★雑木話★
ぞうきばなし

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 ・ 第百五十四段の一 ・  金魚の数え方
   (この段は、第百五十四段からの続きです)

「この間、ワニの話をしてたよね。ほら、パクの話」
 と、稲田君が話しかけてきた。
「ワニの餌は、金魚3匹だって言ってたよね」
「1日にね。で、それがどうかした?」
「金魚はどうしてたの?」
「買ってたよ」
「どうやって?」
「どうやってって?」
「金魚はどうやって買ってたの? 『○○匹ください』って言うの? それとも、『○○グラムください』って言うの?」
「知らないなぁ。うちの母親が金魚屋で買ってたんだ」
「今はどうなんだろ?」
「どうなんだろね」
「でも、『○○匹ください』って言われても、大量の金魚だったら数えるのが大変だね」
 稲田君にそう言われて、以前に第七〇段で紹介した、海水浴場などの人出を調べる方法を思い出した。
――ヘリコプターを使って、上空から写真を撮る。その写真を大きく引き伸ばして、縦、横を等間隔に(たとえば)30等分する。これで、この写真は900のマスに分けられたことになる。乱数賽(さい)や、乱数表を使って900のマスの中から、50ほどのマスを選び出し、それぞれのマスの中にいる人数を数える。1マスの平均人数が分かれば、その人数に900をかければ、総数が求められる。
 稲田君が、反発する。
「でもさ、砂浜は平面、水槽は立体。かなり条件が異なるから、一匹一匹数えるのはむずかしいだろ。というより、無理だと思うよ」
「いや、だから、別の方法を考えないと行けないということさ」
「いい方法があるの?」
「あるよ。でも、概数しかわからないけどね」
「ガイスウ?」
「およその数ってことだよ。デメキンを使うんだ」
「デメキン?」
「ほら、夜店の金魚すくいに行くと、水槽の中に金魚だけでなくデメキンも入っているだろ」
「ま、多くの場合はそうだね」
「あのデメキンを利用するんだよ」
 そこで、私が考えた金魚の数え方を紹介しよう。

(1) 金魚の中に、デメキンを入れる(たとえば、30匹)。
(2) 大きめのネットで、無作為に水槽の中の魚をすくう。
(3) 金魚の数とデメキンの数を数える。
(4) (2)〜(3)の作業を何度か行い、金魚の数とデメキンの数の比の平均を求める。
(5) デメキンの数と(4)の比から、金魚の数を求める。

例:
(1) 金魚の中に、30匹のデメキンを入れる。
(2)〜(3) 作業の結果、下記のような結果が得られたとする。

   回数  |1 2 3 4 5 |合計
   ――――+――――――――+――
   金魚  |42 32 31 33 37 |175
   デメキン| 5 5 3 4 6 | 23

(4) したがって、(金魚の数):(デメキンの数)=175:23
(5) 求める金魚の数をx匹とする。水槽に入れたデメキンは、30匹だったから、

   x:30=175:23

     30×175
   x=――――
      23

x=228.26085……

  答え 約230匹

「いかが?」
「だから、デメキンが入っているんだね」
「それは、どうだかわからないけど……」


【メモ】

◆概数の「概」。これ1字で「おおむね」と読む。知ってた?

◆「母集団」全部を調べることができないときは、その一部分だけを取り出して調べることがよく行われる。取り出した一部分は、「標本」と呼ばれる。これは、数学用語。
 出てきた結果から、全体の様子を推定する。正しい推定をするためにも、標本の選び方には、偏りがないようにする。だから、乱数賽(さい)や乱数表を用いることになる。このような調査方法を、「標本調査」という。

◆テレビの視聴率の調査は、どのようにしているか?
 関東地区だと300世帯、関西地区だと250世帯のテレビに調査のための機械を取り付けている。あわせてたったの550件かと驚かれるかもしれないが、これで視聴率をプラス・マイナス3.3%の誤差の範囲で予測できるらしい。

◆そうか、たった550世帯だから、私のところに聞きに来ないのか……。

◆金魚の三大生産地とされているのは、大和郡山市のほかに、愛知県弥富町、東京都江戸川下流域周辺。しかし、東京の場合、都市開発の影響で立地条件が不利になった地域が多い。

◆さて、2010年に大和郡山市で行われた、全国金魚すくい選手権大会の記録を紹介しておこう。
 これだけの数を、たった3分間で救うのだから、驚きです。

  小・中学生の部 優勝者  予選 37匹  準決勝 45匹  決勝 50匹
  一般の部    優勝者  予選 31匹  準決勝 43匹  決勝 57匹
  団体の部    優勝   予選104匹  準決勝116匹  決勝156匹

