● 第百五十五段 ● 大型で並の甘さのスイカ
(※注 この段は、1999/07/27現在の内容です)「スイカをもらったのよ」
と、由希子が言った。冷蔵庫を開けてみると、それは確かにそこにあった。
「半分なんだね」
「そうよ。でも、半分でよかった。冷蔵庫がいっぱいで入らないところだったから」
「しかし、これ、半分でもすごく大きいね。味はどうなんだろ?」
「それは食べてみないと……」
「そりゃそうだ。でも、これだけ大きいと……、期待できないな〜。『大型で並の甘さ』のスイカってところじゃないかな」
『大型で並の甘さ』というのは、『大型で並の強さ』をすこしもじったのだが、これはもともと台風に対する表現だ。しかし、自分で言っていて気がついたのだが、どうもすっきりしない表現だ。同様のことを、由希子も感じたようだ。
「でも、それっておかしんじゃない? 大型だったら、勢力も強いはずでしょ?」
「そうだよね。この表現はなんだか変だよね」
「変だったら、調べてみたら?」
「はいはい、調べてみますよ」
どうも、台風の分類には2種類あるようなのだ。大きさと強さだ。そもそも、台風というのは、中心の最大風速が秒速17.2m以上の熱帯低気圧のこと。で、台風の「強さ」というのは、この最大風速で分類されているのだ。
台風の強さ
弱い……………25m未満
並の強さ………25m以上
強い……………33m以上
非常に強い……44m以上
猛烈な…………54m以上 (※注 1999/07/27現在)
一方、「大きさ」の方は、風速15m以上の風が吹いているところの半径によって分類されている。
台風の大きさ
ごく小さい……200km未満
小型……………200km以上
中型……………300km以上
大型……………500km以上
超大型…………800km以上 (※注 1999/07/27現在)
小さくてもとても甘いスイカがあるように、「小型で猛烈な」台風もあるのだ。その逆に、「超大型で弱い」台風もある得ることになる。
このような台風の強さ・大きさの基準は1962年に定められたのだが、その当時は中心の気圧や1000ヘクトパスカルの等圧線の半径など、「気圧中心」のものだった。しかし、防災上の理由から、これが「風速中心」の基準にあらためられた。1991年からは現在のものが使われているそうだ。
「ということなんだ。さあ、スイカを食べてみよう」
並の甘さだと思っていたのだが、思った以上に甘かった。「大型で非常に甘い」スイカだった。
【メモ】
◆スイカのことを「ヘンダワネ」というのは、ペルシャ語。
◆スイカの品種の中には、「アイスクリーム」や「ラグビーボール」というのがある。
◆北海道を旅行していて、「太陽」という名前の黄色いスイカを見つけた。写真に納めたので、ぜひ、見てください。
【何コレ展示館 No.023 「太陽」という名のスイカ】◆スイカのふるさとは、熱帯アフリカ。エジプトに残っている壁画から、4000年以上も昔から栽培されていたことが明らかになっている。
◆ドイツの博物学者アダム・ロニツァーにちなんで名付けられたロニセラは、日本語では「スイカズラ(忍冬)」と呼ばれている。
◆「西瓜」はスイカ、「南京」はカボチャ、では、「糸瓜」と書いてなんて読むでしょう?
これは、「ヘチマ」と読む。この問題は、テレビのクイズ番組に出たときに、出題されたのでよく覚えている。
◆ついでに、「乳瓜」とはパパイヤ。
◆夏ミカン、スイカ、路地メロンの生産量が日本一なのは、熊本県。
◆中国では、台風のような風を「颶風(ぐふう)」と呼んでいた。江戸時代の文献には、熱帯低気圧のことを中国にならって「颶風」と書いているものがあるそうだ。
明治に入ると「タイフーン」「大風」と呼ばれていたが、明治の末期、時の中覆う気象台長であった岡田武松が、気象用語として「颱風(たいふう)」を定着させ、それが一般に広まった。彼がタイフーン(typhoon)を「颱風」と訳したわけだ。したがって、「typhoon はもともと日本語だった」というのは間違い。英語のtyphoonは、ギリシャ神話のTyphonが語源のようだ。
◆「颱風」が「台風」になったのは、1946年の当用漢字の制定以降のこと。
◆タイフーンというのは、国際的な取り決めでいうと、最大風速が33m以上のもの。だから「強い台風」でないと「タイフーン」とは呼べない。
◆インドでは、ある基準を越えた熱帯低気圧のことを、「トロピカル・サイクロン」と呼んでいる。また、「ハリケーン」というのは、東経180度以東の太平洋と大西洋にある熱帯低気圧のうち,最大風速が33m/s以上のもの。
◆仮面ライダー1号、2号、V3のベルトには、風車がついている(V3には2つついている)。これは「タイフーン」と呼ばれている。また、1号、2号が乗っていたバイクの名前が「サイクロン」、V3が乗っていたバイクが「ハリケーン」だった。
◆風は強く吹いたり、弱く吹いたり、その強さが一定していない。この現象は「風の息」と呼ばれている。
◆ふつう、風の強さというのは最大瞬間風速か最大風速で表されるが、両者は微妙に異なる。天気予報などでよく聞く「風速」というは、10分間の平均風速のこと。その平均風速の中で、最大のものが「最大風速」だ。
一方、瞬間的にすごい勢いの風が吹くことがある。この強さを表すのに使われるのが、「最大瞬間風速」だ。
◆最大瞬間風速と最大風速の比は、「突風率」と呼ばれる。突風率が高いほど災害が起こりやすいとされているのだが、どうも近年、突風率が上昇傾向にあるらしい。これまでの台風は突風率が1.5程度だったのだが、最近は2を越えることも珍しくない。
◆平均すると、台風は年に約3回上陸するそうだ。しかし、台風がひとつも上陸しなかった年というのもある。1984年と1986年だ。
◆日本では、台風に番号がつけられている。もちろん確認された順番に、番号がつけられることになる。特に被害の多かったものには、「洞爺丸台風(1954)」「伊勢湾台風(1959)」といった固有名詞がつけられることになる。
◆アメリカでは、人の名前をつけて呼ばれている。「カスリン台風(1947)」「ジェーン台風(1950)」などが有名だ。
しかし、「被害をもたらす暴風雨に女性名ばかりをつけるのは女性差別である」ということで、1979年からは男性名と女性名が交互につけられている。
◆記念すべき男性名台風の最初は、「セシル(1979.4.12発生)」だった。
【参考文献】
「天気予報がおもしろくなる108の話」森田正光(PHP)
「理科通になる本」児玉浩憲(オーエス出版社)