたないよ。でもね、餌用の金魚は『そのときが来るまで』、別の水槽できちんと餌を与えて飼っていたんだよ」
「で、その金魚の水槽はどこに置いてあったの?」
「ワニの水槽のとなり」
「やっぱり〜。じゃあ、金魚の水槽から毎日3匹ずつとなりの水槽へ移される様子を金魚は知っているわけだ」
「そういうこと」
「で、移された3匹の金魚が、ワニの餌食になっているのも知っているわけだ」
「そういうこと」
「残酷〜」
「でもね、中にはタフな金魚もいてね、ワニの水槽の中で、3日間も生きていたヤツがいたんだ」
「ふつうは、ワニの水槽に移されてからどれくらい生きているの?」
「数秒から数分」
「じゃあ、3日間も生きたのは特別すごいんだね。でも、どうやって?」
「隠れていたんだ」
「どこに?」
「どこでしょう?」
「水槽の中には何があるの?」
「水と細かな砂利とワニ」
「大きめの石とか藻とかは?」
「ない」
「じゃあ、どこに隠れたんだ?」
「ワニの死角」
「そっか、わかった。腹の下だ」
「そうそう。ワニってヤツは、絶えず腕立て伏せ状態なんだけど、こいつは水槽の底と腹のわずかなすきまにおさまっていたんだ」
「すごいヤツだね。まさに、ダイハード金魚だね。でも、よくそんな場所をよく見つけたね」
「これは、ワニの水槽の横に金魚の水槽を置いた効用だと思うよ。多分、このダイハード金魚は、仲間が食われていく様子を観察して、どこに隠れればいいのか学習していたんだと思うよ」


【メモ】

◆料理に使う魚を、生かしたままたくわえておく水槽は、生け簀(いけす)。

◆ハカリの上に水を満たした
水槽を置く。この中に手を入れると重さは増えるか、減るか、そのままか? 答えは、増える。手が水槽の底にタッチしていなくても、増える。

◆ワニのパクの話をしたときに、必ずといっていいほど出る質問に答えておこう。

Q.水槽のふたはどうなっているのか?
A.ガラスの板が置いてある。ワニが自力で出てくるのは不可能。

Q.水の量は?
A.ワニの下唇(?)のあたりまで。

Q.水槽の掃除は?
A.これが大変。

   (1) ワニをバスタブに移す
      ↓
   (2) 水槽、砂利を洗う
      ↓
   (3) ワニを水槽に戻す

 (3)の作業が困難極まるのだ。ワニのしっぽを棒で突っついたりしながら水槽へと誘うのだが、これがなかなかうまくいかない。1時間以上、悪戦苦闘することもたびだびだった。

Q.ワニは鳴くのか?
A.知らない。しかし、パクは鳴く。鳴き声は忘れた。

Q.散歩は?
A.行かない。

Q.意志の疎通は?
A.「パク」と呼んでも、反応を示さなかった。知らんぷりをしていたのかもしれない。

Q.危険はないのか?
A.「ある」としか言いようがない。

Q.その後のパクは?
A.近くの川へ放したら、振り向き振り向きナイルまで帰っていった。(ウソ)
  ある日突然になくなったのだ。どうやら親がどこかに持っていってしまったようだ。
  剥製にされたという噂を聞いたが、確かではない。

◆映画『ダイハード』の舞台になったのはロサンゼルス。では『ダイハード2』の舞台になったのは、ワシントンのダレス空港。

◆ゲタ、マンガ、パク、ゾウと愛称される4人のメンバーで構成されるコーラスグループといえば、
ダークダックス。「みにくいあひるたち」ってことね。

◆「Puff, the magic dragon ……」
 で始まる曲は、『パフ』。パクではない。歌っていたのは、ピーター、ポール&マリー。頭文字を並べると
PPM。だから、『パフ』を聞くたびに、「100万分の1」を表すppmを思い出してしまう。

◆ppmは、「100万につき一つ」を意味する英語 part(s) per million の略語。「百万分率」と呼ばれることもある。パーミル(permill、‰、千分率)以下の微量の含有量を表すときに使う。

◆マイクを持っているのに、実際は歌わずに歌っている振りをする――なんて歌手がいるそうな。「口パク」と呼ばれるテクニック(?)だ。

◆川崎麻世は、現在はミュージカルなどで活躍しているが、その昔、西城秀樹の歌を口パク・振りまねをして、人気者になった。

[この段のつづきへ]


[このページの先頭に戻る]

前の段へ   ★雑木話★のリストへ   次の段へ