◆話はそれるが、奈良県の大和郡山市のように、漢字4文字で表す都市は、現在全国に17ヶ所ある。
  青森県五所川原市
  岩手県陸前高田市
  福島県会津若松市
  茨城県常陸太田市
  東京都東久留米市
  東京都武蔵村山市
  千葉県八日市場市
  山梨県富士吉田市
  岐阜県美濃加茂市
  滋賀県近江八幡市
  大阪府大阪狭山市
  大阪府河内長野市
  奈良県大和郡山市
  奈良県大和高田市
  愛媛県伊予三島市
  高知県土佐清水市
  大分県豊後高田市

 このうち、ひらがなで書いたときに最も長くなるのが、大和郡山市。
「四文字」ということなら、17ヶ所の他に、東京都のあきる野市、埼玉県のさいたま市がある。

◆しかし、このNo.1の座を一時的に奪われたことがあった。1959年、青森県に大湊田名部市が誕生した。この都市は、大湊町ととなりの田名部町が合併したもので、名前まで合併したのだ。ひらがなでは9文字だが、漢字だと5文字になるので、現在まで存在していれば、文句なく長名No.1の都市なのだが、おしくも翌年「むつ市」と名称を変更した。一気に短く簡単な名前になってしまった。

◆今度は逆に、短い名前の都市――漢字1文字で表される都市を紹介しよう。全国にちょうど10ヶ所ある。
  埼玉県蕨市
  千葉県柏市
  千葉県旭市
  新潟県燕市
  岐阜県関市
  三重県津市
  大阪府堺市
  広島県呉市
  山口県萩市
  山口県光市

◆今度は、名前が簡単になってしまった都市――ひらがなの都市を紹介しよう。ひらがなだけで表記される都市は、全国に22ヶ所もある。
  青森県むつ市
  青森県つがる市
  秋田県にかほ市
  福島県いわき市
  茨城県つくば市
  茨城県ひたちなか市
  茨城県かすみがうら市
  茨城県つくばみらい市
  栃木県さくら市
  群馬県みどり市
  埼玉県さいたま市
  千葉県いすみ市
  石川県かほく市
  福井県あわら市
  愛知県みよし市
  愛知県あま市
  兵庫県たつの市
  香川県さぬき市
  福岡県うきは市
  福岡県みやま市
  宮崎県えびの市
  沖縄県うるま市


◆ひらがな(カタカナ)と漢字の両方を使っているという都市もある。
  埼玉県ふじみ野市
  東京都あきる野市
  山梨県南アルプス市
  静岡県伊豆の国市
  兵庫県南あわじ市
  香川県東かがわ市
  鹿児島県いちき串木野市

◆キンギョが泳ぎ回る水槽には、キンギョモ(金魚藻)が入れられていることがある。キンギョモは、アリノトウグサ科の水草。池や水槽の観賞用にと栽培されている。英語名は、parrot's feather(オウムの羽)。
 ゴマノハグサ科の多年草に「キンギョソウ」があるが、これは、春に金魚形の花をつけるから。花の色は豊富に存在する。

◆金魚を水槽で飼っていると、いつの間にか緑色のコケが発生する。そんなコケなんて入れた記憶がないのに、発生してしまう。このコケはどこからきたのか?
 実は、金魚の体や水草にコケの胞子がくっついていたのだ。このコケを防ぐには、コケを食べる巻き貝や魚を水槽に入れるという方法がある。それでもだめなら、まめに掃除するしかない。ほら、水族館でも、アクアラングをつけてお掃除しているでしょ。

◆実際のところ、金魚はどのようにして売られているのか?
 幸いなことに私の住んでいる大和郡山市は金魚の産地として有名だ。有名だけれども、今どき
「きんぎょ〜え〜、きんぎょ〜」
 なんて言って、売りに来るなんてことはない。しかたないので、近くの金魚屋さんに電話してみた。
「あの〜、そちらでは、金魚を小売りしておられますか?」
「やってますよ」
「どうやって売っておられるのですか?」
「はぁ?」
「金魚のことについて詳しくないもので、『何匹ください』と言って買うのか、それとも『何グラムください』と言って買うのか、わからないものでして……」
「ああ、どちらでもやってますよ」
「え!」
「じゃあ、100匹でも買えますか?」
「1匹から買えますよ」
「でも、100匹なんてどうやって数えるのですか?」
「5匹ずつ網ですくって、それを20回やるんですよ」
「あ、なるほど。……つかぬことをお伺いしますが、金魚の水槽の中に、デメキンが混ざってますか?」
「いいえ」
「あの〜、金魚すくいの水槽には、たいていデメキンが入ってますよね。あれってなぜですか?」
「さぁ、金魚ばかりだと色に偏りがあるんで、デメキンを混ぜてるんだと思いますよ……」
――ということで、『デメキン説』は消えた。稲田君だとて、たまには失敗もある。

【参考文献】
 長年の大疑問1 素朴な疑問探求会[編](KAWADE夢文庫)


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